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Vol.39 総選挙が示した日本の新しい課題

医療ガバナンス学会 (2013年2月12日 06:00)


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~選挙戦で実感したのは「組み立てる改革」への変化の潮流だった…

衆議院議員
松田 学
2013年2月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2013年は巳(み)の年ですが、巳年のキーワードは「脱皮」だと聞いたことがあります。このMRICに「元財務官僚」として何度か論を発信させていただ いてきた私も、今年は衆議院議員として脱皮をする年となりました。振り返れば、前回の巳年に当たる01年に言論NPOの設立に参画した時から、私の官僚か らの「脱皮」が始まりました。今回の総選挙で日本維新の会から南関東比例ブロックで当選するに至った流れは、その延長上にあるように思います。これまで国 家システムの再設計に向けた政策論を訴え続けてきた者として、今回の総選挙を実際に経験して何を感じたか、以下、簡単に総括してみたいと思います。

●選挙結果は民意をどこまで反映しているのか。
自民党が圧勝した今回の総選挙も、政党を選択する比例での得票率でみると、自民党の得票は27.6%に過ぎず、同党が大敗した前回総選挙の26.7%とほ ぼ同じ数字で、有権者の7割以上が今回も自民党を支持していないことになります。まず、こうした「小選挙区制のマジック」について、考えなければならない ことがあると思います。

そもそも小選挙区制は、二大政党制のもとで、有権者の選択で政権交代が起こることを目指したものとされています。1つの選挙区から1人しか当選しない仕組 みは、時の声や「風」が、各政党の獲得議席数に極端な結果をもたらしやすいものです。他方で、劇的な政権交代が起こりやすい分、勝利を収めた政権与党は、 国会で強力な政治力を獲得することになり、選挙で示された民意の実行体制も強力なものになるというメリットがあるとされます(日本の場合、それを阻害して いるのが参議院とのねじれ現象ですが)。

ただ、この仕組みには、価値観が多様化した社会のニーズを選挙結果に的確に反映する上で、問題がないわけではありません。
前回の総選挙で自民党は大量の落選者を出しましたが、彼らは苦節3年あまり、各小選挙区で地盤や組織を固めて今回の勝利に至りました。これに対し、「自民 でもない民主でもない」との多くの国民の声を反映して立ち上がった「第三極」の新人候補者には、各選挙区で1位を取れるだけ有権者に浸透する時間がなく、 予想せざる早期の解散は「第三極つぶし」とも言われました。たちあがれ日本で活動していた私も、「石原新党」がようやく「太陽の党」として結党された翌日 の野田総理の解散表明に、そのことを強く感じました。

結果として、同党は「日本維新の会」と合流、結果は、衆議院で第三党の地位を獲得しましたが、54名の当選者のうち小選挙区で勝ち上がったのは、同党の人 気の強かった近畿地方を中心に14名に過ぎず、残り40名は比例単独か比例復活による当選者でした。特に新人のほとんどは比例での当選です。実際に、「民 主党は懲り懲りだが、自分の票が死に票になるのはイヤだ、小選挙区では一応、名が通っている自民党候補者に入れるが、単に自民党に戻るだけの消極的選択で は面白くない」と考えた有権者は多かったようです。比例という仕組みがあったからこそ、「維新」がそうした声の受皿にもなりました。
かつての日本新党ブームの時のように、風を起こした新党が政権まで取るような現象は、選挙区で2位以下も当選できる中選挙区制のもとではあり得ますが、小選挙区制は、それが極めて難しい構造であるといえます。その点で、民意の反映には一定の限界があります。

私は2011年1月2日付の本MRICに、比例を中心に専ら「政権公約」で選挙を戦う「公約党」の提案を発信させていただきました。それは、政治家が地元 での人気取りではなく、国家の政策に専念できるための、また、政界にそれを担う有為な人材が参入できるための仕組みとして提案したものです。今、選挙制度 改革の中で、比例定数の大幅な削減も議論されていますが、比例には小選挙区制の弊害を緩和する一定の意義があることも忘れてはならないように思います。

