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Vol.554 福島県南相馬市・大町病院から(8) 隣の芝生

医療ガバナンス学会 (2012年7月26日 16:00)


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南相馬市大町病院
佐藤 敏光
2012年7月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


南相馬市大町病院の佐藤です。

入院患者数は70名となりました。6月から定床が70床から80床に増えました。
ベッド数が増えた割には入院患者は増えていません。前回にも書きましたが急性期に対する病床がほぼ充足されてきたことと、慢性期の患者をできるだけ在宅に 戻すことを敢えて行っているためと思います。家族の負担は増えますが、我々医療スタッフやケアマネージャーがサポートすることによって、慢性期患者の在宅 医療を継続させてきました。これも震災・津波が与えた試練と考えれば納得がいきますが、原発事故のためと考えると我慢できなくなります。

一方、80、90歳になっても一人暮らしや老夫婦二人住まいを続ける老人も増えています。このような患者さんが入院した場合、病気が良くなっても介護度が 高度となり、老人だけの暮らしを続けるか老健施設を捜すかの選択に迫られます。相双地区はもちろん、福島県内に受け入れ施設がなく、家族が宮城県まで行っ て捜しようやく見つかった方もいます。(この方は退院直前に急変し、退院できなくなりました。移動中でなくて良かったと思うと同時に、話さなくなった顔に 本人の移りたくないという気持ちが表れているようでなりません。)
どうしても在宅が無理だと思われる患者さんのニーズを踏まえ、8月から療養型病床(24床)を再開することになりました。ただ暫くはこの地区に残った人達 だけの受け皿にならざるを得ません。群馬県に移送した患者の中で入院している患者さん43名、老健施設に入所している患者さん19名を受け入れるには、まだまだ時間が必要です。
一度に戻すわけにもいかず、どの施設から、どのような移動手段で移すか十分に検討を加えなければなりません。311の時のようなバス移動は絶対避けなければいけないと考えています。

療養病床は10:1の看護基準を宛てはめなくとも良くなりますが、急性期の看護師数が減ることになり、月72時間の夜勤時間をオーバーすることが予想され ます。今までは昨年9月の特例措置(夜勤時間、正看の割合等で決められた看護基準)を使わなくてもクリアできていましたが、急性期の患者数が減っても一度 増やした夜勤看護師数を減らすことはできず、(急性期の看護師の)夜勤時間が72時間を越える可能性があります。
2割以内の超過を認める特例措置も9月末までと言われており、まだまだ足りない看護師不足の実情にそぐわない特例措置の終了です。

最近同じ原町区にある渡辺病院が新地町に移転することが本決まりとなったようです。( http://expres.umin.jp/mric/mric.vol554.pdf  )
今まで相馬市か県境の山元町の宮城病院まで行かねばいけなかった新地町民にとっても通勤する職員にとっても空間放射線濃度の低い地区に移ることは羨ましい選択です。
ただ原町区の住民や我々原町区の医療関係者にとっては、正直言って「私達を捨てるのか」という気持ちです。
しかも福島県が13億という補助金を名目は新地町にとは言っていますが、実質的には、1民間病院に与えるという不公平な配分を行おうとしているのです。
本院には渡辺病院から移った(退職した)看護師が2名います。新築移転の渡辺病院は正に『隣の芝生』ですが、本院が(全国から来てくれている看護師にとっ ても)魅力ある病院として生き残れるかどうか、正念場を迎えていると言っても過言ではありません。(河北新報  http://expres.umin.jp/mric/mric.vol554.jpg )

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