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Vol.632 現場からの医療改革推進協議会第七回シンポジウム 抄録から(7)

医療ガバナンス学会 (2012年10月30日 18:00)


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2012年10月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

セッション7:11月11日(日)12:30~14:00
吉野 ゆりえ
森田 達也
松井 彰彦
宮野 悟

会場:東京大学医科学研究所 大講堂
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希少がん「肉腫(サルコーマ)」と闘いながらの診療改善活動と現在の問題
吉野 ゆりえ

私は世界的に「忘れられたがん」と呼ばれる希少がん「肉腫(サルコーマ)」であるとがん告知を受け、「5年生存率7%」といわれる中、7年間で9度に及ぶ 再発転移手術を克服してきました。4年前、自分自身が肉腫患者であることをテレビや拙著で公表。啓発活動を続ける中、日本には一つも存在しない「サルコー マセンター」(肉腫専門診断治療施設)を日本に設立しようと、日本に「サルコーマセンターを設立する会」を発足しました。当会は、患者・患者家族・医療 者・サポーターが同じ目的を持って協働する会です。
発足1周年には、肉腫啓発マンガパンフレット『肉腫ってなぁに?』を自費制作、全国の患者さんに配布。米国のサルコーマセンターも視察しました。当会の働 きかけをきっかけとして、国立がん研究センター中央病院内に日本初の「肉腫診療グループ」が誕生、「サルコーマカンファレンス」、患者向けの「肉腫ホット ライン」も設置されました。そして先日、がん研有明病院内に「サルコーマセンター」が開設されるに至りました。
肉腫は、腫瘍マーカーも存在せず、深部であるために画像診断・希少であるために病理診断が難しく、有効な薬や治療法もほとんどない状況です。その上血液転 移のため再発転移が多く、身体的・精神的・経済的負担が大きい疾病と言えます。故に、高額療養費制度を利用しても医療費が嵩み、薬を減らしたり治療を中断 やあきらめざるをえない患者も少なくありません。また、医療関係者側の都合で薬や治療に制限が存在する場合もあります。可能性があるならば患者が納得した 上で治療を受けられるような、患者が希望を持ち続けられるような、医療体制・経済体制を切望してなりません。
この度、東京大学経済学部の松井彰彦教授をはじめとして、全盲ろう者で東大先端研の福島智教授や、ろう者でジェトロ・アジア経済研究所の森壮也主任研究員 などと一緒に、「社会的障害の経済理論・実証研究」に私が長期療養者の当事者として関わらせていただく機会を得ました。当事者・医療者・経済学者がコラボ して、上記のような問題を検討していければと願っています。

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地域緩和ケアプログラムの介入試験
OPTIM-studyから得られた教訓:大事なことはそこにある
森田 達也

OPTIM-studyは、わが国で初めて行われた緩和ケアの地域介入研究であり、国際的にももっとも大規模なものである。
OPTIM-studyの特徴は、アウトカムの変化を取得したのみならず、そのプロセスの評価が可能なように「comple x interventionに対するmixed-method study」として行われたことである。地域緩和ケアプログラムを行った結果、自宅死亡率が全国平均に比較して有意に増加し、患者の希望に一致したもので 家族の介護負担も増えなかった。患者の緩和ケアの質評価、遺族の緩和ケアの質評価も改善した。
医師・看護師の困難感、特に、地域連携に関する困難感の改善が最も大きかった。プロセス研究の結果からは、変化をもたらしたものは、新しい施設の設置など ではなく、地域にすでにあったリソースが多職種協働の結果有効に使用されたOPTIMizeされた)ことであった。「顔の見える関係」の概念がどうして地 域連携や患者アウトカムの改善につながるかの概念的枠組みが構築された。同じ結果は国際的に行われている地域緩和ケアプログラムでも結論されている(例え ば、イギリスで行われているGold Standard Framework)。地域緩和ケアの普及というとなにか特別なことをする枠組みを設定しがちであるが、本当に重要なことは、すでに「そこにある」ことを 示したい。
Morita T, et al. A region-based palliative care intervention trial using the mixed-method approach: Japan OPTIM study. BMC Palliat Care. 2012;11:2

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「未来はとっくにはじまっている*」―ヒトゲノム解読から10年後
宮野 悟

生物のDNA情報を読み取る装置は一般にシークエンサーとよばれ、A, T, C, Gの文字で綴られるDNA情報(ヒトの場合30億文字の情報)をコンピュータで読めるように取り出すことをシークエンスとよんでいる。半導体チップで DNAを読む革新的なシークエンサーの実用化により、2013年には誰もが自分の全DNA情報を10万円で丸ごと手にいれられることが確実になった。さら に、1万円ゲノムを実現するナノポア半導体シークエンサー技術も実用化されている。これまで主に生物や病気の「研究」のために行っていたシークエンスに対 し、がんや患者さんの全DNA情報をシークエンスし、臨床的に翻訳・解釈し、治療として「患者さんに戻す」臨床シークエンスの時代が始まった。医療のビッ グデータが誕生する。米国NIHは2011年6月29日~ 2012年5月3-4日、” Genomic Medicine” の会議を3回開催し(http://www.genome.gov/27548693)、その内容をYouTubeも含め広く公開している。
そこでは、このシークエンス技術の急速な発展に応じて、DNA情報に基づく個別化医療をすすめる研究者、検査の提供側、医療保険会社、クラウド会社などが出席し、国を挙げて取り組んでいる様子が見える。
ヒトゲノム解読から10年、「日本は夢物語」にいるなか「米国では明日の問題」となっていた。2009-2011年、米国ウイスコンシン医科大学において 世界で初めての全遺伝子解析に基づく治療が行われた。それはGenomic Medicine IIで報告されている。そして、その感動的なレポート記事”One In A Billion” に2011年Pulitzer賞が与えられた。米国NIH所長フランシス・コリンズ博士は、2012年予算要求演説の中でこの治療によって元気になった Nick Volker君(6歳)のストーリーを引用し結論を締めくくっている。その後、2011年12月6日に米国NIHはDNAシークエンスに基づく医療応用研 究に4年間で約400億円を投じる発表している。隣国のカナダにおいても、2012年2月2日、Ontario Institute for Cancer Researchは、主ながんのゲノム異常カタログという国際がんゲノムコンソーシアムの成果に基づき、がんの臨床シークエンスによる個別化医療の研究開 始を発表している。そして、2012年6月20日には、トロントの子供病院SickKidsは、半導体シークエンサーを導入し、将来的には、1万人/年の 規模で全ゲノム臨床シークエンスをすることを発表している。東京大学医科学研究所も、スーパーコンピュータをフルに活用した全DNAシークエンスに基づく がんの医療研究を消化器がんと血液腫瘍について行う準備を進めている。
*フランシス・S・コリンズ著(矢野真千子訳)「遺伝子医療革命」の第1章のタイトル

 

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