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Vol.74 ワクチン悲喜こもごも(その5)

医療ガバナンス学会 (2013年3月21日 06:00)


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教員退職騒ぎと予防接種法改正の点と線 財源で無力な厚労省

この原稿は医薬経済2013年3月1日号より転載です

健康政策評論家
堀米 叡一
2013年3月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


公立校教員の駆け込み退職騒ぎを覚えているだろうか。官民格差是正のため、国が今年1月から国家公務員の退職金を3段階で削減し、最終的に約15%引き下 げることとなったのに倣って、埼玉県が県職員退職金の段階的な減額を決めたところ、3月末の定年を待たずに1月末で教員100人以上が退職したというもの だ。
「国に倣って」と書いたが、国が自治体に対して減額要請を行っており、その分の国庫補助金などを減らしている。騒ぎの後、厚生労働省健康局では「予防接種の交付金に回ってきた財源は、あれじゃないのか」との噂が流れたという。

厚労省は、通常国会に予防接種法改正案を提出する。これまで3年間任意接種ながら公費助成が行われていた子宮頸がん(HPV)、インフルエンザ菌b型 (Hib)、小児用肺炎球菌の3ワクチンの定期接種化が最大の目玉だが、その前提となる財源について厚労、財務、総務の3大臣が1月27日に折衝し、画期 的な合意に達している。
3ワクチンについて、この3年間は国庫補助金で45%、地方交付税交付金で45%を手当てしていた。対して定期接種ワクチンに対する交付税の割合は、低所 得者への費用減免分相当という従来の枠組みなら20~30%程度にしかならず、3ワクチンを定期接種化することで負担激増となる可能性もある自治体から懸 念する声が出ていた。

法律上は接種対象者から費用徴収もできるが、大半の自治体は自主財源から接種費用を捻出して接種費用をゼロにしてきていたため、交付税の割合を増やさずに ワクチンが増えた場合、有料化に踏み切る自治体が出る恐れもあった。国が決めたメニューなのに、居住地によって格差が生じるようでは、先進国とは言えな い。

ただし、この3ワクチンは民主党政権時代にすでに手当てされていて、大臣折衝でもその路線に従って交付税で90%支出することが粛々と決まった。交付税増額に必要な522億円は、年少扶養控除の廃止などに伴う財源を充てる。

今回の3大臣合意が画期的だったのは、それに加えてすでに定期接種に組み込まれている1類疾病のワクチンに関しても、接種費用全体の90%を交付税で支出 すると決めたことだ。今のところ2類疾病は高齢者のインフルエンザしかないので、小児対象の定期接種ワクチンは接種費用なしという状況が安定的に継続され ることになる。この交付税増額のため、新たに約800億円を捻出するという。

地方自治体の要望にきちんと応えて財務省と総務省を説得した厚労省健康局のファインプレーと喝采したいところだが、局内にはなぜか無力感も漂っているという。
国の財政は、重点枠(政治枠)でない限り「ペイ・アズ・ユー・ゴー」が大原則だ。新たに予算を付けたければ、自らその財源を用意しなければならない。ところが、今回厚労省は800億円に関して1円も捻出していない。

そこで、先ほど紹介した噂が出てくる。3大臣連名で出された合意文について、財務省と総務省がすべて文言調整を行い、厚労省はまったく口を挟むことができ なかったようだ。しかも、交付税そのものは来年度予算で総額2000億円ほど減っている。今後もこのような減額傾向が続いた場合、財源に困った自治体が費 用徴収に向かわないかを心配するほうが先で、定期接種ワクチンを増やすのは夢のまた夢と言えそうだ。この辺りの事情を知ってから今回の予防接種法改正案を 眺めると、興味深い。

http://expres.umin.jp/mric/mric.vol74.jpg

2類疾病への対象追加を、法改正ではなく政令でできるようにするという。新ワクチンの開発促進や感染症の蔓延に柔軟に対応するためということだが、額面通 りには受け取れない。医療界などから定期接種のワクチンを増やせと突き上げられ、財務省や総務省からは財源を用意しろと迫られ、板挟みになったときの逃げ 道をつくったようにしか見えないからだ。そして定期2類に位置づけられる小児用ワクチンが登場した瞬間に、国がメニューを決めているのに居住地によっては 有料になるというパンドラの箱が、恐らく開く。

予防接種に関して厚労省では長く、所管部局が分散していた。健康局結核感染症課が体制整備など、医薬食品局がワクチン流通などを担当し、審議会も健康局が 厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会を、医薬食品局がワクチン産業ビジョン推進委員会を開催するといった具合だ。これが11年10月の省令改正で、結 核感染症課に予防接種室が設置され、医薬食品局血液対策課で行ってきた事務もすべて予防接種室に移された。13年4月からは、さらに健康局の人員体制を強 化して完全に一本化する。また予防接種部会を予防接種・ワクチン分科会に格上げし、米国のワクチン推奨機関ACIPのようにするという。その事務局も健康 局が務める。

このように健康局は予防接種法改正に漕ぎ着けただけでなく、組織上も極めて強化されたかのようだが、お題目を唱えても財源がなければ何もできないという現実をわかってから眺めると白々しい。

かつて予防接種部会で、ワクチンの財源を巡り保険償還の可能性も議論したらどうかとの意見が出た。30兆円を超える保険医療費全体の0.1%を充てるだけ で一気にすべての任意接種ワクチンを定期化でき、定期ワクチンが増えれば代わりに医療費削減効果も見込まれる。まさに「ペイ・アズ・ユー・ゴー」だ。が、 「この場で議論すべきことではない」との趣旨の発言があり、それっきりになった。

形式上は、厚労省全体の議論をする厚生科学審議会の部会ですら、この体たらく。予防接種所管部局が一本化されたと言っても、すべてが健康局にちんまり収まったというだけの話だ。

予防接種法での現状の財源を前提とすれば、今回のように、財務省と総務省の匙加減で無料接種できるワクチンは決まっていく。今後の新たな財源として期待さ れているのは、消費税が引き上げられる際の地方消費税増収分だが、それも厚労省の一存でどうなるものでもなく、財務省と総務省が認めてくれない限り、1類 疾病ワクチンは増えそうもない。

両省を説得するために政治の援軍は欠かせないのだが、どうやら厚労省は年金の不始末が影響して安倍首相から信頼されていないらしい。困ったものだ。

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