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Vol.56 メディカル・スクールの認証基準について(その1/2)

医療ガバナンス学会 (2013年3月2日 06:00)


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亀田総合病院
小松 秀樹
2013年3月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


ECFMGはアメリカ合衆国、カナダ以外の国で医学教育を受けた者に対する資格認定を行っている。この試験に合格しなければアメリカ合衆国で臨床研修を受 けることができないし、医師免許も取得できない。2013年段階では、日本の医学部を卒業していればECFMGの受験資格が与えられる。しかし、2023 年より医学部の医学教育プログラムが、アメリカ合衆国の医学教育プログラムを認証しているLiaison Committee on Medical Education (LCME)の基準(1)、あるいは、World Federation for Medical Education (WFME)のような国際的に受け入れられている基準に基づき、公式な手続きを踏んで認証を獲得していないと、卒業生に受験資格が与えられなくなる。以 下、LCMEによるアメリカ合衆国の認証基準「メディカル・スクールの機能と構造」の内容について、目次に沿って内容を紹介、あるいは抜粋し、適宜、筆者 の感想を加える。WFMEの認証基準は構成も内容もLCMEの基準と酷似している。日本語訳(2)がネット上に置かれているので、参照されたい。

はじめに
I. 組織の在り方(目次)
A. ガバナンスと管理
B. 学問的環境

●要約
LCMEはアメリカ合衆国とカナダの医学教育プログラムを認証している。カナダの医学教育プログラムの認証作業は、Committee on the Accreditation of Canadian Medical Schools(CACMS)と共同で行われる。この作業は「医学教育プログラムが基準通り行われているかどうかを判定することで、社会と医学生の利益を 擁護する」ことを目的とする。メディカル・スクールを認証するのではなく、そこで行われている医学教育プログラム総体を認証する。
あらゆる事を文章化し、検証しなければならない。
プログラムの方向を決め、最終的に測定可能なアウトカムを示すような計画の立案過程を設定しなければならない。成果を上げている証拠、成功したのか、チャレンジしたがうまくいかなかったのかを定期的に、あるいは常に再評価する戦略を文書化しなければならない。
管理者、教員、医学生、各種委員会などの立場、部署ごとの権限、権利、責任について、プログラムと組織の両者について定款に明確に記載しなければならな い。利益相反を避けるための方法を規定と手順書に記載しなければならない。それが遵守されていることを証拠として残さなければならない。
医学生が研究室での研究や他の学問的活動、コミュニティでの社会貢献型体験学習に携われる十分な機会を提供し、奨励し、援助しなければならない。卒業生が 多様性のある社会で医療実践を行い、社会的包摂を発展させるために、学生、教員、スタッフなどが多様になるようにしなければならない。価値基準の多様な社 会で効果的な医療を行うのに必要な中核的資質(例えば利他主義、社会に対する説明責任など)を伸ばすべく計画を立案し、保持しなければならない。

●筆者コメント:
メディカル・スクールは臨床重視とされるが、学生が研究に携わることも奨励している。
全体として、多様性への言及が目立つ。また、社会貢献型体験学習や社会的包摂が強調されている。多様性、社会性は、日本の医学教育に最も欠けている視点である。

