医療ガバナンス学会 (2012年9月13日 06:00)
私は、アメリカのスーパーマーケットで、牛乳、ヨーグルトやバターなどの乳製品を買う時、『no artificial growth hormone』、『not treated with rBGH』という表示を探します。これは、『成長ホルモンを使用していない牛からの製品ですよ!』という意味です。現在、アメリカの牛の約20%に、遺伝 子組み換え牛成長ホルモン(recombinant Bovine Growth Hormone: rBGH)が投与されています。rBGHを投与すると、乳牛の成長が早まり、乳量が約15~25%増加し、乳を出す期間も平均30日ほど長くなります。た だし、rBGHを注射した牛は、乳腺炎になりやすいため、抗生物質を投与しています。従って、牛乳に抗生物質や膿汁が混ざる可能性があります。さらに、 rBGHを投与した牛から採れた牛乳にはIGF-1が非常に高レベルで含まれています。
IGF-1は、細胞の成長や分裂の促進、細胞死を抑制し、私たちの健康維持や成長に非常に重要なホルモンです。しかし、IGF-1を過剰に摂取すると、異 常な細胞増殖、すなわちがん化につながり、膀胱がん、前立腺がん、乳がん、大腸がんの発症リスクとの関与が指摘されています。牛乳中のIGF-1の体内へ の吸収のメカニズムや、がん細胞の増殖への関与は不明ですが、先進国で唯一のrBGH認可国であるアメリカでは、消費者の不安は高まっています。日本、 EU、カナダ、オーストラリアなどでは、rBGHの使用を禁止しています。しかし残念なことは、rBGHの表示が義務付けられていないため、輸入された乳 製品や牛肉の状況はわからないことです。実際、食生活の欧米化に伴い、私たちの病気の傾向が変化しています。私は、今後、この問題を慎重に考えていくべき だと思います。
さて、実はIGF-1にはもうひとつの顔があります。IGF-1は、成長ホルモンなどの成長を促進するホルモンの仲間です。これらのホルモンは、加齢によ り30歳から急激に低下します。そのため、老化に伴う体の変化が起こります。従って、IGF-1のレベルを保つことで、老化を遅らせることができる、すな わちアンチエイジングの効果があると言われています。
1990年、アンチエイジング医学は、ダニエル・ラドマン博士らによって大躍進いたしました。博士らは、ヒト成長ホルモンを、61歳~81歳の健康な男性 に投与し、身体的な若返りを認めたことを、世界でもっとも権威ある医学誌『The New England Journal of Medicine』に報告したのです。この報告は、世界中に流れ、いつまでも若々しくいたいという人々の夢が現実になるような、衝撃的なニュースでした。 その後、アメリカのハリウッドスターやセレブなどを中心に、高価なヒト成長ホルモンの補充療法が行われていますが、本当に効果があるのか?副作用は?長期 的にはどうなるの?など、様々な疑問があります。ラドマン博士らの研究では、体脂肪の減少や骨密度増加を認めたと報告されましたが、身体機能が改善される かは不明です。実際、アメリカでは、成長ホルモンをアンチエイジングの治療につかうことを、FDAは未だ承認していません。
体内ではたくさんのホルモンが微妙なバランスを取りながら、私たちの体と心の健康を維持しています。病気のために、ホルモンが上手く分泌されない場合、専 門の医師の指示によるホルモン補充療法は、非常に重要な治療となります。しかし、加齢に伴ってホルモンの分泌が変化するのは、私たち誰もが経験することで す。従って、商業目的のために乳製品に入っているIGF-1の摂取をすること、アンチエイジング目的のために高価なホルモン注射をすることが、私たちの体 や心に何を意味するのか、真剣に考えるべきと思います。
実は、成長ホルモンは、運動後と睡眠中に分泌されますから、自分で作れるのですよ!『寝る子は育つ』といいますが、子供だけではなく、私たち大人だって育ちます。自分の体内で作ったホルモンですから、とても安くて、安全ですよ!今日から是非試してみて下さい。
<参照>
ロハス・メディカルのブログ「大西睦子の健康論文ピックアップ」
「牛乳とがん」
http://lohasmedical.jp/blog/2012/08/post_2554.php
「ホルモン注射で、あなたの脳も若返る!?」
http://lohasmedical.jp/blog/2012/09/post_2557.php