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Vol.96 被災地南相馬「ベテランママの会」の2年

医療ガバナンス学会 (2013年4月18日 06:00)


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「ベテランママの会」代表
番場 さち子
2013年4月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


「ベテランママの会」代表・番場さち子と申します。ベテランママの会は、2011年3月11日大震災以降に、南相馬市に暮らし続ける若いママや子どもたち、そして高齢者のサポートをしようと急遽始まりました団体です。

震災から今まで、本当に、色々な出来事がありました。
私は、南相馬市原町区で学習塾を営み、子どもたちと共に30年歩んでまいりました。そして、東日本大震災直後の東京電力福島第一原子力発電所爆発事故で、 私も避難生活というものを体験しました。寒い避難所の体育館で、連日、生徒達や友人の安否を問うメールを送り続けながら、「大人として、指導者として、こ の状況下で私には何ができるのか?」ということを考え続けていました。
避難所で仲良くなった子どもたちに勉強を教えながら、「学校も始まらない南相馬の子どもたちはどうしているのか?」と、南相馬にわずかに残っていると言わ れている子どもが気になって仕方ありませんでした。私は苦渋の決断で両親だけを避難所に残し、2011年4月いっぱい、教室を無料開放してミニスクールを 行いました。遠くから、連日大勢の子どもたちが渇きを潤すように、教室にきて学習していた姿が忘れられません。家に居てもただただ不安で、誰かと寄り添い たいという思いも伝わってきました。そのような子どもたちの力になりたい。支えになりたい。しかし私にできる事は、子どもたち、若いママたちの不安を受け とめることくらいでした。

学校が再開して、たった一人戻って来た生徒のため塾を再開し、南相馬で再び歩み始める中で、「年長者である私たちが動かねば!」という思いが、自らを動か しました。子育てもひと段落した年長者の母親、”ベテランママ”の私たち世代が、子どもたちや若いママたちが今後も南相馬で暮らしていく上で不安に思って いること、知りたいことに答えてあげよう―そんな思いで「ベテランママの会」は始まったのでした。

当初、「通学路の線量を測ってマップをつくろう!」「南相馬の子どもたちに、ミュージカルを観せてあげたり、文化的活動を体験させてあげよう!」と勇んで 県庁へ申請に向かったものの、けんもほろろ。まだ、原町区が緊急時避難準備区域に指定されていた頃の話です。今でこそ文化的活動の支援はたくさん南相馬に ありますが、行動が早すぎたのかもしれません。

ほどなくして、南相馬でもたくさんの方々が立ち上がりはじめました。中でも、ベテランママの会の活動にいつもご協力いただいているのが、南相馬の医療を支 える方々です。発災当初、南相馬の医療は、原町中央産婦人科医院の故・高橋亨平先生や、南相馬市立総合病院の金澤幸夫院長・及川友好副院長などの寝ずの努 力によって、かろうじて機能している状況でした。そんな先生方のもとへ、県内外各地から志ある素晴らしい人材が集まり始めました。
亀田総合病院から家庭医内科医の原澤慶太郎先生、獨協医科大学附属病院から神経内科医の小鷹昌明先生、他にも精神科医の堀有伸先生など、お名前を上げれば きりがありません。そして、ベテランママの会の活動の原点ともいえる、坪倉正治先生との出会いが、私たちの活動の指針となりました。坪倉先生は東京大学医 科学研究所より、出向で南相馬市立総合病院へ震災直後の4月からいらしている血液内科医です。「放射能についてお話を聞かせていただきたいので、ぜひお力 をお貸しください!」とお願いしたところ、ご快諾いただき、「教えて坪倉先生!放射能のほんとのこと」と題した、放射能に関する草の根勉強会が始まりまし た。

「海に行ってもいいの?」「外へ出た猫に触っても平気なの?」―子どもたちからは素直な、そして切実な、放射能に関する質問が飛び交います。高線量地域に 住むおばあちゃんおじいちゃん、子どもが普段歩く通学路がいまだ線量の高いことを気にする若いママなど、大人たちからも「ここに住み続けてもいいのでしょ うか?」と質問は相次ぎます。それほど、南相馬のみなさんは正しい情報に飢えていたのでしょう。

開催ごとに参加者は増え、一時は60名以上、用意していた印刷物が足りなくなるほどの方々にお越しいただきました。2013年3月現在まで、計44回の開 催で、述べ1,500名の方々にご参加いただきました。(これはひとえに坪倉先生の真摯なご対応と努力の賜であると感服しております。)
また、放射能だけではなく、生活習慣の変化から心身の健康に不安を感じている方も多いため、南相馬市立総合病院、雲雀ヶ丘病院などの医師の先生方にご協力いただき、「心の健康講話」「女性講座」など、気軽に参加できる市民講座を継続実施しております。

一方で、若いママや子どもだけではなく、仮設住宅・借り上げ住宅に避難されている方などからは、「近所づきあいもないし、することが無くてさみしい」「家 に閉じこもることが多い」という悩みを打ち明けられ、何かできないものかと考えておりました。そこで、2012年6月からは、ニットサークル、フラワース クールなど、サロン活動を行うことで、ほっとする時間・交流する空間を、南相馬の方々にご用意しています。こちらの活動も、現在まで100回、述べ 1,400名の方々にご参加いただきました。地元の人と顔を合わせると、どうしても「放射能」「賠償金」の話になりがちであり、ときに疲れてしまうことも あります。そんな毎日の中に、編み物、フラワーアレンジメント、書道など、作業に集中するちょっとホッとする時間をつくり、その時間をみんなで共有するこ とが、気分転換として市民の皆さまに受け入れられた数字ではないかと感じています。

震災後から今まで、南相馬で活動する中で、いかに震災が地域の生活を変え、人のつながりを壊してしまったのかを、ひしひしと痛感しております。震災から2 年が経過しましたが、小高区、浪江町など避難指示の出ている地域の方々は、いつ戻れるともわからぬ避難生活をいまだに続けています。沿岸部にはいまだに津 波の爪痕が生々しく残っています。見えない放射能に、不安を感じる方も未だ多くいらっしゃいます。
これからも、ベテランママの会は、南相馬に暮らす皆様と共に、ささやかではありますが活動を続けていければと思っております。今までご協力をいただきました先生方はじめ、多くの皆様に感謝申し上げます。

※ベテランママの会は、皆様方からのご寄付および助成金によってその活動を何とか続けてくることができました。今後の活動のため、会の活動にご賛同・ご支援いただける方におかれましては、ぜひ以下の口座へご寄付を賜れれば幸いです。
【寄付用口座】
あぶくま信用金庫 東支店(店番号008)
普通預金 0223520 ベテランママの会 代表 番場さち子
【お問合せ・お便り】
〒975-0004 福島県南相馬市原町区旭町2-35駅前モンマビル2階南
ベテランママの会 番場さち子(電話/FAX:0244-23-3918)

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