医療ガバナンス学会 (2013年2月5日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2013年2月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
去年の夏頃の検査でセシウム134と137併せて、3000Bq/body程度検出する方がいました。40代の成人男性で体格はやや細身、職業は事務でした。
その時は、何かしら高度汚染食品を摂取したのかなと思っていたのですが、腑に落ちないところが少しありました。
このブログでも何度か触れていますが、去年の夏頃から、ほとんどの方が検出しない(検出限界以下 250Bq/bodyぐらい)という状況を維持していま す。それこそ小児は99.9%以上のケースで、検出限界レベルを超えることはありません。大人であっても、相馬・南相馬なら90%以上は検出しない状況で す。
検出する方がいらっしゃっても高齢の男性が多く、検出値が4桁に到達することは少ないです。5桁の値を検出する方は、ごく数名おられましたが、出荷制限が既にかかった食品を、未検査で継続的に摂取されていることが明らかでした。
その方は、そうした予測からは外れていました。40代で職業は事務、家庭菜園はされているといいますが、いわゆる値の高くなる食材は作っていない。小さな子供もおられ、食生活にまったく気に懸けていない訳でもない。
なぜだろう、と思いながら一般的な食事の指導や気をつけるべき点をおさらいし、再検査を約束してその時の検査は終了しました。再検査を半年後に行ったところ、値はやや低下傾向にあるものの、生物学的半減期から予測される減少はありませんでした。
その原因は、スーツに残った汚染でした。実はこの男性は病院のスタッフで、前回の検査は器械の調子を調べるためのトライアルとして行い、着衣のまま検査を していました。今回も着衣のまま検査しました。その後、着衣を脱いで検査をすると検出限界以下という結果でした。そして、ハンガーにかけ、ホールボディカ ウンター(WBC)内に吊るし、着ていたスーツだけを検査すると、同様の値を検出しました。スーツに付着し残っていた微量の汚染を、体内に含まれる放射能 として器械が検知してしまっていたのです。
そのスーツは、震災直後1週間ぐらいから着ていたといいます。その後何度もクリーニングに出し、ずっと着ていたといいます。スーツなのでドライクリーニン グでしょう。JAEAのデータ( http://www.jrsm.jp/shinsai/0906nakazato.pdf )でも、水洗いをすると、最初に80~90%程度の汚染は除けるのですが、残りが繊維の中に入ってしまうからか、取れなくなってしまうことが経験上分かっ ています。除染作業服の管理などはちょっと気をつけた方がいいかもしれません。
こんなことを言うと、クリーニングだときれいにならない!みたいに思われるかもしれません。確かに全ての放射性物質が洗浄で取りきれる訳ではないようで す。しかし、日常生活で着ている服が、どんどん汚れていっているという話ではありません。恐らくは震災直後に高度に汚染された服を一時帰宅の際に取りに 帰ったとして、その服の汚染は洗濯しても完全には取りきれていないかもしれない、という状況かと推測しています。
今回のことで言えることは、検査前は着替えましょう。というだけです。
理論上、この外部被曝の影響を考える必要はありません。たとえば、1000Bqのセシウム137の(非常に小さい)固まりがあったとして、1mの距離での 空間線量は6.2×10^-5(0.000062)μSv/hほど上がる計算になります。3000Bqの服を身にまとったとして、その体の中の空間線量の 増加分は0.001μSv/h程度の桁にすらならないと計算されます。空間線量計の精度をご存知であれば、意味がある数字かどうかはお分かりになると思い ます。
(IAEA資料 http://www-pub.iaea.org/mtcd/publications/pdf/te_1162_prn.pdf 88ページ参照)
今現在の検査は、着替えをしてから行うことが徹底されていますが、震災直後はそうなっていない検査も混ざっていたのが事実です。その場合、器械は誤って体 内の放射能を高く見積もってしまうことになります。WBC検査前に、外部汚染を調べる検査を行っていますが、そのレベルでは全く検知できませんでした。今 後もWBC検査時には更衣を徹底しなければならないことを思い知らされた例でした。他の市町村の方々も、ぜひ気に留めて欲しいと思います。
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http://apital.asahi.com/article/fukushima/2013020100003.html