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Vol.60 患者のボランティア精神に依存するがん患者支援対策にもの申す

医療ガバナンス学会 (2013年3月6日 06:00)


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藤田保健衛生大学医学部病理学
堤 寛
NPO法人ぴあサポートわかば会
寺田 佐代子
2013年3月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


2007年4月、がん対策基本法(2006年6月23日、法律第98号)が施行され、がん医療の均てん化の目的で、全国の都道府県にがん診療拠点病院が認 定された(第十五条)。がん患者支援としては、第十六条で「がん患者の療養生活の質の維持向上」を、第十七条で「がん医療に関する情報の収集提供体制の整 備等」が謳われている。
その具体策は地方自治体(都道府県、政令市)に委ねられ、地方自治体は「がん対策推進計画アクションプラン」を策定した。がん診療拠点病院は、がん患者支 援対策の中で通常の医療サービスに含まれない「こころの支援」に一歩踏みだす契約で補助金を受け、「がん相談支援センター」を開設した。がん相談支援セン ターは、がん患者のこころの支援のための”がん患者会とのパートナーシップ”を詠っている。
では、病院側と患者会の連携・協力はうまく機能しているだろうか。このことは、補助金支援の前提条件となっているため、書面上、がん相談支援センターが開 設されたがん診療拠点病院では患者会との連携が稼働していることになっているはずだ。現実的に、書面通りに機能しているがん相談支援センターは、いったい どれくらいあるだろう。
それもそのはず。本格的なこころの支援としてのサポートプログラムを実践するには、経費も人材もノウハウも必要なのに、大部分のがん相談支援センターに は、そのいずれも乏しい。愛知県では、がん診療拠点病院あたりの補助金額は当初年間1,500万円だったが、今ではほぼ半減している。これくらいでは、人 件費で消えてしまう。病院に協力する母体となる患者会には、原則として、ボランティアによる連携が求められている。担い手となる患者会に直接経済的援助を している病院はごく少数に過ぎないだろう。
現状では、医療サービスとして、”栄養”が必要ながん患者に血となり肉となるブドウ酒やパンを与えるに至っていない。 “ないよりまし”かもしれないが、どうやら、打ち上げ花火的な活動に終始している感が強い。日々苦しむ患者のためには、患者の求めることをしないとダメ だ。患者の不安軽減につながる本格的なサポートプログラムの実施が必要なのである。

1) NPO法人ぴあサポートわかば会の運営
寺田佐代子が理事長を務める「NPO法人ぴあサポートわかば会」(愛知県刈谷市)の監事を務める堤寬は、10年前の設立当初より深く、継続的に関わってき た。”がん患者の自立”を目指して、ピアサポート活動をともにし、患者と医療者と学生と障碍者がみんなでつくるコンサート活動を実践してきた(堤のオーボ エと寺田のピアノのデュオ演奏を披露)。
患者会の運営には苦労してきた。藤田保健衛生大学病院内で活動した当初は会費制だったが、早々、個人・企業からの寄付や補助金で会を運営する方針に切り替 えた。バザーやチャリティーコンサートも実施した。任意団体「わかば会」は、2009年9月、「NPO法人ぴあサポートわかば会」となり、病院から完全に 独立に至った。その結果、公的なあるいは公募型の助成金を獲得しやすくなったものの、補助金は申請した事業に使うため、活動のための交通費には使えても、 事務局運営には回せない。つまり、会員や企業からの資金を一定額以上集めないと赤字となり、自費投入となってしまう。現在、自助努力で、企業寄付の増加を めざしている。
NPO法人ぴあサポートわかば会HP: http://www.npowakabakai.com/