●急がれる民主主義のインフラ整備
次に、小選挙区制のもう一つの論点として、政界への人材参入の問題があります。現状では、自らが築き上げてきた社会的な立場も財産も何もかも投げ捨てて地 元活動に専念する覚悟なくして立候補することはできません。政治を目指すならそれだけの覚悟が必要との建前も大事ですが、実際問題として、そこまでしても 当落が時の風に大きく左右される博打のような選挙に、各界で経験と見識を養ってきた有為な人材が、どれだけ挑戦しようとするか疑問です。
この私も3年前には、なぜ財務省を辞めてまで、と多くの方々から言われたものです。私の場合、国家のためにという私の覚悟を周囲が支えてくれましたが、有 為な人材たるもの、それぞれが社会的責任を負っている立場にあることを考えれば、政界への人材参入には大きな壁があると言わざるを得ません。

現職議員もそうです。特に今回は、民主党の現職大臣など数多くの有名政治家が落選しました。もちろん、それも民意なのですが、国政に専念するプロの政治家を理想像と考えるならば、現実は、その理想を実現するにはほど遠い状況といえるでしょう。
かつての中選挙区制に近い制度に戻すのが一つの解決策ですが、もし、選挙のたびに大量の「失職者」が発生する現行の小選挙区制を続けるとするならば、それ を支える社会的なインフラを社会システムとして整備することを、そろそろ真剣に考えるべきです。欧州などには、公務員が選挙に出て落選しても公務に復帰で きる国もありますし、日本の民間企業でも、そうした配慮をする企業も現れているようですが、このことを含め、人材がもっと流動化できる人材活用マーケット の整備が喫緊の課題です。
米国は、高級官僚が政権交代のたびに大量に入れ替わるポリティカルアポインティー制となっていますが、それを支えるのが、ワシントンにある数多くのインス ティテュート、政府と大学や研究機関、民間企業等との間を行ったり来たりする(「天下り」など当たり前)リボルビングドアの社会システムだとされていま す。

公務員が終身雇用の職業公務員である日本の場合、同様のシステムは政治家に対してこそ整えるべきではないでしょうか。落選しても、自らの生活保障の心配な く、研究機関などで政策を論じながら次の選挙に備えられるだけの経済的仕組みは、議員である間に政治家として自らの信念に従った議員活動を展開できるよう にするための基盤になります。

官僚であれ医師であれ政治家であれ、どのような職種の人も、自らが置かれた仕組みの中で最適な行動を選択せざるを得ないのが現実です。多くの問題は、仕組 みの側にもあります。それを無視して彼らをバッシングしたところで、答は出ません。日本の国会議員は、キャリアパスとしてもエコノミクスの面でも、つじつ まが合わない職種になっています。それが個々の議員の活動を、専ら選挙での当選のための行動に走らせ、党利党略、私利私欲と呼ばれる現象を招き、政治家の 質を落としていることは否定できないと思います。

一年生議員の仕事は国会活動ではない、選挙区に帰って次の選挙の準備をすることだと言われますが、そのような現状は、その一年生議員を国会に送り込んだ有 権者をバカにするものです。親から安定的な地盤を継いだ二世議員でない限り、地元対策に追われる日常の中で、政策面の識見を新たにインプットする余裕はな いとされますが、それでは知的な面でも情報面でも、政治家に対する官僚の優位は崩せないでしょう。

民主主義が機能する仕組みを、政治システムの周辺で確立していかねばなりません。
これは、私が携わってきた言論NPOや国家基本問題研究所が目指すところですが、加えて、政治の質を上げるためには、有権者の側でも、政治家にすべてを任 せず、政党の政策や政治家をきちんと評価する尺度を確立する機能が必要です。一人一人の国民がそのようなインフラづくりに参画していけるような仕組みを 作っていくことが課題だと感じます。

