医療ガバナンス学会 (2013年3月19日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2013年3月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
写真:http://apital.asahi.com/article/fukushima/2013031500007.html
向かって右側の山は放射性カリウムです。ご存知のように放射性カリウムは全ての人の体中に50~60Bq/kg程度含まれています。60kgぐらいの方には3000Bqぐらいあり、今現在、検出するかもしれないセシウムよりも明らかに多い量が含まれています。
ちなみに今さらですが、人工の放射性物質と自然の放射性物質という分け方は、体への影響を考える際にはナンセンスです。
左側にも山があります。「放射性セシウムか?」とお考えになるかもしれませんが、今回は違います。今回の山はセシウムの場所に比べてやや左側にあります。結果は放射性ヨウ素でした。ちなみに、放射性セシウムは検出していません。
ここで一言お断りをしておきますが、今回のブログで何かを煽りたいわけではありません。
放射性ヨウ素は通常の診療に用いられます。通常の医療でも使用される薬剤(放射性ヨウ素)を器械が検出していただけです。
直接確認したところ、この方も10年来の甲状腺疾患に対して様々な治療を行っており、その中で放射性ヨウ素を用いたアイソトープ治療を2~3カ月前に行ったとのことでした。
その治療には、施設ごとの差がありますが、100万Bqとかそういった単位の放射性ヨウ素が用いられます。ヨウ素もセシウムと同様、物理的半減期や生物学 的半減期に基づき、徐々に減少していきますが、数カ月前に治療し、まだ体内に残っているものをホールボディーカウンターが検知したという結果でした。
ちなみに私自身は、ホールボディーカウンターがヨウ素を検出したのを直接みたのは初めてでした。教科書では知っていましたが、こんな形で検出されることがあることを再認識しました。
南相馬市では2011年の7月から検査を行っていますが、その時点から放射性ヨウ素を検出したことは一度もありません。相馬市やひらた中央病院など、他の場所での検査結果も、どこの場所でもホールボディーカウンターでヨウ素を検出したことはありません。
当然ですが、放射性ヨウ素による被曝が多くの方で続いているということでは決してありませんし、事故後に新たな放射性ヨウ素の被曝がある一群で起こっているという話でもありません。
もちろん事故当時の放射性ヨウ素による被曝量を推定することは非常に重要です。先日のWHOのレポートなどにも公表され、桁がどの程度かということは明らかになってきています。
現在、我々が暴露量を知る方法は3つあります。
一つ目は、震災直後にどの場所にいらっしゃったかという情報と、その当時の空間の放射線量を結びつけて、暴露量を推定する方法です。県民健康調査で行われている、外部被ばくの推定も主にこの類になります。
二つ目は、ホールボディーカウンターで検出されたセシウムの値からヨウ素の値を推定するという方法です。南相馬の結果なども、2011年7月の時点で既に ヨウ素は全く見えなくなっていました。そのときに検出されていたセシウムの値から、ヨウ素を推定するという方法です。ただ、この場合はセシウムとヨウ素の 比率が一定ではないため、誤差が生まれます。
三つ目は、実測です。もちろん今現在はできません。震災直後の時期にやるべきことをやってくださった方が多くいらっしゃいます。1000人規模の検査結果 があり、今回の事故の影響に関して大きな手がかりになっています。これらの一つひとつには、あらを探せば一長一短があり、細かい紹介はしませんが、結果は これまでに何度も報道されている通りです。