医療ガバナンス学会 (2013年3月1日 06:00)
厚生労働大臣、厚生労働副大臣、
厚生労働大臣政務官、厚生労働事務次官、
厚生労働省医政局長、厚生労働省医政局医事課長 殿
東京保険医協会
会長 拝殿 清名
冠省 貴職におかれましては、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。
今回は、医師法21条の正しい理解に関連して、貴省作成の
・「リスクマネージメントスタンダードマニュアル作成指針」[2000年8月]、
・「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」[1995年以降]
について2つだけ質問をさせていただきます。
最初に、前提を確認させていただきます。貴省の「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」第8回会議(2012年10月26日)におかれ まして、田原克志医政局医事課長は、医師法21条について、「医師が死体の外表を見て検案し、異状を認めた場合に、警察署に届け出る。これは、診療関連死 であるか否かにかかわらない」と発言されました。このことによって、2004年4月13日の都立広尾病院事件の最高裁判決を貴省として改めて確認し「検案 の結果、異状がないと認めた場合には、届出の必要はない」と明示したことになりました。すなわち、わが国の司法と行政における医師法21条の法解釈は一致 していることが明確になったと存じます。
ところが、「リスクマネージメントスタンダードマニュアル作成指針」は、「医療過誤によって死亡または障害が発生した場合、またはその疑いがある場合に は、施設長は速やかに所轄警察署に届出を行うことを、国立病院などに対してお示した(田原医事課長)」とも発言されています。よって、現時点でも国立病院 などの施設長だけが、貴省の医師法21条の解釈すなわち条文そのものや都立広尾病院事件の最高裁判決と真っ向から対立する不条理な立場にあります。
また、「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」平成10年度版から最新の平成24年度版まで全ての年度版の5ページには、「『異状』とは『法医学的異 状』を指し、日本法医学会が定める『異状死ガイドライン』等を参考にしてください」という記述があります。ご存じのようにこの「異状死ガイドライン」の内 容も医師法21条の条文や都立広尾病院事件の最高裁判決の内容にかけはなれたものになっております。そもそも医師法には[異状死]を定義したり規定したり する法律は存在せず、21条は[異状死体等の届出義務]であることはご承知の通りです。
以上の現状を鑑み、以下のお尋ねにお答えいただきますようお願い申し上げます。
【質問1】
「リスクマネージメントスタンダードマニュアル作成指針」の改正のご予定はございますか。
「予定あり」の場合は、改正予定日を記入し「予定なし」の場合はその理由を医師法21条条文と都立広尾病院事件最高裁判決の解釈と関連してご記入をお願い致します。
【質問2】
「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル(=死亡診断書マニュアル)」平成25年度版では上記日本法医学会「異状死ガイドライン」に関する記述の変更をなさいますか。
「変更あり」の場合は、変更内容を記入し「変更なし」の場合はその理由を医師法21条条文と都立広尾病院事件最高裁判決の解釈と関連してご記入をお願い致します。
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●はじめに
すでに報道されているように、東京保険医協会は2013年1月15日付で医師法21条の異状死体の届出の解釈に関する公開質問状を厚生労働省幹部8人に送 付し http://www.hokeni.org/introduction/activity/activity2013 /130116ishihou21.html) 、田村憲久厚労相を最後に送達されたことを確認した。その事実を伝えるため、同月25日同省厚労記者クラブで記者会見を開いた。 (http://www.m3.com/iryoIshin/article/165168/)
これと同時に全国国立病院機構施設長(病院長)、全国大学病院病院長、全国大学医学部法医学教室担当教授等計432人に、「医師法21条の正しい解釈」に 関するアンケートを実施している。協会の許可を得て、今回MRIC上でも公開質問状およびアンケート内容を転載させていただく。なお、公開質問状に対する 厚生労働省からの正式な書面による回答は2月25日現在ない。
これに関連した内容については、3月1日(編集部注:実際には3月2日になりました)朝日新聞の朝刊<私の視点(オピニオン)>欄に掲載されたので、是非閲覧していただきたい。
活動の目的は、無用な警察への医療事故届出を回避することだ。このことは、患者側への報告は医療の「内」で現場の医療者が行うこととし、壊れかけた医師- 患者の関係を法律的にも倫理的にも正しく修正することになる。医師法21条の正しい解釈は厚生労働省の「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検 討部会」第8回会議(本年10月26日)で田原克志医政局医事課長が、「医師が死体の外表を見て検案し、異状を認めた場合に、警察署に届け出る。これは、 診療関連死であるか否かにかかわらない。検案の結果、異状がないと認めた場合には、届出の必要はない。」(http://www.hokeni.org /top/medicalnews/2013medicalnews/130125ishihou21.html) 通りである。これは都立広尾病院最高裁判決と同旨で、医師法21条の解釈は「司法」のトップと担当の「行政」の担当省の解釈が一致したことになる。
なお、この会議の直前の10月22日に東京保険医協会は、同検討部会構成員と会議に出席する厚労省幹部に、「医師法第21条の誤った法解釈を正す件」と題 した21条の正しい理解を求める文書を私の3つの論説を添付して提出していたことが少なからず影響したと思われる。会議では、この書類の文言を田原課長が 棒読みした様態を傍聴していた協会事務局員が確認している。
死亡事故に限らず、医療事故を警察に届出や報告するように仕向ける日本法医学会ガイドラインや日本外科学会ガイドラインは確か臨床医にとって悪名高い。し かし、実務上、実地医家を混乱させているのは、「リスクマネージメントマニュアル作成指針」(2000年7月厚生省保健医療局国立病院部政策医療課作成: 「医療過誤によって死亡又は傷害が発生した場合又はその疑いがある場合には、施設長は、速やかに所轄警察署に届出を行う」)、「死亡診断書(死体検案書) 記入マニュアル」(1995年度版から2012年度版まで:『異状』とは、『法医学的異状』を指し、日本法医学会が定める『異状死ガイドライン』等も参考 にする」である。この両方の改訂、または厚生労働省からの新しい通達がないかぎり、国立病院機構施設長や全国の医療施設の警察届出は減少しないであろう。 二つの初版は2004年の広尾病院事件最高裁判決以前であった。改定がなされていなかったことは、不作為であったと指摘できる。しかし、今や当の厚労省に とっては不作為ではすまれない状況になっているはずだ。
確かにペンは力だ。私は、一昨年からこの医師法21条の届出問題に取り組み論説や講演を繰り返してきた。MRIC上でも、Vol.306 「医師法21条」再論考―無用な警察届出回避のために― http://medg.jp/mt/2011/10/vol306-21.html Vol.317 「異状死」の定義はいらない~無用な警察届出回避のために その2~ http://medg.jp/mt/2011/11/vol317-2.html にも転載して21条の正しい理解を訴えてきた。しかし、個人や小さな組織で叫んでいるだけでは何も始まらないこともあるだろう。大きな権力を動かすため に、今回はタイミングを見計らって公開質問状という別の角度からの活動を行った。
公開質問状およびアンケートは、回答を得やすいように極力質問の数を絞った。その行間やこれまでの言論活動から私の言いたいことをご理解していただければ幸いである。
参考:
佐藤一樹:医事法制「医師法第21条の法解釈の現状」, 日本医事新報 No.4615 2012年10月6日号62-63頁
Headline 12/2「医師法21条改正の必要はない」 無罪確定医師が講演 日本医事新報 No.4624 2012年12月8日号7頁
NEWS 医師法21条 「診療関連死を届け出るべきとは言っていない」-厚労省が見解 日本医事新報 No.4624 2012年12月8日号7頁