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Vol.495 相馬高校陸上教室を通じての高校生とアスリートの成長

医療ガバナンス学会 (2012年5月23日 06:00)


■ 関連タグ

社団法人アスリートソサエティ理事、競輪選手
長塚 智広
2012年5月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


■アスリートソサエティの説明
アスリートソサエティ(以下AS) http://www.athletesociety.org/ では被災地の子供たちへ困難なことに打ち勝つ精神を 養うための「TEAM JAPAN トップアスリートスポーツ教室」(以下TJ)http://teamjapan.ne.jp/ を開催しています。

ASの理事は全部で5人です。陸上の世界選手権銅メダリスト・為末大、北京オリンピック銅メダリスト・朝原宣治、ミスター卓球・松下浩二、ビーチバレー・朝日健太郎、アテネオリンピック自転車競技銀メダリスト・長塚智広です。
ASはアスリート自らが思う問題を解決するため、社会貢献、セカンドキャリアの問題、子ども達へのスポーツを通じた触れ合いをしたい。という思いを持つ者 が集まり、2010年8月に設立されました。アスリート自らが、いわゆる「大人」からの指示を受けずに設立した初めてのアスリート集団であると思います。 現在のトップアスリートの登録は100人を超えました。

■東日本大震災とアスリート
昨年3月に発生した東日本大震災、ASにおいても被災地で私たちも何かしなくては!との思いからアスリートたちが自然と集まり議論をしました。その結果、 自分達にしかできない支援をやろう。とくに日本の未来を担う子どもに、困難に打ち勝つ精神を養ってほしい。大切なのはメンタルケアだ!という結論に至りま した。

その後、被災した子供たちの精神的な影響を調べた結果、いろいろなことが分かりました。阪神大震災、新潟県中越沖地震、北海道南西沖地震など、いずれも震災直後より、時間が経過した方がPTSDが大きくなるという研究報告がありました。
その改善について様々な研究がなされていましたが、トップアスリートが子ども達に対し、直接、継続的に支援した報告は見つけられませんでした。

自分達にしか出来ない。それは共通のスポーツ、キーワードで子どもと一緒に体を動かすこと!
全員一致で「TEAM JAPANトップアスリートスポーツ教室」が誕生した瞬間でした。

■早稲田大学大学院で効果について分析
私は今年の3月まで早稲田大学院の学生でしたが、トップアスリートが子ども達に直接継続的に指導することの効果、被災地の子ども達へのメンタルケア、社会的価値を明確にするために、卒業論文をこのテーマにすることにしました。「被災地におけるトップアスリートによる 継続的スポーツ教室の効果」。桑田真澄さんが在籍した平田竹男ゼミです。

■相馬高校での陸上教室が始まるまで
支援を決定したからといって、すぐに活動が始められるわけではありません。
アスリート達が個々のつながりをもとに支援先を探していましたが、ある町では「市内の全中学校、高校を公平にやっていただけませんか?」とか「いまはそん な状況ではありません」などと返されてしまいました。確かに被災して大変な状況では、スポーツをやりませんか?という問いに応えられるような状況ではなかったかのだと思います。

そのような時に、手を差し伸べていただいたのが東京大学医科学研究所の上昌広先生でした。上研究室の皆様には論文の作成にあたり、朝から晩までご指導を頂きました。心より感謝申し上げます。
上先生は先に福島県相馬市において、いち早く被災地支援活動を開始していましたこともあり、そのインフォーマルネットワークを通じ、相馬高校(当時)の高村泰広先生を紹介していただきました。その高村先生からは陸上教室の顧問の先生をご紹介していただき、人から人の紹介にとても助けられました。また、ボラ ンティアで行く以上はそれなりのコストがかかるのですが、星槎グループ宮澤会長に宿泊費を心配していただき、星槎グループ相馬寮の提供もして頂きました。 これもインフォーマルネットワークに助けられました。

■教室実施 生徒とアスリートの変化
いよいよ第一回のTJ相馬高校陸上教室が6月に開催されることとなりました。
アスリート達は行きのバスの会話の中で、「親が流されてしまった子もいるらしい、NGフレーズってなんだろう?」「俺たち行って迷惑じゃないかな?受け入れられなかったりして。。。」などと全員に大きな不安がありました。

そのような中、なんとか無事に第1回教室をスタートすることが出来、昨年は全5回の開催しました。
参加選手ですが、陸上の横田真人(800M日本記録保持者)、金丸祐三(400M日本代表)、秋本真吾(400H日本代表)、菅野優太(100M)、寺田克也(400M 800M)、細野史晃(3段跳び)、と自分でいうのもなんですが、とても豪華な顔ぶれです。

最初はよそよそしかった子ども達も、回数を重ねる毎に生徒とアスリートとの信頼感が増してく様子が分かりました。
一度だけではない、何回も何回も行って生徒との信頼関係を構築する。生徒からするとテレビで見るような日本代表級の選手が目の前に現れ指導をしてくれてい る。だけど、「自分とは違う別世界の人。。。」というような目で最初は見ていた。それがだんだんと、身近なお兄さん、何でも相談できる人と信頼関係が変 わっていく。トップアスリートの直接の技術指導により、競技記録も同世代年間平均記録よりも、何倍も何倍も伸びてしまう。
相馬高校の生徒は、日本記録保持者から直接トレーニング、技術力、メンタルの指導を受けるわけです。日本一の指導を受けるその高校生たちは、記録を更新で きる自分の自信に満ち溢れ、運動有能感(自分は運動ができる、その力があるという事に気が付く)が高く維持されていました。
具体的な目標設定においても、回を追う毎に上位大会を目標とする生徒が現れ始めました。10月東北大会に出たいと答えたこどもは1人、11月には5人、12月には4人。全国大会を目標にする生徒が2人。確実に競技力、精神力が上向きました。

アスリート側にも大きな変化がありました。
子ども達に尊敬される人間になりたい。 もっともっと記録を伸ばさなくては。小さなことでくよくよしない、子ども達にそんな姿は見せられない。現役を引退 していた選手からは再度現役復帰して、オリンピックを目指す!子ども達の運動環境をよくしたい、これは政治の力が必要だ、俺が選挙に出る!
などなど、自分の環境を前向きに変える選手が増えました。

■終わりに
日本トップのアスリートまでもが、さらなる成長を遂げるこの教室。子ども達、アスリート双方の成長によって、さらなる相乗効果を巻き起こしたいと思います。
日本の未来を担う子ども達の心にもっともっと自信がつくように。AS、TJまだまだ続けていきます!

●長塚智広(ながつか ともひろ)
1978年生。1998年に競輪選手としてプロデビュー。2000年のシドニーオリンピックから3大会連続でオリンピック自転車競技に出場。2004年の アテネオリンピックでは、チームスプリントにおいて銀メダルを獲得。株式や、バラエティー番組に出場するなど、幅広く活躍。2012年3月、早稲田大学大 学院スポーツ科学研究科トップスポーツマネジメントコース修士課程修了。

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