医療ガバナンス学会 (2012年6月5日 06:00)
『ロハス・メディカル』新聞社版2012年6月号に掲載されたものです
川崎医科大学小児科教授
中野 貴司
2012年6月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
私は1987年から2年間、日本政府の国際医療協力事業の一環としてガーナ野口記念医学研究所に派遣され、予防接種のお手伝いをしました。驚いたのは、当 時すでにアフリカ諸国でもワクチンの同時接種が当たり前に行われていたことです。まだ世界的にワクチンの種類も少なかった頃(日本で「同時接種」という言 葉さえまだ使われていない頃)ですが、それでも三種混合、BCG、ポリオ生ワクチンが同時に打たれていました。
アフリカの村落では、赤ちゃんは医療機関でないところで生まれて、その後もよほどでなければ受診することはありません。まして病気でもないのに医療機関に 足を運んでワクチンを打つことなど、考えもよらなかった人々です。25年経った今も、予防接種のチャンスは行う側にとっても受ける側にとっても貴重です。 一度に1種類しか打たないなんて、それこそもったいない、というわけです。
その後もポリオ対策プロジェクトで中国に赴任するなど、世界の予防接種現場に立ち会ってきました。そうして改めて、予防接種は、先進国と発展途上国とを問わず、非常に高い確率で子供たちの健康を守ることができる素晴らしい手段だと実感しています。
ただ、そのメリットをきちんと享受するには、とにかく打てる時期になったらどんどん打つことが肝心です。病気になる順番や重症化の程度は予測できませんから、後回しにしていては間に合わなくなります。となるとやはり、同時接種が不可欠なのです。
同時接種に不安を覚える人がいるのはきっと、「危険はない」と証明するのは「危険だ」と証明するより難しいせいでしょう。確かに予防接種は健康な人に薬の 一種を入れるものですから、より確実な安全性を求められます。しかも、例えば新しい服を着て湿疹が出ても服のせいと気づかない人も、予防接種後に湿疹が出 たらすぐワクチンのせいでは、と疑いたくなるようです。まして同時接種は馴染みがないのでなおさらなのでしょう。しかし、多くは原因が分からないのが実際 のところ。難しいですね。
納得された上で選択していただきたいので、無理強いはしません。ただ、世界中の子供たちが同時接種によって救われているのも事実です。いつか日本でも普通のことになればいいと考えています。