医療ガバナンス学会 (2012年10月30日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://www.asahi.com/health/hamadori/
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2012年10月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
1年前の今頃、僕らはホールボディーカウンター(WBC)がたたき出す数値に、驚くと同時に妙に納得していました。
2011年8月から子供を対象の検査を始めました。そのころ使っていた器械では、2000人検査をして、検出限界以上の値が検出されたのは6名でした。数にして全体の1%にも満たない人数です。
その後、2011年9月末にキャンベラ社製のWBCが導入されました。これは当院としては3台目の器械だったわけですが、それを使い始めた途端、100人中70人近くの子供から放射性物質を検出したのです。
大人からは、それ以上の率で値が検出されていきました。上にも書きましたが、その値を見て、驚きつつも納得しました。ほとんどの方の体内放射能量が、2台目と3台目、それぞれの器械の検出限界の間に存在していたのです。
例えば、1000Bq/bodyは2台目の器械では検出限界以下(約1500Bq/body)なので検出しないが、3台目では検出できる(検出限界は250~300Bq/body)わけです。
その当時、この2台の検査器をもって、多くの子供の体内の内部被曝量がそれぐらいの値にあることを知りました。
ただ、対応に苦慮したのが公表でした。「100人中70人からも検出してしまう」という事実だけが先行し、値がどれくらいかということはあまり伝わりませんでした。
その当時、ベクレルの形で内部被曝が公表されている場所はありませんでした。どれくらいの値か皆分からず、右往左往していた時期、「70%の子供からセシウム検出!!」みたいな話は、色々な意味で格好の的だったのです。
いちばん辛かったのは地元の医療スタッフから、「ああ、公表しちゃったんですね」みたいな目で見られた時でした。
話を戻しますが、「検出する」または「検出しない」の話ではありません。どれくらいの数値かが問題です。検出限界が変われば、検出率なんてものはどうとでも変わります。
出るか出ないかだけの話しをするのなら、1960年代の大気中核実験の影響などで、日本中の多くの水からミリベクレル(mBq)ぐらいのレベルでストロンチウムは検出されます。プルトニウムも0か1かにはなりません。
ただし、検出するかしないかという分け方は、非常に理解しやすいし、現実的に気持ちにダイレクトに響きます。数値を見て判断することが大事なのに、「検出しない」→「大丈夫」、「検出する」→「大丈夫じゃない」みたいな構図は簡単に出来上がってしまっています。
食べ物も一緒です。世の中に存在する基準値も同じようなものです。「検出しない」→「大丈夫」とだけ理解するのは、この部分だけが強調されると誤解を生みます。
現在の器械で検出しなくても、より高性能な器械で計れば検出することもあります。尿を大量にためて、長時間計測を行えば、検出率はもちろん上がります。
今のところ検出率は、同様の場所での時間経過による推移(トレンド)で見るときしか有用では無いように思います。どこかの記事で見ましたが、最近のWBCの結果も検出限界を書かずに検出率で結果を示しているものも散見されます。
分かりやすく説明することと、正確に数値を伝えること。このバランスは難しいと感じますが、繰り返し発信することで伝えていくしかありません。
写真:先日は、南相馬で行われた教員免許講習にてお話してきました。星槎(せいさ)大学の細田先生が司会進行をされていました。色々な地域をカメラでつないで行いました。多くの方に現状を共有して欲しいと思っています。
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http://www.asahi.com/health/hamadori/TKY201210260193.html