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Vol.91 解決志向の被災地心理支援(4)~震災以降、理由不明の不登校がなくなってしまう?~

医療ガバナンス学会 (2013年4月13日 06:00)


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星槎大学
吉田 克彦
2013年4月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


私の目を通して星槎グループそして相馬フォロアーチームの活動を何回かにわけてレポートしています。毎月一回レポートできればと考えていましたが、前回か ら少し日数が空いてしまいました。前回までは、被災地心理支援の問題点を示し、どのような被災地心理支援が求められているか考え、相馬フォロアーチームの 活動方針から被災地心理支援のあり方を考えました。今回は、被災地心理支援の中で起こっている深刻な問題をひとつの事例を通して紹介したいと思います。
なお、事例はいくつかのエピソードをアレンジして一つにしてあります。

【事例】罪作りなスクールカウンセラー
中学校2年生男子A君が不登校になった。いじめや嫌がらせを受けたわけでもなく、担任も保護者もA君が不登校になった理由に皆目見当がつかないという。ス クールカウンセラーは、「震災後、数年してから震災のときの記憶がよみがえり体調を崩す子どももいるという話を聞いたことがあります。おそらく、彼も震災 のときの体験によって不登校になったのでしょう。Aくんには無理はさせずに、お母さんは出来るだけ抱きしめてあげてください」…不登校は解消されるどころ か、最近は母親に暴力をふるうようになって来たという。

もちろん、これは私の事例ではありません。私のところに保護者の知人から「スクールカウンセラーの助言に従っているが、どんどん状況が悪化していくようでつらい」との相談がありました。
このスクールカウンセラーは、大きなミスを犯しています。一つは、「不登校の理由に見当がつかない」から「震災の影響」と安直に結び付けてしまいました。 もちろん、あれだけの大きな地震と津波、そして原発事故による避難生活などを経験して、つらい思いをしているのは想像できます。だからといってそれを今回 の不登校の原因と見なすのは拙速すぎます。

例えば、手元にある平成21年度の文部科学省の統計(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/22/08 /__icsFiles/afieldfile/2010/08/05/1296216_01.pdf)によれば不登校児童生徒のうち「理由不明」は小中 学校平均で3.7%です。また、「その他本人に関わる問題(極度の不安や緊張、無気力などで特に直接きっかけとなるような事柄が見当たらないもの)」とい う要因は、小中学校の不登校の中で43.2%を占めています。「その他(上述2つの他に、いじめ、友人関係、教員との関係、学業不振、部活動不適応、学校 不適応、家庭の生活環境、親子関係、家庭内不和、病気などの要因が見られないもの)」が、小中学校の不登校の中で6.2%を占めています。つまり、震災以 前から(全国平均で見ると)不登校の半数以上は”いじめ、友人関係、教員との関係、学業不振、部活動不適応、学校不適応、家庭の生活環境、親子関係、家庭 内不和、病気などの要因が見られない”のです。

ところが、震災以降「これといった理由が思いつかないから、震災の影響に違いない」と決め付けて対応するカウンセラーや教師が少なからずいます。もちろ ん、問題が生じると「なぜなのか」と理由を探したくなる気持ちはわかります。しかし、根拠もなく安直に原因を決め付けることは、許されません(いじめなど の問題の場合は、明らかにいじめの事実があっても「直接の因果関係があるかどうかは定かではない」と曖昧にすることが多いように思いますが…、不思議で す)。

もう一つのミスは、助言内容です。「Aくんには無理はさせずに、お母さんは出来るだけ抱きしめてあげてください」とのアドバイスは一見正しいように思いま すが、抱きしめることをいつ行なうことが有効で、抱きしめることによってどんな効果があるのかが全く分かりません。学校を休み始めたら、急に母親が自分を 抱きしめてきた。中学2年生の男子にとっては、母親に黙って抱かれ続けるよりも「気持ち悪いから、やめろよ」と強く押しのける方が、常識的な反応かもしれ ません。そして、強く押しのけることとその時に出る捨て台詞(「うざい」「あっちいけ」「ババア」)などを「暴力・暴言がみられるようになった」と言われ たのでは、Aくんの立つ瀬がありません。しかし、このような助言をするカウンセラーは、残念ながら少なくありません。
私は、学校復帰を意識しなくていいので、まず当面は家庭でできる学習や手伝いを増やすように助言しました。お母さんも「震災のせいだから、Aくんを抱きし めてあげて」というよりも、具体的にやることがわかって子どもに接する時の緊張が和らいだと言ってます。家族関係は良好に戻っており、学習に取り組む意欲 も高まっており、新年度になりクラス替えなどをきっかけにまた友人関係などから介入をしていくつもりです。

専門家が発する言葉は専門家自身が思っている以上に、重いものかもしれません。私たち心理士も例外ではありません。それなのに、軽々しく「震災の影響で」 などというのは慎むべきです。繰り返しますが、震災の影響だと思うのなら、そのように判断する根拠を明確にすべきです。そして、わからない時は「わからな い」と言う勇気が必要です。なんとなく、他にめぼしい理由も見当たらないから「震災の影響」というのは、見立て違いですし、見立てが間違っていれば、対策 も(まぐれ当たりを除いて)失敗してしまいます。
現実はコミュニケーションによって出来ています。どのように意味づけていくか、細心の注意を払う必要があります。

似たような話は、教員やカウンセラーと話しているとよく耳にします。他山の石として自戒しながら今年度も頑張りたいと思います。

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