医療ガバナンス学会 (2012年12月26日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2012年12月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
先日、相馬市でのガラスバッジの検査結果が公表されました。( http://www.city.soma.fukushima.jp/0311_jishin/glass/h24/index.html )
市の配布するガラスバッジで今年の7月から9月の間、4135人の中学生以下の小児、妊婦さんが検査を受けました。3カ月分の値を単純に4倍し、年間線量 を推定し、1mSv/year以上だったのは125人(3.0%)でした。各学校別、地域別、学年別、性差などについても言及しています。
幸いなことに、かなり線量が下がってきていることが分かります。相馬での外部被曝線量は上記の通り、そして内部被曝検査の結果( http://www.city.soma.fukushima.jp/0311_jishin/kenkou_sindan.html )では、小児で99%が検出限界以下に抑えられています。年齢によって計算値は変わりますが、大多数の小児で外部内部被曝を足し合わせた年間の追加被曝線 量が、あったとしてもいわゆる1mSv以下に抑えられてきています。
そして多くの方で、去年より値が下がり傾向であることが確認されました。2648人が昨年度も検査をしていますが、95.7%にあたる2533人の値が低 下傾向、平均0.3mSv/yearの減少でした。115名は去年より値が高くなりましたが、特定の地域に偏った結果ではありませんでした。これは、中通 り、浜通りなど自治体によって状況はかなり異なるようです。
空間の線量の値が比較的高い地域では、値が高くなる傾向があり、最高値は3.6mSv/yearでした。1.6mSv/year以上であった16名に関しては、その詳細を公表しています。
早野先生のご尽力で、リアルタイム線量計がご家庭、公共施設に導入され、全体的な線量は低下傾向であることがわかりました。家の除染結果も示されており、 除染後に明らかに線量が下がる家とそうでない場合がありました。今回のガラスバッジの検査自体が除染の後ではなかったため、除染によりガラスバッジの値が 下がるかは明らかになりませんでした。
今後は、何が外部被曝を規定する要因として大きいのか、言い換えると行動ごとのリスクの重み付けをしていく作業が必要と考えています。内部被曝で言うなら、トップのリスク行為は「出荷制限の既にかかった食べ物を未検査で継続的に食べる」といったようなことです。
以前の記事( http://medg.jp/mt/2012/03/vol447.html )にも書いておりますが、同じ地域に住んでいる方々の中で、値が広範囲に分散することが分かっています。比較的線量の高い地域に住んでいる方の中に、かな り値が低い方がいること、逆に線量の低い地域に住んでいるにも関わらず、値が高めである方がいます。もしかしたら着用の問題かしれませんが、どこから気を つければ良いのかを明らかにする必要があります。
今のところ、外部被曝に影響を与えるトップ2つは、「就寝場所の線量」と「学校の校舎内の線量」だと思っています。子供の24時間の生活のうち、8時間は睡眠、8時間は学校だからです。
解析で示されるレベルではありませんが、同地域に住んでいる方で、より線量が高い人は、寝ている場所の線量がより高い傾向にありました。色々な場所の線量 を考えて子供を外で遊ばせるか否かを考えるなら、まずは寝ている場所の線量を下げるにはどうするか、最も妥当な選択をしているか問い直すことが重要です。 除染をするなら、就寝場所の近くの線量がその行為で下がるのかどうかを判断材料にすべきだと考えます。
ご存知のようにガラスバッジの線量は、空間線量に時間をかけ算して得られる値よりも低い値を出す傾向にあることが知られています。この理由の一つには、学 校の線量が低い(鉄筋コンクリートの建物が多くて、遮蔽が強い)ことが影響していると思います。今回の震災直後早期に学校再開したことについては色々と意 見があることは存じていますが、子供達が学校に通っていることが、線量低下に寄与している面は大きいと思います。その意味で学校の除染を徹底することの優 先順位は非常に高いです。
まだざっくりとしたことしか分かりませんが、内部被曝と同じで、全員がxx以下なので問題があります、ありませんだけではなく、より細かくリスクの順番を明らかにしていかなければなりません。
以下補足です。ガラスバッジが示す値は基本的には「追加の」外部被曝線量です。震災前の環境中の放射線量からいくら増えているかを示しています。例えば千 代田テクノルのガラスバッジは、震災前の茨城県大洗での環境からの外部被曝、0.54mSv/yearからの追加分です。
(ただし、実施主体によっては、追加分ではなく、バックグラウンド分も足し算して値を報告していることもあるので確認が必要です)
写真:相馬市玉野地区でのガラスバッジ結果個別相談会にて。保健センターの岡和田所長と相馬中央病院の越智先生。
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http://apital.asahi.com/article/fukushima/2012122100011.html