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Vol.669 マドリッド宣言の誤った認識が、日本医師会の本来の「あり方」を歪めている

医療ガバナンス学会 (2012年12月5日 06:00)


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健保連 大阪中央病院
顧問 平岡 諦
2012年12月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


「医療にさまざまな強制力が行使された際に患者の被る不利益を想像すれば、最善の医療が眼前の患者に対して、強制によらず自律的な姿勢によって遂行される 重要性は、広く理解して頂くことが可能だと考えられる」(石井正三・常任理事、「プロフェッショナル・オートノミーについて」、日医ニュース (2012.11.20)「視点」欄)。これはまさに正論です。「強制によらず自律的な姿勢」の医師、このような「医師のあり方」を世界医師会(WMA) はClinical independence、あるいはClinical autonomyと呼んでいます。Independenceは強制からの自立を、autonomyはカントのautonomyの概念を個々の医師に当ては めたのです。

「強制によらず自律的な姿勢」を貫くことは、ときには個々の医師にとって難しいことです。そこでWMAはそのような医師をバックアップするための「医師会 のあり方」を考えました。その「あり方」とは、まず「強制によらず自律的な姿勢を貫く」ことを医師会として宣言(profess)することです。これは independenceを宣言したことになり、同じ姿勢の会員医師を励ますことになります。そして「強制によらず自律的な姿勢」を貫けなかった医師(倫 理違反を犯した医師)を処罰・再教育するための自浄システム(a system of self-regulation)を持つことです。意志の弱い医師のバックアップになります。このような医師会の「あり方」をWMAは Professional autonomy(医師会としての自律)と呼んでいます。カントのautonomyの概念を人格とみなした医師会(法人とよばれます)に当てはめたからで す。この内容を述べているのが『マドリッド宣言』であり、『マドリッド宣言改訂版2009』です。

以上のWMAの考えが日本の医療界に浸透しないのは、日本医師会の「誤った認識」がそれを妨げているからでしょう。日本医師会は「WMAの考えを隠した い」という「意図」を持っているようです。その元に「満州での731石井部隊事件」という「非人道的な人体実験」を隠したい日本医学会の意向があったので しょう。詳しくは拙稿、「医療倫理から見た日本医師会の良くなった点、いまだ悪い点」(MRIC Vol. 654. 2012.11.15 配信)を参照してください。『マドリッド宣言』にあるつぎ文章は医師会内の自浄システムの必要性、すなわち「医師会のあり方」を述べている文章です。原文 とともに日本医師会訳と筆者の訳を示します。
―The medical profession itself must be responsible for regulating the professional conduct and activities of individual physicians. (日本医師会訳)医師自身が自己の職業的行為を律することに責任を負わなければいけない。(筆者の訳)医師集団自身が、個々の医師の職業的行為を律するこ とに責任を負わなければいけない。
日本医師会の訳では「個々の医師のあり方」を述べていることになります。これは「the medical profession」と「individual physicians」との区別を無くしたための「誤訳」です。一例を挙げましたが、このような「profession」に関する「誤訳」はWMAの他の 宣言などでも一貫して出てきます。したがってこれは「意図的な誤訳」でしょう。

つぎに、先の石井正三・常任理事の「プロフェッショナル・オートノミーについて」の内容について検討します。その内容を要約すると次のようになります。第 一に、『マドリッド宣言』は基本的な医師のあり方に触れたものであり、第二に、医師のあり方の基本的な概念を表しているのがプロフェッショナル・オートノ ミーという言葉であり、第三に、『マドリッド宣言』を二つに分け、プロフェッショナル・オートノミーという概念を中心に纏めたのが『ソウル宣言 2008』、残りの実践的な面を記述したのが『マドリッド宣言改訂版2009』だということです。
氏の認識はこれまでの日本医師会の他の理事らの認識と同じです。『マドリッド宣言』を「医師会のあり方」ではなく「個々の医師のあり方」を述べた宣言であ るとしています。また「プロフェッショナル・オートノミー」を「医師会のあり方」ではなく「個々の医師のあり方」を示すことばと捉えているのです。これら は「誤った認識」です。「WMAの考えを隠したい」という日本医師会の「意図」に強制された「誤った認識」というところが本当でしょう。この「誤った認 識」が日本医師会の本来の「あり方」を歪めていることが問題となるのです。日本医師会の本来の「あり方」については、拙稿「医療事故調査を含む自浄システ ムを持つのが、あるべき日本医師会の姿」(MRIC vol. 625. 2012.10.25. 配信)を参照ください。
石井正三・常任理事は、座長として取りまとめたという『マドリッド宣言改訂版2009』を原文でもう一度読み直してみてください。8項目中4項目には National Medical Associationsを主語にして各国の医師会がなすべきこと、すなわち「医師会のあり方」が記載されているのです。あなたの文章は、他の理事と同様 に、会員に誤った認識をもたらすのです。

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