医療ガバナンス学会 (2013年3月27日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2013年3月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
1年半前にウクライナを訪問したことはあったのですが、ベラルーシは今回が初めてです。モスクワまで飛行機10時間、そこから夜行列車で10時間という行程でした。
ゴメリ州自体はチェルノブイリ原発に隣接する州で、ベラルーシで最も汚染度の高い地域です。そして、ゴメリ市はベラルーシの中で首都ミンスクに次ぐ国内第 2の都市です。チェルノブイリから150kmほど離れています。汚染度が高く1991、92年頃に法律上、移住政策が行われ、地図からその姿を消したいわ ゆる「埋葬の村」も近隣に多く存在します。
ゴメリ市から車で30分ぐらいの場所からがベトカ地区です。地区の原発事故前人口は約4万人、今現在は18,000人ほど。ベトカ地区からは59の村が地図からその姿を消しました。そのベトカ地区病院にて、内部被曝検査体制について色々とお話をうかがってきました。
第一にですが、継続的な検査が26年たった今でも行われていました。年に1回、無料の健康診断という形で、内部被曝の検査、採血、甲状腺の超音波、心電図など必要な健診と、無駄な内部被曝を合理的なレベル以下に抑えるための検査が行われていました。
採血の種類は特殊なものは無く、特別な症状が無ければ血算(注:赤血球、白血球、血小板の数を調べる検査)のみ、生化学検査は行われていませんでした。
継続的に検査を行っていく必要性があることを、スタッフ全員が理解しており、当然のように淡々と検査が続いていることに感銘を受けました。ただ、このような軌道に乗るまでには10年近くの時間がかかったと言っていました。
日本も今のままでは継続的に検査するのかどうかもはっきりしていません。内部被曝測定やガラスバッジに関して言えば、そもそも誰がやるのかも、いまいち はっきりしません。この部分はある程度時間が経過した今だからこそ、うやむやにせず、ちゃんと議論されるべき問題だと思います。
ベトカ地区病院での検査の大まかな傾向および原因、そして対応は、今現在の南相馬などで得られている知見、対策と大きく変わりませんでした。
今現在の内部被曝の原因は、継続的な汚染食品の摂取によるものです。時期によっても異なりますが、ベリー類とキノコ類が主たるリスクです。特にキノコ類は内部被曝の原因全体の70~80%程度を占めているということでした。
その他には獣肉、魚でも川を泳いでいる魚ではなく、湖などで一定の場所に留まっている魚が問題になることがあるといいます。大雑把には、狩人、湖のみで魚釣りをしている人、森の中で自炊をしている人が高いとのことでした。
汚染食品の摂取は、慢性的に毎日xx Bqずつ平均的に摂取しているという話よりも、高度に汚染された食品を何らかの機会に「たまに」摂取してしまっていることが問題だといいます。その度に体の中に蓄積(ローディング)されてしまう。とのことでした。
この全体の傾向は、現在の日本でも変わらないと思います。逆に地元産のものだから、という話ではなく、種類の問題であることをベトカの医師も強調していました。
検査後には診療が行われていました。
実際に値の高い人がいたらどうするのか?という質問をしました。
マッシュルームとベリーに関する注意事項を話した後、煮汁の話をしてくれました。値が高めに出ることがある食材を煮る際は、最初の煮汁を捨てる。そしてカリウムが多い食品にはどのようなものがあるか伝えるとのことでした。
こんなことも話してくれました。子供を検査したら、2人ほど値の高い子がいた。その子の親を呼び出し、生活習慣についての指導を行った。そして、3カ月後再検査を行って値が下がってきていることを確認した。
経験や情報量の差はありますが、今の南相馬やひらた中央病院で運営されているシステムと酷似しているように感じました。今まで我々も手探りで進んできたと ころは大きかったですが、ある程度以上の値を計測した場合、再検査の予定を組み、生活習慣に根ざした対応を続けて行くことが大切です。
基本的なことですが、最も大事なことだと再認識しました。 (続く)
写真:ベトカ地区病院で、カルテを見ながら。通訳のイリーナさんにもお世話になりました。
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http://apital.asahi.com/article/fukushima/2013032500007.html