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Vol.681 医療の法律処方箋

医療ガバナンス学会 (2012年12月19日 06:12)


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―梯子を外された日医・事故調案 これでもう、医療事故調は要らない

この原稿はMMJ(The Mainichi medical Journal 毎日医学ジャーナル)12/15号より転載です。

井上法律事務所 弁護士
井上 清成
2012年12月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1. 厚労省が日医の梯子を外した
小松秀樹医師(亀田総合病院副院長)が月刊集中12月号に「医療事故調問題の本質」と題する論稿を載せた。「日本医師会は全国の医師に対し、医師法21条 問題に対応するために医療事故調が必要だと説得してきた。ところが、2012年10月26日、厚労省の第8回『医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関 する検討部会』で、厚労省医政局医事課長の田原克志氏が、厚労省に協力してきた日本医師会の梯子を外してしまった」らしい。「厚労省が、医師法21条の解 釈を明確にし、『リスクマネージメントマニュアル作成指針』の解釈を変更した。最高裁の判断を根拠にしており、覆ることは考えられない。これで医師法21 条問題はほぼ解決したとしてよい。」というが、全くそのとおりだと思う。

2. 厚労省医政局医事課長の注目発言
エムスリーの10月29日付けの記事「『診療関連死イコール警察への届出』は誤り  厚労省が医師法21条の解釈を改めて提示」を引用する。
「厚生労働省の『医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会』の10月26日の第8回会議で、異状死体の届出を定めた医師法21条に関し、同省医政局医事課長の田原克志氏が二つの注目発言を行い、興味深い展開となった。
一つは、2004年の東京都立広尾病院事件の最高裁判決を引用し、『医師が死体の外表を見て検案し、異状を認めた場合に、警察署に届け出る。これは、診療 関連死であるか否かにかかわらない』という解釈を改めて示した点。『検案の結果、異状がないと認めた場合には、届出の必要はない』(田原氏)。
もう一つは、同省が2000年に作成した『リスクマネージメントマニュアル作成指針』の解釈を示した点。同指針には、『医療過誤によって死亡又は傷害が発 生した場合又はその疑いがある場合には、施設長は、速やかに所轄警察署に届出を行う』と定めている。田原氏は、(1)指針は、国立病院・療養所および国立 高度専門医療センターに対して示したもので、他の医療機関を拘束するものではない、(2)医師法21条の解釈を示したわけではなく、『医療過誤によって死 亡または傷害が発生した場合の対応』を示しているーと説明。
1994年の日本法医学会の『異状死ガイドライン』では、医師法21条に基づく届出対象として、『診療行為に関連した予期しない死亡、およびその疑いがあ るもの』も含めたため、医療現場からは『異状死体の定義の拡大解釈』との批判が出たものの、『リスクマネージメントマニュアル作成指針』が同ガイドライン を後押ししたと解釈されていた。
2004年の最高裁判決後も、『診療関連死も医師法21条に基づく、警察への届出の対象』と解釈する医療者は少なくない。しかし、田原課長の二つの発言 で、診療関連死がすべて警察への届出対象であるわけではなく、あくまで『死体を検案して異状がある時』に限られることが改めて示されたことになる。 2004年の最高裁判決では、『検案』とは、『医師が死因等を判定するために死体の外表を検査すること』との解釈を示している。
26日の会議のテーマは、『捜査機関との関係について』。田原課長の医師法21条の解釈もその一環で示された」とのことであった。

3. 医師法21条問題はほぼ解決
医師法21条問題の根底は、実は、「異状イコール事故」と無意識に結びつけてしまう、誤った呪縛にほかならない。その「異状」と「事故」の鎖を断ち切り、 「異状」は「外表」で割り切り、「事故」は別物と主張し続けていたのは、「日本の医療を崩壊から救った最大の功労者である」佐藤一樹医師(小松医師・前 掲)であった。その主張の趣旨が厚労省に取り入れられたということであり、そのお陰で、呪縛から解放されたのである。
裁判例でも、既に福島県立大野病院事件の2008年8月20日判決によって、医師法21条では診療行為が無過失のときには届出義務がないとの解釈も示され ていた。医事課長発言と福島地裁判決とで、外表と無過失とを組み合わせて利用できることを考えれば、まさに小松医師の評価のとおり、「これで医師法21条 問題はほぼ解決したとしてよい」のである。

4. 日医案はもう不要
日本医師会は、この9月に「診療に関連した予期しない死亡の調査機関設立の骨子」(日医案)をまとめていた。日医案は、医療事故調査を行う第三者機関への 届出を制度化することにより、診療関連死を医師法21条の異状死体の届出義務の対象から外すことを制度として構築したものである。つまり、医師法21条対 策にすぎない。いわゆるモデル事業を継承した日本医療安全調査機構も、事故調に関する報告書を出していたが、それも日医案を骨格とする内容になっていた。 つまり、日医案も日本医療安全調査機構案も同じなのである。
しかし、医師法21条問題が解決してしまったので、もうこれ以上、医療事故調は要らない。中立的第三者機関たる医療事故調は、その創設の根拠を失ったのである。
現に、10月28日に開催された日本医師会臨時代議員会でも異論が続出し、日医案は再考を迫られたらしい。エムスリーの10月30日付け記事「日医、事故 調案の再考迫られる。『拙速』との批判続出、プロジェクトチーム設置へ」でも、「医師法21条の呪縛から解き放たれて、真に医療事故の原因の調査分析を行 う機関の設置を検討できる。その意味でも、日医骨子案の拙速な進行は再考すべき」(兵庫県代議員の岡田究氏)、「(医師法21条の)解釈を戻すだけでい い」(長崎県代議員の佐藤健次郎氏)などの批判が紹介されている。

5. 中立的第三者機関の呪縛からも解放を
中立的第三者機関などという医療事故調は、医療と医療現場の実情、そして医療者の人権をいずれも看過した机上の空論にすぎない。それは、一部の弁護士、一 部の法律学者、一部のマスコミ関係者の思惑によって創られた産物のように思う。日本医師会をはじめとする医療者が、早く中立的第三者機関の呪縛から解き放 たれることを期待する。

 

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