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Vol.19 解決志向の被災地心理支援(2)~被災地でお邪魔にならない心理支援~

医療ガバナンス学会 (2013年1月20日 06:00)


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相馬フォロアーチーム
吉田 克彦

2013年1月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1. はじめに
私の目を通して星槎グループそして相馬フォロアーチームの活動を何回かにわけてレポートしています。前回は、相双地区に支援に入るまでの経緯を振り返り、被災地心理支援の問題点を示しました。今回は、どのような被災地心理支援が求められているか、考えたいと思います。

2. 心のケアお断り
被災地での心理支援を行なうにあたり、不特定多数の支援者が入れ替わり立ち代わり支援に入ることが問題だと前回のレポートで指摘しました。「心のケアお断 り」の張り紙がある避難所の噂も耳にしましたし、仮設住宅で「もう、面倒なだけだから知らない人は来ないで欲しい」という声も実際に聞きました。短期的に 入れ替わりたち代わりでは、ニーズに沿った支援を実行するのはむずかしいと思います。常駐型の支援組織が必要となります。

3. 目指せ!保健室
ところで、被災地における心理支援で重要なことはなんでしょう。私は「学校の保健室」のような機能だと考えます。
保健室といっても、「今日は3人骨折の処置した」「インフルエンザが大流行で今週は5クラス学級閉鎖だった」「今月、10回救急車呼んだ」という保健室が 「よい」わけではありません。確かに、忙しい保健室ですが、むしろ「うちの学校の子どもたちは、怪我もしないし、風邪も引かないし、保健室に誰も来ないの だけれど」と養護教諭がぼやく保健室の方が理想的だと私は思います。とにかく、子どもたちが元気で健康であればそれでいい。このスタンスはカウンセラーに 必要です。かさぶたを剥がして塩をすり込むことが仕事ではありません。
もちろん、そういう保健室を維持するために養護教諭は細やかな配慮をするはずです。例えば梅雨の時期に廊下を走らないように注意したり、虫歯予防のために 正しいブラッシングを指導したり、廊下ですれ違う子どもたちの表情を見て体調を確認したり、見えないところで養護教諭が活躍しているわけです。ちょうど今 の時期は、インフルエンザ対策のためマスク着用・うがい・手洗いを徹底するよう校内キャンペーンを行なっています。

4. お邪魔にならない心理支援
心理士は予防よりも問題発生後の処置に重点を置きがちです。震災直後から短期間ずつ派遣される「緊急支援チーム」というネーミングからも、予防ではなく対処の意味合いが強く出ています。いわば「モグラたたき型」です。
「モグラたたき型」になるのは、心という見えない部分を扱っているので仕方ない面もあります。ケガなら出血が止まったかどうか見れば分かるし、熱や血圧も 計れば客観的に判断が出来ますが、メンタルに関しては主観的な要素が非常に強い。場合によっては、本人が「大丈夫だから心配しないで」と言っても「あのよ うに気丈に振舞っているけれど実は深く傷ついているに違いない」「今は、大丈夫と言っていても、しばらくたってから大きな問題がでてくるに違いない」と本 人の言葉を信用しないどころか、勝手に将来を占ってしまうカウンセラーさえ見かけます。そのような態度では、「心のケアお断り」と言われても仕方がありま せん。まさに大きなお世話です。
では、被災地における心理支援で重要なことは何でしょう。非常に単純です。「今日を良い日にする、それを明日も繰り返す」それだけです。その積み重ねが子どもたちの人生を形作っていくのです。
良い日の定義は人それぞれでしょうが、フラッシュバックに悩まされたり、3.11のことばかりを考えて、いまさらどうすることも出来ないことを悔やみ続け るのが良いことでないことは明らかです。なるべく過去を探るのではなく未来に目を向けることが大事です。自分自身に置き換えて考えてみれば、何か楽しみを 見つけたり、一つのことに打ち込んでいたり、将来に向かって準備をすることかと思います。そう考えれば、震災当時の状況を”無理に”語らせることや、(本 人が希望していないのに)カウンセリングをすることよりも、部活や勉学や遊びなどに没頭できる環境を作ってあげることの方が心理ケアにつながるでしょう。
ある教師から聞いた嘘のような話があります。それは、津波で両親を失った子どもがいて、カウンセラーと毎週面接をすることになっているそうです。その子は カウンセリングの時間になると校庭での運動部の活動を中断して、呼び出される。そして、相談室で箱庭を作り、時間になると嬉しそうに急いで部活に戻るそう です。これが、何の支援になるのでしょう。この子にとって呼び出して箱庭作らせるより部活動を一生懸命やらせた方が、よほど利するのではないでしょうか。 似たようなエピソードは大なり小なりたくさん耳にします。

5. それでも対処が必要な時は
もちろん介入が必要な時もあります。不眠や幻聴などに悩まされて、勉強とかやれる状況ではないという子どもがいれば、カウンセリングなり薬物療法などが必 要でしょう。その場合も、洞察を深めていったり、表現させたりすることは単なる手段であり、不眠や幻聴やフラッシュバックといった問題を一刻も早く解消す べきです。数ヶ月のあいだ症状で悩まされ続けるよりも、数日間で症状が解消される方が本人にとって苦痛が少ないのは明白です。心の問題を「火事」、カウン セラーを「消防士」に置き換えた例え話があります。火がどんどん燃え盛る時に、腕組みをして出火原因を探るより、さっさと火を消さなければならない。
「今は押さえ込んでいるけれど、また数年後、違った形で症状が出るに違いない」と主張する人もいます。私はそのような抑圧的な考え方をしませんが、百歩 譲って、もし数年度に違った形で症状が出たとしてもその時に速やかに問題を解消すればいい。今年感染しなかったけれど来年感染するかもしれないノロウィル スに怯えて不安になることと同じです。
一度、人間は必ず調子の悪い時は出てきます。その時に、「前回もあのような対応したら改善した」と覚えていれば安心するかもしれませんし、誰の力も借りず自分1人で克服できるかもしれません。そういった力を信じることも大事だと思います。
このように、本人の力(リソース)に焦点を当てて、カウンセラーが問題探しばかりせずに本人の力を引き出す黒子に徹することがが大切です。つまり解決志向の被災地心理支援です。

また長くなってしまいました。次回は、常駐型支援の具体的な方針について紹介したいと思います。

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