II. MD学位取得のための教育プログラム
A.(文書化された)教育目標
B. 構造
1.基本デザイン
2.内容
C. 教育活動と評価
D. カリキュラムの管理
1.役割分担と責任
E. プログラムの有用性の評価

●要約
教育目標を言葉で明確に定義しなければならない。これは、学生が、何を学び、何を達成するのを期待されているのかを明確に述べることに他ならない。医学教 育プログラムの教育目標は、医学生が進歩している証拠としての、医学生が体現していることが期待される知識、技術、行動、態度についての陳述である。
すべての医学生に、必要とされる経験を積ませなければならない。医学生が経験すべき患者のタイプや医学的な条件を決め、医学生の教育上の経験をモニターするシステムを確立しなければならない。
医学教育プログラムの目標は、すべての医学生、教員、レジデント、医学生の教育と評価に直接的責任を有する他の人たちに周知しなければならない。
医学教育プログラムは、医学生が卒後教育に進むための準備過程である。生涯学習を可能にするために、自ら能動的に学ぶことを教育する。すなわち、自分で問題を同定、分析し、関連する情報を統合すること、ならびに、情報源の信頼性を評価することを教育する。
プログラムの内容は、医学の基本的原理とそれを支える科学的コンセプトを組み込んだものでなければならない。医学生が証拠と経験に基づいて批判的な判断が できるようなスキルを身につけ、健康と病気の問題を解決するために、原理やスキルを賢く使える能力を高めるのに資するものでなければならない。医学教育プ ログラムのカリキュラムは、基礎的な科学や臨床医学の訓練だけでなく、行動心理学的、社会経済的な問題を含まなければならない。科学的方法の直接適用、医 学生物学的現象の正確な観察、データの厳密な分析のために、実験室やそれ以外の場で実践的な機会を設けなければならない。
医学教育プログラムは、すべての臓器をカバーしなければならない。また、予防、急性、慢性、介護、リハビリテーション、終末期のケアについての主要な考え方を含まなければならない。
医学教育プログラムは、学生が、卒後医学教育ですべての分野に進めるように準備するものでなければならない。人間のライフサイクルのすべての段階に関連し た内容と臨床経験を提供しなければならない。臨床ならびに探索的研究における基礎科学的ならびに倫理的原理を教えなければならない。
医師の責任に関わるコミュニケーション・スキル、すなわち、患者や家族、同僚、その他の医療従事者とのコミュニケーション・スキルに特化した教育を設定し なければならない。暴力や暴言の被害の診断、予防、適切な報告、治療など、社会的問題に対応する上での医師の役割を学ばせなければならない。
医学生は、自分自身の、他の人たちの、そして医療提供の過程の中の、性別と文化に関する偏見を認識し、それに本気で取り組むことを学ばせなければならない。
レジデント、ポストドクトラルフェローも教育目標を熟知し、教育活動と評価を行う。
彼らの教育活動や評価能力を公式に評価する。
臨床実習では、学生は常に監督される必要がある。学生について、知識、技術、行動、態度を多様な方法で評価する。問題解決、臨床における論理組み立て、ディシジョン・メイキング、コミュニケーション・スキルの能力を評価しなければならない。
カリキュラムはメディカル・スクールの最大の関心事である。統合的な管理と評価についての責任は、カリキュラム委員会が負う。カリキュラムは論理的に順序 だてられ、統合されなければならない。学校特有の偏狭さや、政治的影響、あるいは、部門内の圧力を排除しなければならない。アウトカム評価で、教育プログ ラムの有用性を評価する。
プログラム管理とは、訓練ごとの教育内容、学生への負荷のモニタリング、個々の教科課程や臨床実習での目標、教育方法、医学生の評価を意味する。教員はカ リキュラムの詳細とその構成単位の実施に責任を持つ。教育目標、教科内容、教育方法は教務担当教員によって定期的に検討、更新されなければならない。
チーフ・アカデミック・オフィサー(しばしばディーンが兼任)は十分な資源と権限をもっていなければならない。チーフ・アカデミック・オフィサーは、教員 の適切性に責任をもたなければならない。部門ごとの教育責任者は、チーフ・アカデミック・オフィサーに対し、管理上の責任を負わなければならない。
成果を常にモニターしなければならない。学生の評価、プログラム遂行の評価、プログラム全体の評価、あらゆる立場の関係者が評価し、評価される。
教育目標の達成度を明らかにするために、さまざまなアウトカム・データをプログラム実施中と終了後に収集する。

●筆者コメント
教育内容は現在の日本と同様のものである。ただし、日本では、介護や終末期ケアが軽視されている。これは学内の旧来の権力構造に対し、ガバナンスが及ばな いからである。知人の在宅医療専門家がある大学病院に招聘されたが、在宅医療部の整備は遅々として進まない。社会の高齢化の程度を考えると、介護や終末期 ケアの必要性は、アメリカ合衆国より日本の方がはるかに大きい。しかし、旧来の外科・内科が権力を持ち、在宅医療専門家には発言権はない。大学は内部から は変えられない。私はこの専門家に、辞職して元の職場に復帰することを勧めている。
「学校特有の偏狭さ」「政治的影響」についてわざわざ言及しているのが目立つ。アメリカ合衆国でも大学の教員に手を焼いているのだろう。日本の大学はガバナンスに問題があるため、「学校特有の偏狭さ」「政治的影響」は野放し状態に近い。

<文献>
1.Liaison Committee on Medical Education: FUNCTIONS AND STRUCTURE OF A MEDICAL SCHOOL. May 2012.  http://www.lcme.org/standard.htm
2. 世界医学教育連盟(WFME):グローバルスタンダード. http://www.twmu.ac.jp/gp/22/contents/images/wfme.pdf

(その2/2へつづく)

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