医療ガバナンス学会 (2012年8月21日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
www.asahi.com/apital/
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2012年8月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
ワシントンポストなどにも掲載されています( http://www.washingtonpost.com/national/health-science/first-study-reports-very-low-internal-radioactivity-after-fukushima-disaster/2012/08/14/aadd1dc2-e628-11e1-8741-940e3f6dbf48_story.html )。この記事はすごく冷静だと思います。
キャンベラ社製のWBCが導入された去年の9月から今年の3月までの検査結果を、大人と子供に分けて報告しています。検出限界以下が、全体で65%、大人で62%、子供で84%という結果です。Cs134とCs137の値の合計がグラフにて掲載されています。
小児1,432人〔女児720人,年齢中央値7歳(6~15歳)〕の中で、235人 (16.4%)からセシウムを検出。身体当たり210~2,953Bq/body (中央値590Bq/body)、体重当たり2.8~57.9Bq/kg (中央値11.9Bq/kg)でした。
一方,成人8,066人 〔女性4,512人,年齢中央値44歳(15~97歳)〕では、3,051人(37.8%)からセシウムを検出。身体当たり 210~12,771Bq/body (中央値744Bq/body)、体重当たり 2.3~196.5Bq/kg(中央値11.4Bq/kg)でした。
値としてはかなり低く抑えられています。チェルノブイリ事故とは状況が異なり、農家の方、ご両親の努力の賜物だと思います。
特に、内容として目新しいことは書いていないと思います。南相馬市が公表している内部被曝検査の結果が英語になっただけです。
しかしながら、世界に対して公式なデータを発表する場を獲得することが出来ました。結果をもとに、現在の状況や問題点、今後の対策などを世界中の専門家が 議論することが出来るようになります。早野先生のおかげでWHOのスタッフとも議論して、現状を共有することが出来ました。
きっと浜通りをはじめとする多くの住民の方々のためになると信じています。形にすることが出来てよかったです。
論文を掲載している医学雑誌は世の中にごまんとあります。論文を作り、その雑誌に「投稿」をします。そうすると、雑誌の編集長を始めとする編集委員会に て、その論文が自分の雑誌に掲載する価値のあるものかが審議されます。良さそうであれば、外部の審査員(査読者)数名に送られ、そこで審査し、受理 (accept)か、却下(reject)かが判断されます。
Rejectされればそれで終わりです。Acceptされる場合も、いくつか注文や書き直しを求められます。今回の論文も、幾度も編集部、審査員とやり取りしながら掲載にこぎ着けました。
できるだけ早く論文の形で公表したいと考えていました。実は論文自体は今年の1月の時点で形になっていました。Nature、Lancetなど(医学雑誌としてランクの高い=影響力の強い雑誌たち)にも投稿しましたが、査読にも回りませんでした。
幸い、JAMAが興味を示してくれましたが、最初は2400wordsぐらいで書いていたものを4分の1に削るよう求められました。
もう少し言いたいこと、入れこみたかった内容がありました。しかしながら、早期にacceptされ公表されることを優先しました。
検査の時期による値の違い(月ごとに検出率が下がっていること)、性別差、値の下がらない人が出始めていることなど色々と言えることがありました。編集部 とのやり取りの中で、シーベルト換算の部分やプルシアンブルーの話、グラフも当初は1Bq/kg単位ではなかったのですが、ヒストグラムに変えるなどとい ろいろありました。
今回の報告で、一番気にしなければならないのは、representativeness、つまり今回の検診に参加された方々が、母集団をしっかり反映して いるかという問題です。内部被曝を気にしている人ばかりが受診していて、本当は日常生活で大量に被曝しているかもしれないのに、全く気にしていないので受 診していない可能性があります。以前ご紹介させていただいた、最高値かもしれない方などがそうです。
その意味で、この論文の結果は、(程度は小さいと思いますが)現状を過小評価している可能性はあります。子供は、親が比較的気にしており、受診率が高いの ですが、大人、特に高齢者で気にしていない傾向がある可能性があります。今後このような方々をいかに早期に発見し、対応出来るかは課題です。
それに加えて、子供の計測の難しさや、検出限界の問題など、クリアして行く問題がまだまだあります。
医学雑誌に掲載されたから明日から世の中が変わる訳ではありません。
繰り返しになりますが、情報発信を繰り返すことこそ重要で、今後のよりよい対策のための礎になってくれればと思うばかりです。今回発表できなかったことも、少しずつ形にして行くつもりです。
この発表には、本当に多くの方にお世話になりましたが、特に東大国際保健学、渋谷研のStuart先生と相馬中央病院の加藤茂明先生には本当にお世話になりました。お礼申し上げます。
野馬追い、暑かったですね、皆様お疲れさまでした。圧倒されました。
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https://aspara.asahi.com/blog/hamadori/entry/99pw3x2Ygn