医療ガバナンス学会 (2012年7月30日 06:00)
『ロハス・メディカル』新聞社版2012年8月号に掲載されたものです
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 微生物学分野 教授
西 順一郎
2012年7月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
このコーナーで既に何人もの方が述べられてきたように、乳児をVPD(ワクチンで予防できる病気)から守るには、感染のリスクが高まる月齢までに必要な予防接種を済ませ、免疫を付けてあげることが大切です。
ここで言う必要なワクチンの中には、定期接種化が先送りされそうな水痘やおたふくかぜ、ロタウイルスも含まれます。定期接種のワクチンだけでは足りないこ とは、世界を見れば当たり前の話です。承認され販売されているワクチンは、すべて必要だから販売されています。定期接種のワクチンだけを勧めて、任意接種 のものは勧めないという国の方針は、世界的に見て全く常識外れであり、変えていく必要があると思います。
任意接種のものまで含めて、必要なすべてのワクチン接種をリスクの高まる時期までに済ませるには、どうしても同時接種が必要になります。
しかし、同時接種に恐怖感を持つ方も少なからずいらっしゃるようなので、具体的な調査結果をお示しします。
私たちは鹿児島県で、ヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンの安全性に関して、2009年2月から2011年1月まで計約1万4千接種を調べました。その 結果、単独接種と同時接種とで、重篤な有害事象の頻度に統計学的有意差はいずれのワクチンでも見られませんでした。世界でもいろいろと研究が行われ、差が あるというデータは出ていません。少なくとも両ワクチンについてはないと断言しても構わないと思います。
こういった科学的根拠があるにもかかわらず、医療者の中にも単独接種を推奨する方々がいらっしゃるのは残念です。そうした方々は、見せかけの副反応のリス クを避けたつもりかもしれませんが、接種時期が遅れれば病気にかかるリスクが高まることをお考えいただきたいと思います。
ワクチンが間に合わず病気になるリスクは一般の方々の目に触れないのに対して、接種後に何か異常なことが起きた場合は原因がワクチンでなかったとしても 大々的に報道されるため、接種リスクの方が大きいような勘違いがあると思います。実際には病気になるリスクの方がケタ違いに大きなものです。小児科医は、 接種が間に合わず病気になるお子さんを多数目にしています。そういうお子さんが減ることを、切に願っています。
ただ、こうした理屈を述べるだけでは、親御さんたちの心の奥底に潜んでいる不安までは消せないのだろうとも思います。今まで、小児科医も行政も、不安を解 消するようなリスクコミュニケーションに取り組んでこなかったことは認めざるを得ません。皆が同じ情報を持って、冷静に考えられるよう、正しい情報発信に 取り組んでいく必要があるでしょう。