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Vol.685 ワクチン悲喜こもごも その4 178億円の補助金返還 やはり”詰んでる”厚労省

医療ガバナンス学会 (2012年12月23日 06:00)


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この原稿は「医薬経済」2012年12月15日号より転載です。

健康政策評論家
堀米 叡一
2012年12月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


11月22日、ニュースの話題が解散総選挙一色へと変わりつつあったため世間の注目は集めなかったが、業界にとっては驚天動地のことが起こった。阪大微生 物病研究会(ビケン)が新型インフルエンザワクチンの開発を中止し、交付済みの補助金約178億円を全額返済することになった、と厚生労働省が発表したの だ。これほど巨額の補助金返済は前代未聞のことだ。 この補助金事業は、新型インフルエンザのパンデミックに備えて、全国民が接種できる量のワクチンを半年で国内生産できるよう、生産設備などを13年度中に 整備しようというもの。09年、ブタ由来新型インフルエンザが発生・流行した際に国産ワクチンが足りず輸入せざるを得なくなったことから、厚労省と政権喪 失直前の与党・自民党とが一体となって枠組みを決めた事業だった。 従来のインフルエンザワクチンは発育鶏卵でウイルスを培養、製造されてきたが、パンデミックが発生してから鶏卵を手配していては、全国民1億3000万人 分のワクチンを製造するのに1年半から2年かかってしまう。そこで、動物などの細胞でウイルスを増殖させる細胞培養法によって生産することをめざした。 厚労省が昨年8月、助成を申請した6社のなかから武田薬品、化学及血清療法研究所(化血研)、北里第一三共ワクチン(北里)、ビケンの4社を採択。補助金 計1019億円を交付し臨床試験実施と製造工場建設を進めることになっていた。ビケンへの補助金は約240億円で、2500万人分を担当するはずだった。 いったい何が起こったのか。

●異なるニュアンス
ビケンのプレスリリースによると、生産設備の整備と臨床試験を並行して進めてきたのだが、第I相と第II相の臨床試験を行った結果、1)めざす免疫原性を 得るには抗原量を想定の数倍に増やす必要がある、2)それをすると半年で2500万人分を製造できない。2500万人分をつくるには数倍の製造設備が必要 で、それだけの設備投資は困難、3)抗原量を増やしたものの臨床試験を第I相から改めて行う必要があり、13年度中の事業終了は不可能。1年遅らせたとし ても困難、4)抗原量を増やした場合、安全性に懸念がある──などといった理由で補助金事業から撤退し、別の方法で新型インフルエンザワクチンを開発する という。 この撤退、確かに驚きではあったが、まったく予兆がなかったわけではなかった。 9月に厚労省が行った事業の中間評価で、武田、化血研の2社は「問題なし」のA評価だったのに対して、北里は「臨床試験の実施に大幅な遅延」、ビケンは 「全体的に大幅な遅延」が認められることなどから、「やや問題あり」のB評価だったのだ。 厚労省の資料によると、B評価の2社に対して、「将来の我が国のワクチン産業の発展のためにも、技術開発上の困難を乗り越え、事業の実現が望まれる」と まったく同じコメントが記されていた。 実は、A評価の2社は武田がバクスター、化血研がグラクソ・スミスクラインという外資メーカーから、それぞれ細胞培養の技術供与を受けている。B評価の2 社は、国内技術を使おうとしていたのだった。 今回のビケンの決定に話を戻すと、厚労省は「中止」と発表したが、ビケンは「方法の変更であって開発は行う」と発表している。「開発できないからやめる」 のと、「補助金事業からは降りる」のとでは、明らかにニュアンスが異なる。 そして、関係者の話を総合すると、どうやら正しいのは後者のようだ。何百億円もかけて生産設備を増強したところで、ワクチン1億3000万人分を国が毎年 買うはずもなく(そんなことができるのなら、定期接種のワクチンを増やすことに苦労はしない)、パンデミックまで設備が遊んでしまうことは明らかだ。年間 売上高300億円程度のビケンには負担が重過ぎる。身の丈に合った工場を有効活用するほうが賢い。 何が何でも独自開発させようとした事業設計に無理があったことが示唆される。もともとビケンは柔軟に経営判断をしたかったのに、国産にこだわる政府・与党 から無理やり申請させられたという噂もあり、中間評価に記された「全面的な遅延」からはビケンの確信犯的サボタージュすら窺える。 いずれにせよ、厚労省による護送船団方式から国内メーカーも降り始めたことは確かだ。

●北里は進むのか
すでに述べたように、事業に手を上げたのは4社だけではなく、ほかにもノバルティスファーマとUMNファーマが助成を申請していた。 このうちノバルティスは、海外で細胞培養ワクチンを供給してきた実績があるため、選から漏れた後で厚労省に説明を求め、「選考基準が不透明だ」と担当者が メディアに不満をブチまけている。 当時、「同社によると評価委は『ワクチンの製造技術はあると考えられるが、日本国内に導入を考えているワクチンの開発実現可能性は不明』と指摘していると いう。(中略)厚労省からは『13年度中の承認取得に間に合わない可能性がある』『パンデミック発生後6ヵ月以内に4000万人分の供給を確約できない』 などの説明があったという」(日刊薬業11年9月1日付)と報道されている。 この厚労省の「説明」は意味不明だし、ビケンが撤退した今となってはブラックジョークとしか思えない。 そして今、業界関係者が大いに心配しているのは、ビケンと同様に独自開発の道を進みB判定だった北里は大丈夫なのか、ということだ。中間評価の資料を見る と、ビケンと同様に抗原量を増やさざるを得ないことになって、第I相から臨床試験をやり直している。しかも担当は「4000万人分」だ。新たな設備投資に 果たして耐えられるのだろうか。 北里までが撤退という事態になれば、鳴り物入りで始めた事業なのに国民の半数分しか製造能力を確保できなかったということになる。そうなったときには、4 社を選んだ過程を白日の下に晒させ、国民の審判を受けさせる必要が出てくるのでないか。 厚労省はビケンの撤退を受けて、事業の実施期間を14年度まで延長、ビケンに渡すはずだった補助金分を上限に改めて公募を行い、新たに2500万人分の事 業者を採択するという。 本当なら、この年度跨ぎが発生した時点で責任問題が出てくるし、選考過程も問題にされるはずだが、現時点ではそのような話は聞こえてこない。 年度跨ぎを平気で行えるのは、「未承認薬等開発支援センター」という社団法人が、基金を管理して交付する仕組みになっているからだ。ちなみにセンターは、 民主党政権誕生直前の09年5月に設立されて基金も積まれたが、交付が始まったのは11年度に入ってから。民主党が当初は「ムダ削減」を前面に押し出して いたことを考えると、そういう面からも”香ばしい”話ではある。 民主党が与党でいる間にビケンが撤退を公表すれば、民主党が社団法人の基金の管理に対して調査をしたかもしれない。解散後に発表したのは、厚労省や自民党 に対する最低限の気遣いだったのかもしれない。

医薬経済社

http://www.risfax.co.jp

雑誌医薬経済2012年12月15日号

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