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Vol.555 医療事故調査委員会の考え方―中立的第三者機関は不要かつ有害―

医療ガバナンス学会 (2012年7月27日 06:00)


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この原稿は、日本テレビ報道局解説委員高田和男氏主宰「高田塾」(平成24年7月2日)に参加した際の配布レジュメです。

井上法律事務所
弁護士 井上 清成
2012年7月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1. 医療プロセスの内と外(死亡事故を例にとって)
図参照 → http://expres.umin.jp/mric/mric.vol555.doc

(1)死亡事故発生によって直ちに医療のプロセスは終了して紛争・事件と同様の取扱いをしようとする考え方の延長線上に、中立的第三者機関を設けようとす る考え方(II)が生まれがちである。中立的第三者機関を設ける前提には、対立当事者(たとえば、医療機関・医療者対患者家族)の紛争状態のイメージが潜 んでいることが多い。しかし、死亡事故即紛争・事件ではないし、死亡事故即医療プロセス終了(医療プロセスの外)でもない。
(2)死亡事故があっても、医療機関・医療者には、事後の説明をし患者家族の納得をえるよう努める責務があり、これは依然として医療のプロセスである(医 療プロセスの内・Dのプロセス)。医療事故調査委員会は、本来的には事故の事実を医学的・科学的に調査して記録し、できうる限りにおいて医学的・科学的な 原因分析を行う。機能的には、それを院内の医療安全管理委員会に引き継いで再発防止策の案出につなげると共に、患者家族への説明の資料とし事後の説明と納 得のプロセスを支援するものとして構想すべきである(I)。このように考えれば、医療事故調査においては、院内事故調査委員会が中心的役割を果たす。

2. 院内事故調査委員会を中心とする構想
(1)医療プロセスの内―事故後紛争前(CとDのプロセス)
1) 主治医による説明とカルテ開示
2) Aiや病理解剖の活用(死亡原因診断の充実)
3) 院内事故調査委員会(内部委員のみ。但し、専門的知見の補充のために、適宜、外部の専門家を参考人や鑑定人として委嘱)による調査と原因分析
4) Ai、病理解剖、院内事故調査委員会の結果をもとに、医療機関が説明
5) 必要に応じて、メディエーター(医療対話仲介者)を介して、種々の角度より医療機関が説明
6) 患者家族の納得がえられない時には、医療者団体(医師会や病院協会など種々)の設立する専門的第三者機関に申し出て、レビューする(但し、専門的第三者機 関は自ら又は第一次的な調査を行うものでなく、説明と納得のプロセスを検証して、チェックしたポイントをやり直させるべく差し戻す機能のみ)。
7) 患者家族が究極的に、不信もしくは拒絶の意思表示をした場合には、医療プロセスは終了する。

(2)医療プロセスの外―紛争状態・事件化(Eのプロセス)
1) ADR(裁判外紛争解決機関。簡易裁判所の民事調停、弁護士会のADR、医師会のADRなど種々のものがある。)による話し合い
2) 民事訴訟、刑事訴訟による紛争解決(但し、将来的には、医師法第21条の廃止立法や、民事・刑事の医療に即した実体法の制定が必要。無過失補償制度もその一環―なお、医療プロセスの外の制度だけでなく医療プロセスの内の制度も構想しうる。)

3. 中立的第三者機関を中心とする構想(CDE一体のプロセス)
(1)現状
1) 日本医療機能評価機構の実施している産科医療補償制度(但し、5年間で1000億円超の公金埋蔵問題、私的制裁(リンチ)や私的裁判の問題などが伏在している。)という唯一の実例を検証しつつ議論すべきである。
2) かつての厚労省案(第三次試案、医療安全調査委員会設置法案大綱案)は既に医療界においては支持されていない。

(2)不要性
1) 患者家族の個別的具体的な不信を前提とする考え方
医療事故調査機関を患者家族の個別的具体的不信の存在を前提として構想しているが、これは紛争状態・事件化の局面にないものを一般的抽象的に紛争状態・事 件化として固定させてしまっていて、適切ではない。医療事故調査委員会をADRや裁判と混同しているかのようである。「真相『究明』」などという用語もそ の影響下にあろう。仮定性を前提とする「分析」が適切であり、確定性を前提とする「究明」は、医学的・科学的に適切でない。
2) 医療者の「逃避」を黙認する考え方
「逃げない」「隠さない」「ごまかさない」という理念は、基本的に正しいと思う。特に「逃げない」というのは、医療機関・医療者が医療事故に正対し、患者 家族と共に向き合うことである。実際は、医療機関・医療者が中立的第三者機関に「丸投げ」して医療事故から逃げることを黙認してしまいかねない。自ら責任 を持って院内事故調査委員会等によって自律的に医療事故に向き合うことが重要である。
3) 厚労省や関連団体の権限を拡大する考え方
医療事故調査委員会問題を契機に、厚労省やその関連団体の権限を拡大するのは適切でない。医療者個々人、医療諸団体の自律性を醸成する方向性こそが、医療の質の向上と国民の信頼の回復に役立つ。

(3)有害性
1) 医療者の基本的人権を侵害しかねない考え方
黙秘権を認めれば再発防止や改善につながらず、かと言って、黙秘権をはじめとする基本的人権を尊重しなければ医療者の人権を侵害する。中立的第三者機関の 考え方は、この矛盾を解決できていない。もともと再発防止や改善は医療プロセスの内の問題であり、基本的人権の尊重は医療プロセスの外の問題であるので、 その調整は難しい。
そもそも中立的第三者機関が想定する典型的場面は、組織的なモラルハザードが起きている局面であり、限界が大きく不確実な医療において往々にして生じがちな医療事故の局面とは典型例が異なる。
2) 医療崩壊を起こしかねない考え方
「法的処分・責任追及」の恐れは、医療者の自己防衛として医療の半歩後退を招く。医療者の少々の萎縮でも、医療全体のロットを考えれば膨大な萎縮の総計に至り、地域医療をはじめとする医療の後退や崩壊につながる。

4. 医療事故調査委員会は糾問主義・職権主義よりも当事者主義が相応しい
医療と法律の間には大きなくい違いがあり、この2つは必ずしもなじんでいない。医療を法律に合わせるよりも法律を医療に合わせるべきであるところ、医療プ ロセスの内に適応した法律も法律用語も見当たらないので、医療プロセスの外の法律用語を転用する。端的に言えば、中立的第三者機関の考え方は、いわば糾問 主義かせいぜい職権主義と評しえよう。医療が医療機関・医療者と患者・家族という当事者の信頼関係によって営まれるものであることからすれば、医療事故が 起きた場合も同様に、医療プロセスの内においてはやはり第三者に頼らないで当事者のみによって対処されるべきである。これを当事者主義と称してもよいであ ろう。

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