医療ガバナンス学会 (2013年1月15日 06:00)
~慢性疾患や感染症、そして熱中症にも注意
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2013年1月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
今日は、内部被曝以外の話をします。
生活環境の変化に伴い、高血圧やコレステロール高値、糖尿病などの慢性疾患が悪化していることは言われて久しいです。
心筋梗塞や脳梗塞など致命的な転帰に結びつかないように、定期的な受診と日頃からのコントロールが重要です(41回でも紹介しました → http://apital.asahi.com/article/fukushima/2012121400008.html )。
それ以外にも気をつけるべき病気は多くあります。
近ごろ、外来受診が増えているインフルエンザは、その代表格でしょう。
年末年始は人の動きが多く、これらの感染症が違う場所から持ち込まれやすい時期です。
密接した環境に多くの方が暮らしている仮設住宅は、インフルエンザウイルスにとってみれば悪い意味で格好の場所です。
インフルエンザにかかった全員が重症化する訳では決して無いのですが、ご高齢の方にとっては侮れるものではありません。
では、どうすれば防げるか。
手洗い、うがいが重要なことは論をまちませんが、ワクチンという選択肢があります。
インフルエンザワクチンは、打てばインフルエンザにならないことを100%保証するものではありませんが、重症化を防いでくれます。
南相馬市では去年から、市立病院の原澤先生を中心として仮設住宅でのインフルエンザ予防接種を開始しました。毎週仮設住宅を周って、予防接種を行います。
多くの医師、看護師、保健師、大学生ボランティアや、地元の高校生も参加し、去年度は1000人以上に摂取しました。
肺炎球菌ワクチンというものもあります。
詳しくは感染症の専門の先生に譲りますが、その名の通り、特にご高齢の方での肺炎を予防してくれます。
肺炎も、特に高齢者や施設入所されていらっしゃる方等にとって、命を奪いうる怖い病気です。
話は飛びますが、環境に影響されて発症してしまう疾患も多くあります。
例えば熱中症です。
熱中症といえば、暑い中で若い子が部活で外を走り回り、十分な休息と水分補給しなかったから発症した、というイメージを持つ方も多いかと思います。
近ごろ増えてきているのは高齢者の熱中症です。
外で動きまわるからではなく、むしろ基礎疾患に伴い、屋内で室温管理や水分補給がうまく出来なかったことで発症するようなタイプの熱中症が増えてきています。
今回の震災で生活環境が変わり、水分補給や温度調節の仕方も変化しており、注意喚起が必要です。
熱中症の最重症型である熱射病は、30~40%程度の確率で致命的になります。
南相馬市では、亀田総合病院から出向していた木村先生が、仮設住宅を回り説明会を繰り返し行っていました。今は寒い冬ですから、熱中症ではなく、偶発性低体温症(熱中症とは逆に、寒冷
暴露により体が冷えてしまうもの)でしょうか。
以前も紹介しましたが、骨粗鬆症も問題になります(27回も参考にしてください → http://apital.asahi.com/article/fukushima/2012111500069.html )。
元々閉経後の女性は骨密度が下がりやすいことが知られています。
運動不足による筋力低下も相まって、骨折につながります。
大腿骨頸部骨折は、その後の合併症も含めると、7人に1人が命を落としかねない重篤な病気です。
内部被曝に限ったことではありませんが、予防に重点を置いて話をする、やるべきことを伝えるのは難しいことです。
実際に自分の身に降り掛からないと実感としてわきません。話を聞いてもらうことすら難しいことが多いです。
健診を定期的に受診してもらえないのと同じです。
だからといって、怖い怖いと脅すように話をするのも間違っています。
新型インフルエンザしかり、昨今のノロウイルスしかり。そもそも新型インフルエンザは「新型」ではありませんし、ノロウイルスは何か特殊な殺人ウイルスではありません。
解熱して症状が良くなっているのに、治ったかどうかの診察は社会的に求められるのかもしれませんが、「医学的」には必要ありません。
もちろん脱水は危険ですが、胃腸炎に特効薬はありませんし、水分をしっかり補充しながら軽快を待つしかありません。
医学的なことに限りませんが、我々は多くのリスクに囲まれて生きています。介護の問題や精神的な問題などにも気を配る必要があります。
適切に注意喚起しながら、気をつけるべきことをしっかり行ってもらう。地道に丁寧に説明して回るしかありません。
言うは易しですが、長い道のりです。
文末の挨拶となりましたが、あけましておめでとうございます。
今年も現状を淡々とお伝えできればと思っております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
写真:写真は副院長の及川先生と松山先生。診療後、脳卒中予防のため仮設住宅を回り注意喚起やお話を続けていらっしゃいます。
↓
http://apital.asahi.com/article/fukushima/2013010700011.html