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Vol.40 内部被曝通信 福島・浜通りから~23万件の検査結果は、もっと有効に使える

医療ガバナンス学会 (2013年2月13日 06:00)


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この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。

http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html

南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2013年2月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


震災後、現在までで23万件程度の内部被曝検査が終了しています。福島県として実施している件数が10万件、各自治体や私立の病院などが行っている検査が13万件ぐらいになります。

ホールボディカウンタによる内部被ばく検査の実施結果について:福島県

http://wwwcms.pref.fukushima.jp/pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=26211

多くの検査が行われ、県、各市町村がその結果を独自に公表していますが、対象、回数、時期、発表方法がバラバラであるため、全体像がわかりにくい状態が続いています。

震災発生からそろそろ2年となり、統一されても良いのでは?と思うのですが、今まで行われたすべての内部被曝検査の結果を総括し、状況を説明できる母体は、残念ながら存在していません。

以前ご紹介した、個人情報の問題なども絡みますが、
「ホールボディーカウンター(WBC)の結果をSvだけではなく、Bqでも公表した方がよいこと」
いろいろな場所で何度も指摘されている内容なのですが、もう一度触れてみたいと思います。

WBCは、検査した時点での体内に含まれている放射性物質の量を計測する器械で、検査結果の単位はBq (ベクレル)です。

それに対して、Sv(シーベルト)は体への影響を数値化した単位です。Svは体への影響を評価するために、存在する数字です。

色々な放射性物質があり、外部被曝と内部被曝など、被曝の仕方も様々、これらをまとめるために作られた数字です。ですので、体への影響の大きさを話す際には、Svが基本言語になります。

WBCでは、得られたBqの値から、今日検出された放射能はいつ体内に取り込まれたものなのか、取り込まれた後、体内の分布がどのようになり、どれくらいの速度でどの程度排泄されるか、いくらかのことを仮定しながらSvを計算して行きます。

Svだけで公表する問題点の一つは、この仮定の置き方が様々にあるため、現状では特に事故から1年前後あたりの被曝量が分かりづらくなることです。もう少 し踏み込むと、現状にぴったりフィットする仮定を作るのが難しいということです。細かくはこのブログの第2回をご覧ください。

もう一つ、大きな問題だと思っているのは、現状の1mSv以上か以下かの公表だけだと、福島県の食べ物、農家の方々の血のにじむような努力をしっかり WBCで証明することが出来ないという点です。自身で、色々なアンテナを張り、データを収集している方は別として、多くの一般の市民の方々の認識が、 「xx人検査をしました。全員1mSv以下で健康には問題ありませんでした、ということらしい」から先に進んでいないことを感じます。

1mSvという言葉だけが独り歩きしていますが、現在の福島県内の生活でのセシウムによる平均的な内部被曝は1mSv/年のようなレベルでは全くありませ ん。小児の99.9%以上が検出限界以下という状況です。検出限界が300Bq/bodyで、検出しない全員が299Bq/bodyだとしても、計算上は 年間のセシウムによる追加内部被曝は、あったとしても1mSv/年から二桁ぐらい低くなります。実際には、299は明らかに過大評価です。

コープ福島の陰膳検査でも、一日に摂取してしまうかもしれないセシウムはゲルマニウムで検出できないクラスであることがほとんどです。

食べ物の制限が100Bq/kgだから、99Bq/kgの物を食べ続けたとして……、こんな仮定は現実と全くかけ離れていることは、実際に食品検査に携 わっていらっしゃる方からすれば当然のことだと思います。ですが、この部分は驚くほど他県に住んでいらっしゃる方には伝わっていないように思います。

1mSv以上か以下かは、体への影響を議論するだけならまだしも、ざっくり過ぎます。WBCの結果が農業を始めとする産業に直結している以上、もう少し細 かい公表が必要だと思います。そのためにもBqでの発表を組み合わせて欲しいと思っています。誰に話をすれば、この部分が改善されていくのか、歯がゆい思 いをしながら既に1年半ぐらい経過しています。

このような問題は検査主体が様々に異なることのデメリットだと思います。しかしながら、検査主体がバラバラであることはメリットの方が大きいと思っていま す。各所で別々に検査を行い、試行錯誤が繰り返されることで、失敗や問題点がうまれ、共有されます。衣服の着替え、受診率低下問題などです。あちらこちら で検査の受診率は落ちてきていますが、それぞれの自治体がどのように検査を行うか試行錯誤することで、より効率的に行う方法がうまれます。検査自体の透明 性の担保にも資すると思います。
(もしかしたら、この要素が一番大きいかもしれません)

写真:先日は、JCサークルの大崎さんのご尽力で、名古屋で放射線についての話をしてきました。情報の格差がさらに開いていることにも危機感を感じます。

http://apital.asahi.com/article/fukushima/2013021100002.html

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