●課題に向き合う政治へ、有権者の意識変化
政治に関しては、何事もそろそろ本音の議論をすべきです。
振り返れば、前回の巳年は2001年、21世紀最初の年でしたが、「21世紀のニッポン」への「脱皮」は果たされず、その後も90年代からの「失われた 10年」が「失われた20年」になるような事態が続きました。しかし、今回の巳年は、いよいよ、これまで先送りされてきた課題に向き合い、すでに持続可能 でない「戦後システム」を組み替えて全体システムを再設計する「組み立て」の局面へと、脱皮すべき年ではないかと思います。
2013年は癸巳(みずのと、み)の年ですが、これは東洋では、新しい仕組みや秩序の姿が徐々に見えてくる年であり、大きな潮流を人々が実感する年であるとされているそうです。

今回の総選挙で、私が実感したのも、変化への潮流でした。私が街頭演説を繰り返しながら感じたのは、有権者の意識の変化でした。
消費税に反対、原発に反対、TPPに反対…、しかし、それを言っていても答はありません。だったら、どうするのか。大事なのは、課題に向き合い、答を出す 政治ではないか。それら個別の問題への賛否で国論が二分する前に、その根本にある問題にしっかりと取り組むべき時期です。それは日本の国力の衰退と国家と しての劣化です。
まさに、日本維新の会の石原慎太郎代表が「目前の矛盾を解決するためには、背景にある大きな主要矛盾に手をつけなければならない」との毛沢東の矛盾論にし ばしば言及してきた通りです。必要なのは「賢く、強く、したたかな」日本です。もう、「不都合な真実」を隠して先送りする、これまでのごまかし政治は許さ れない、求められているのは、国民に真実を語り、発信する政治であり、経験と実績を備えた実行力のある政治です。
私は選挙戦で、このように訴えながら、一緒に課題に向き合い、ニッポンの希望を創っていくことを有権者の皆さまに呼びかけました。

驚いたのは、国民的人気の高い橋下徹・代表代行が、街頭演説の半分の時間を、社会保障の負担の問題に充てていたことです。財務官僚が喜ぶような増税の話 は、長年、政治ではタブーでしたが、今回の選挙では、それにじっと耳を傾ける聴衆の姿がありました。避けられない痛みの問題に国民自らが向き合い、頑張ろ うというメッセージが有権者に受け入れられ、支持される時代になった。このことを見誤った政党が票を伸ばせなかったことを、よく考える必要があると思いま す。

私は、失政との批判を浴びた3年あまりの民主党政権も、大きな歴史的成果をあげたと考えています。それは、「国民が気づいた」ということです。
例えば、「増税の前にやることがある」と言っている政党も、実際に政権をとれば増税するしか答がないのは、民主党政権を見れば明らかです。「やることがあ る」のは当たり前のことです。それは当然やる。しかし、だからと言って増税から逃れられるわけではありません。そこをはぐらかす政治に、国民はNoを突き つけていると感じました。

●「賢く、強い」政治で「したたかな」国に
しかし、答は増税にもありません。
1,500兆円の個人金融資産に、非金融法人など他部門の保有分を加えれば、日本には2,800兆円もの金融資産があります。問題は、その資産構成の内 訳、つまりポートフォリオの質にあります。金融資産のかなりの部分が、将来の富を先食いする赤字国債とその借り換え国債に向かい、また、国内で有効な使途 を見出せずに、決して有利でも戦略的でもない形で海外にマネーがあふれ出た結果として、世界ダントツ一位の250兆円もの対外純資産を計上してきました。 このような経済の姿にこそ、日本の根本問題が現われています。

