医療ガバナンス学会 (2013年4月12日 06:00)
●憲法改正私案―医師の人権の補強
業務上過失致死傷罪(刑法)による医師の処罰の恐れ、濫用的な指導・監査・処分(健康保険法)による保険医の登録取消の恐れ、医療費抑制政策やTPPによ る国民皆保険制の浸食(健康保険法)の恐れ、厚労省の目論む再生医療規制法(案)による自由診療抑圧の恐れなど、医師の人権が侵害され、または侵害される 恐れが強まっている。したがって、憲法を改正して、医師の人権を抜本的に補強するのが適切だと思う。
医師の人権を補強するためには、憲法を改正して、新たな条文を設けるのが最も効果的である。憲法改正の新設条文としては、次の2箇条が適切だと思う。
〈憲法改正私案―その1〉
第23条の2〔診療の自由〕 診療の自由は、これを保障する。
〈憲法改正私案―その2〉
第25条の2〔保険診療受給権、国民皆保険制〕 すべて国民は、その疾病に応じて、等しく医療提供を受ける権利を有する。
●診療の自由
診療の自由は、医師の診療を実施する権利と患者の診療を受ける権利とが表裏一体となったものと言えよう。普通に言えば診療の権利であるが、国家権力(特に行政権たる厚生労働省)に侵害されない権利という受け身的な観点から言えば、診療の自由という用語となる。
特に重要なのが、診療の機会の確保と診療の内容の決定であろう。これらは医師と患者の双方向性によって作り出されるものである。厚労省は診療の機会と内容に得手勝手に介入してはならない。
最近、特に危険なものは、厚労省が作成・提出しようとしている再生医療規制法案である。国民の期待が大きいiPS細胞などの再生医療推進法に便乗して、そ れとは別の法律で過大な規制を行おうとしているらしい。今まで医療法などでは殆んど規制できなかったので、千載一遇のチャンスとばかりに医療の機会と内容 への介入の先例を創りたいのであろう。
倫理面からして規制やむなしと感じる医師もあり、それももっともな側面もあるが、しかし、もしもこのような規制を先例として導き入れるならば、将来の保険 診療をはじめとする他の医療分野への波及が計り知れない。ドタバタと規制に踏み切るには、余りにも事が重大である。少なくとも当面は規制を見送るべきであ ろう。
なお、憲法23条の2という位置付けは、憲法23条のすぐ次という意味である。ちなみに、憲法23条は学問の自由を定めており、それは真理の探究を目的と する研究とその実践であり、科学の自由も含む。そこで、診療の自由は、学問の自由(科学の自由)の一環として、第23条の次に位置付けるのが適切だと思 う。
●保険診療受給権と国民皆保険制
憲法25条は生存権(字義通りだと、生活権)を定めた。「健康で」という言葉も明記されているので、生存権の健康的側面という意味で、健康的生存権も含ま れると解釈できるかも知れない。しかし、いずれにしても憲法25条の法規範性は弱いものだと一般に解釈されてきた。そこで、その解釈を一新する意味でも、 憲法25条の次に条文を新設し、そこに「その疾病に応じて、等しく医療を受ける権利」を明示した方がよい。
実際上、この権利は保険診療を対象とする。保険診療受給権(または公的医療受給権)と呼んでもよいと思う。もちろん、国民すべてが保険診療を適切に受給す るためには、国民皆保険制が必要不可欠である。この意味で、保険診療受給権という人権と国民皆保険制という制度とは表裏一体であると思う。なお、保険医の 人権も保険診療受給権と国民皆保険制と一体であることは、言うまでもない。
現在、長く続いていた医療費抑制政策によって、保険診療受給権は傷つけられている。また、TPP問題その他の国際経済の荒波の中で、国民皆保険制も浸食さ れかねない。いずれの側面でも、行政権による侵害もしくはその恐れにさらされている。このような状況の今こそ、保険診療受給権と国民皆保険制を憲法上に明 瞭に位置付けることこそが有効適切であると思う。