医療ガバナンス学会 (2013年1月22日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2013年1月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
話した内容は、このブログで紹介させていただいていることと大きく変わりません。3つのパートに分けて話をしました。
一つ目は、放射線とは何か、日常生活のどのような場所で使われてきたのか。そもそも震災前から、我々はどの程度被曝していたのか。そして、内部被曝と外部被曝の違いについて。
二つ目は、浜通りや中通りで行われている内部被曝検査、甲状腺検査やガラスバッジの結果について。その結果から様々な値は、大多数で非常に低く抑えられて いること。しかしながら継続的な検査が必要なこと、南相馬ではどのような行動がハイリスクか、それに対する防護法、対処法について。
三つ目は、やや概念的ですが「被曝している」or「被曝していない」、「検出する」or「検出しない」、「1mSv以上」or「1mSv未満」といった白 か黒かではないこと。そもそもリスクを考える際、0か1かという議論によってしまうことの危うさ。我々は放射線に加えて多くのリスクに囲まれて生きている こと。そもそも健康とは何か? といったやや深遠なテーマにも触れました。
例えば、「検出限界以下となった地元産の野菜を食べたくない」。数値では分かっていても感情がついていかないという方は、まだ多くいらっしゃると思います。生徒の中でも何人かが同様の意見でした。
科学的な情報に対して継続的にアンテナをはることが、まず重要であること。しかしながら、放射線に限らず多くのリスクは、科学的な情報を得た上でもその先 の判断が人によって異なること。お互いに意見を尊重し合い、(軋轢をうむだろうけれども)対話が必要であることを話しました。
多くの大人には当たり前のことばかりだと言われるかもしれませんが、私なりに彼らが今後強く健やかに生き抜いてくれるために必要だと思う情報を話した2時間でした。
非常に真剣に聞いてくれていました。リスクの話などは、伝わるか心配でしたが、情報を吸収し今後どのように考えて生活すべきかを高校生なりに懸命に考えて いることが伝わってきて、私自身が感動してしまいました。自分たちが今まで受けてきた検査の結果よりも、検査で何をされていたのかという疑問を持っている 生徒も多かったのが印象的でした。
放射線教育に関して、小中学生には指導要綱に盛り込まれ、色々な場所で試行錯誤が始まっている状況です。しかしながら、高校生に対しては行われていません。放射線被曝の問題は、健康や生き方の問題でもあります。
私の経験上、リスクの話しなどは小中学生に説明するのは厳しく、高校生ぐらいの段階が最も良いのではないかと思っています。授業を定期的に行うのはリソースや内容の面で難しいことは承知していますが、子供たちの今後のためにも是非行って欲しいと思っています。
今回の授業は、福島高校がスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に選ばれており、そのカリキュラムの一環として実現しました。また機会があればお手伝いさせていただきたいと思っています。原先生を始め、福島高校の先生方に心からお礼申し上げます。
写真:仮設校舎での授業でした。奇しくもこの日は1月17日。神戸の震災当時、自分も今の彼らと同世代だったなぁと勝手に姿を重ねていました。
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http://apital.asahi.com/article/fukushima/2013012100004.html