私たちの貴重な蓄積を、まずは、有効な国内投資に向かわせてデフレを克服する必要があります。その選択肢として、政府投資を拡大する今のアベノミクスは方 向として間違ってはいませんが、経済財政運営によほど知恵と工夫を凝らさないと、金利が上昇して、財政をパンクさせるだけでなく、それが銀行の貸し渋り・ 貸し剥がしにつながるなど欧州債務危機と同様の事態をもたらしたり、行き過ぎた円安で化石燃料の輸入にますます頼るようになった日本経済を痛めるといった 結果になりかねません。
また、「政府投資」の中身のポートフォリオも、その質が問われます。無駄な公共事業のバラマキにならない知恵が必要です。防災、老朽インフラの補強だけでなく、社会保障のインフラを含め、日本の未来づくりへのニーズを的確に捉えたものにする必要があります。

しかし、最も知恵を出すべきなのは、日本の巨額の「凍結」金融資産を、社会保障システムにも循環させていく仕組みの構築です。このままではいくら増税しても高齢化には追いつけないという負担の問題を、日本のストックの活用で解決していく。
その根本にあるのも、私が提唱してきた「日本力倍増」です。
脱原発もそうです。国民のほとんどは脱原発を望んでおり、重要なのは、原発に頼らない社会を実現できる新エネルギー体系の構築です。海洋資源にも恵まれた日本がその面で世界最先端国家になることにこそ、原発問題の答があります。
TPPもそうです。人口減少国が超高齢化社会に耐え抜くためには、アジア太平洋地域を自国の繁栄基盤としていく以外に答はありません。国際的な経済秩序づくりに自国の国益を反映させる賢さとしたたかさが問われています。

これまで、潜在力に満ち溢れながらも、それが発揮されないまま「失われた20年」を経過してきた日本に求められているのは、日本のパワーを引き出す「知 恵」だと思います。だからこそ、日本維新の会が唱える、「賢く、強く、したたかな」というテーゼが意味を持ちます。その形容詞を冠した経済財政運営、社会 保障、エネルギー供給、外交安全保障…それらを実現するための国家システムの抜本的な再構築…。

加えて私は、日本の民主主義にも、「賢く、強く」が必要になっていると思います。
まさに国民が気がついた、その状況を、次の国づくりへと導く道筋をつけることが、今年の政治の役割だと思います。
本当の「政治主導」とは、政治自らが課題を真摯に国民に語り、向き合うことではないでしょうか。政治の役割は国民の要望を吸い上げることではありません。 そうであるなら、有権者はマニフェストに投票し、あとは官僚がそれを実行すればいいでしょう。政治の役割は、国家の未来への希望を描き、その実現に向けて 必要な課題を国民に説得し、合意を形成していくことにこそあります。国民に甘言を弄し、官僚を叩いているようでは、政治主導は実現しません。政治も脱皮が 必要です。

特に今年は、眠れる「日本力」を呼び覚ます仕事を政治が本格的に始動すべき年だと思います。人類社会が共通して直面することになる課題に世界最初に直面す る「課題先進国」ニッポンは、直面する危機をチャンスに変えて「世界のソリューションセンター」になることで、新たな成長の道と存在を築けるはずです。超 高齢化、デフレ、そして未曾有の大災害…まさに、21世紀の初頭の12年に神が日本に与えた試練を乗り超える過程で、私たち日本人はさまざまな課題解決モ デルを生み出し、それが世界中が求める答になっていく。

日本は世界の中でも、そのような特別な歴史的位置づけにあると考え、私は「日本新秩序」を提唱してきました。アングロサクソン秩序でも、中国が主宰するア ジア秩序でもない、「自立思考」と独立自尊の精神で、独自の未曾有の造成をなしていく存在としてのニッポンへ。いま必要なのは、次なる日本のストーリーを 描く営みだと思います。
日本の希望を描き、未来を競い合う政治へ、若者も子どもたちも夢を持てる、強く賢い国づくりに向けて答を出す政治へ。今回の選挙で国民から付託を受けた政 治家は、次の参院選に向けて有権者に意味ある創造的な選択肢を示していくべく、このことに全力をあげて取り組まねばならないと思います。

 

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