2) 病院内に開設している「患者サロン」の問題点
がん患者のための院内の場「患者サロン」が普及している都道府県があるが、愛知県では、患者会主催の病院内患者サロンが機能しているのは少数に過ぎない。 名古屋市内の病院の患者会主催者いわく、患者サロン活動に関する会議には交通費がでるが、もちろん給与はないし、自宅での通信費も相当額使用している。仲 間のためにサポートすることが、先輩患者としての役割、医療への貢献だというボランティア精神に基づいて活動しているのが現実。「実際、これって、何なの だろう?」という気持ちが捨てきれないという。
同様の悩みは、全国の患者会リーダーからもよくきく。がん診療拠点病院の相談支援センターのスタッフは給料をもらっている。しばしば経験不足で若い彼ら は、患者サポートの機能を十分果たしているとはいえない、と患者会リーダーたちは嘆く。法に基づく国のがん患者支援策ができて、補助金が投入されているの だから、従来そこに貢献してきた患者会の負担は、そろそろ、もう少し軽減されてもいいはずなのだが—-。現状はむしろ逆で、がん診療拠点病院にがん患 者会との連携・パートナーシップ構築が義務づけられていることを背景に、患者会は病院への協力を依頼されるが、相変わらず資金援助はない。
たとえば、病院機能評価やがん相談支援室の立ちあげに際して、”病院とがん患者会の連携”という条件を満たす必要から、患者会に対して病院内での活動に関 する資料提供が求められる。実際には、患者会の自助努力の成果であり、病院は活動場所の提供以外にはそれほど関与しなかったにもかかわらず—-。この ことを誰もおかしいと思わないところがおかしい。
島根県では、病院の多くが患者サロンを立ちあげている。県予算投入額も、全国一だと聞く。しかし、ここでも、患者はボランティアとして医療側に協力してい る格好である。沖縄県、岩手県でも、同様なことが生じている。沖縄県の患者会リーダーの一人もよく似た考えだ。なぜ、患者会がそこまでしなければいけない のか? いったい、がん対策はだれのためなのか?がん患者自身が医療や社会に貢献することががん対策なのか?

3) がん患者のこころの支援を提供する2つの場
がん患者のこころの支援の場は大きく2つに分けられる。ひとつは、がん患者の集まる医療機関内であり、今ひとつは地域社会の中(医療機関の外)での実践である。両者がうまく連動・連携してはじめて、効果的ながん患者のこころの支援が可能になると考えられる。
前者は、医療機関内の”患者サロン”であり、おもに病院内で活動する患者会によって担われている。先輩患者が新米患者へ提供するピアサポートが、日時を決めて実践される。
NPOぴあサポートわかば会では、おもに後者の形を提供する。市町村におかれている市民センターや生涯学習センターなどで、テーマを決めたこころの支援プ ログラムが実施される。地域社会(日常生活)の中で悩む多くのがん患者に幅広く支援プログラムを提供できる。場合によっては、自然豊かな遠隔地で滞在型プ ログラムが実践される。滞在型プログラムは集中的に学べるため、参加者のこころのケアに効果性が高い。自然に触れることで気持ちが癒される効果も期待でき る。

4) NPO法人ぴあサポートわかば会の立ち位置
NPO法人ぴあサポートわかば会は、運営内容と病院・地域との連携を、欧米並みとすることをめざしたい、本物の患者アドボカシー(advocacy)を目指したいと思っている。
現在の目標は以下の通りである。
1.主として、地域社会の中(医療機関の外)でのがん患者支援を実践する。その上で、他の患者会と連携しつつ、ノウハウの共有を図る。
2.運営スタッフ(実際サポートに携わる患者、スタッフ)は有給(大した金額でなくても、費やした時間に相応しい人件費)で、交通費もでる。自己負担しない。
3.個人・企業からの寄付、正会員・賛助会員の年会費で運営する。事業費を別として、運営資金・経費として年間400万円程度を確保し、事務局管理費、ス タッフ給与、事務員雇用、スタッフへの交通費支給をめざしたい。地方自治体認定の認定NPO法人化(寄付金が免税される)が目標である。
4.アメリカのウェルネスコミュニティーやオーストラリアのガウラー財団が実践するセルフヘルプグループ活動、「がん患者の自立」の姿を真似たい。寺田が 当地を訪問して学んだことは、病院と連携するにしても、行政と協働するにしても、患者スタッフが犠牲的負担のない方法でNPOを運営する点であった。
5.患者仲間のため、病院のため、県のためにと、患者会スタッフがよかれと思って犠牲的精神で社会貢献をする形だと、最終的には、継続困難な状態になって しまうことが強く懸念される。がん患者支援が患者の無償ボランティアに依存する形はとても健全とはいえない。欧米では、患者はとても独立心があり、アドボ カシーが感じられる。自己責任、義務、奉仕、その使い分けが明白で、自己表明も堂々たるものである。その点、日本はまだ発展途上といえる。欧米の患者の自 立心、自己責任の行動に比べると、日本の患者は、医療依存型、医師にお任せ型で、あれしてこれしてもらって当然という甘えがあることは否めない。
6.私たちわかば会は、NPO法人として、自分たち自身で自立的に社会的貢献を果たし、自分たちにとっても患者にとっても意味のある活動を展開していると 自負している。愛知県民にとって必要とされる患者支援活動をするとなら、当然、引き受ける部分に対する予算措置を要求してゆくつもりである。

5) 先輩がん患者の無償のボランティアに依存するがん患者支援から脱却するために
全国のがん患者会は、現在、その多くが無償で、患者仲間のためのサポートを実践・展開している。公的ながん患者支援対策のないころから自然発生し、がん対 策基本法ができてもなお活動を継続している。がん診療拠点病院におけるがん相談支援センターの機能が不十分なことに加えて、地域社会に根づいた患者サポー トセンターが存在しないことが問題なのである。
むろん、人間同士の助けあいが成立すればそれでよいことは確かである。NPO法人ぴあサポートわかば会はこれまで、医療側に相当程度協力し、愛知県健康祭 といった行政の企画にもボランティア協力してきた。ほぼ無償に近いボランティア協力だった。確かに、無償ボランティアは素晴らしい行動だと自負している。 しかし、モチベーションを継続・発展させるには、適切な評価としかるべき経済的支援が必須だと私たちは実感している。
金があればやる、なければしないとかでなく、ボランティアは自らが進んで行動するのが大原則であることはいうまでもない。しかし、患者の「ボランティア精 神」を”利用する”がん対策は本末転倒ではないだろうか。必ずしも自分たちの要望ややりたいことでない企画にも、患者会が奉仕・貢献するハメになっている 場合がある。医療機関も行政も、がん経験者が感じる、純粋にひとの役にたちたいというひたむきな無償の貢献に”依存している”のが現状に近い。「がん対 策って、誰がするの? 患者がするの?」と感じること自体がおかしい。患者のための制度のはずが、その要件のために逆に患者側の金銭・マンパワーのもちだしになっている現状をぜ ひ知ってほしい。
医療側中心ではなく、患者側の視点に立った、患者が気持ちよくピアに対する支援ができるような仕組みを構築できないものだろうか。行政側もそろそろ医療機 関まかせの姿勢から脱却し、体験者である患者にしかできない、患者だからこそできるがん患者支援を理解し、本物の応援をしてほしい。
(医学のあゆみ 244、2013のForum欄に掲載予定原稿を微修正した)

参考文献:
1)寺田佐代子.がん患者支援のための”こころのセルフケアプログラム”.医学のあゆみ 225(12): 1257-1264, 2008.
2)寺田佐代子、堤寛.がん患者のためのピアサポート.個別相談のピアサポーターとグループワークのファシリテーターを育てよう! ~そのノウハウと体験から語る~.テンタクル、東京、2009.
3)寺田佐代子.がん患者の”advocacy”.医学のあゆみ 232(12): 1222-1224, 2010.
4)寺田佐代子.エンカウンターグループのためのテキスト wellbeing program ~私が私らしく生きるために~.三恵社、名古屋、2012.
5)寺田佐代子.がん患者仲間同士の支え合い”ピアサポート”.医学のあゆみ242(3): 281-284, 2012.

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