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Vol.97 支援者のための支援者による支援(For supporters, supported by supporter)

医療ガバナンス学会 (2013年4月19日 06:00)


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南相馬市立総合病院神経内科
小鷹 昌明
2013年4月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


震災から2年が経過した。あくまで私の感じていることなのだが、最近のこの地におけるひとつの課題について報告する。
それは被災者のみならず、「支援者の疲れの原因」と「ボランティアの支援のあり方」とに関することである。つまり、街の復興のために精力を傾け、これまで 奮闘してきた支援者たちの疲労が、まさにピークに達しようとしているその理由と、この時期において必要とされるボランティアの意味とである。

公益社団法人『認知症の人と家族の会』という団体がある。1980年に結成され、全国46都道府県に支部があり、1万人の会員が励まし合い、助け合って「ボケても安心して暮らせる社会」を目指して活動を続けている。
暫定的にせよ”認知症診療”を手掛ける私としては、南相馬市の本症患者がどういう状況にあるかをリサーチする目的で、相双地区におけるこの会の相談員と接触した。そして、彼女たちから、(想像していたとはいえ)厳しい現実を聞かされた。
「この私たちの活動は、すでに極限状態にある。増え続ける毎日の電話相談に対して、もはや責任感だけでは続けられない。支部代表には、いつも、”いつ無くなってもおかしくない”と伝えているのよ」と語ってくれた。
認知症を抱える世帯の急増が、この地の、この人たちの疲労を加速させている。患者の急増は全国的なことで、もちろんこの街に限ったことではないかもしれな いが、限界まで伸びた人間の寿命を支えるための体制が、特にここでは追い付いていかない。私は、患者家族のための個別相談会に列席させてもらった。
仮設住宅にて認知症の母と同居する息子と嫁とは、見守りのために仕事もままならず、狭い部屋に閉じ込められながらも多くのストレスと不安とを抱え、心身は すり切れていく。夫婦仲にも亀裂が生じ、そうかといって誰にも相談できず、自ずとアルコール量が増える。自由はあっても、夢がない、希望がない、目標がな い。そんな生活を余儀なくされるなかで、認知症患者の症状は進む。
患者を抱える家族の愛情、家族を支える支援者の責任、そして、いつしか善意も消失しようとしている。支える人たちの苦悩はいかばかりか。障害を持ったり、判断ができなくなったりした人たちを、いったいどうすればいいのだろうか。
私は、相談員の方々に対して「この相談会を、諦めずに続けていってください」とはけっして言えなかった。そして、「重篤な患者は市立病院へ紹介してください」とも言えなかった。私が伝えられたことは、「来月も、またお手伝いに来ます」ということだけであった。

この街には、パーキンソン病患者が70余人、ALS患者が4人いる(特定疾患医療受給者からの数値)。震災以前からかもしれないが、”パーキンソン病友の 会”や、”日本ALS協会”という患者会活動などというものは、まったく機能していなかった。確かに、「相双地区”パーキンソン病友の会”の世話役」とい う立場の人がこの街にはいるのだが、会員数は8人で、実務的な運動にはほとんど至っていなかった。私は、その理由を尋ねた。
「そうは言っても先生、これまで専門の医師は不在だったし、支える人たちもほとんどいなかったのだから活動のしようがない。私は、妻がこの病気なので、公 費負担が削られないように、何とかこの土地で声をあげていくしかない。本当は独りでなく、組織として陳情していかなければならないのだが・・・」と語って くれた。
組織力のない弱者がどんどん声を失い、孤立していく。私は、「とりあえずは、いまの会員の方だけでも連絡を取って、可能であれば集まりましょう。そして、何ができるか対策を講じましょう」と提案した。

いまこの街で感じることは、「人々の活性が二極化してきている」ということである。頑張っている人のところへは、ますます仕事や物や人が増え、その一方 で、そうでない人のところはどんどん減っていく。そして、不運なことに頑張っている人たちの活動ほど、苦労の割には採算が合わなくなってきている。
さらに、何よりも問題なのは、「孤立する本当の弱者ほど、その声は届かず埋もれていく」ということである。

思うのだが、でもだからと言って「苦難に耐えて」とか、「使命感に駆られて」という状態では、その活動を長く続けることはできない。もっともっと”ハッ ピーな気持ちでの余力のある支え”があってもいいような気がする。これからだからこそ、この街には本格的な支援というか、文字通り”下支え”の必要な時期 がきている。
そのためには、まだまだ多くのサポーターが必要なのだが、ただ贅沢を言わせていただけるなら、私たちは、支援に来られた人や団体と長く関わり合いたいとい う気持ちがある。単発で終了する一回きりのイベントではなく、長くこの街に携わっていただきたいし、言うならば、協働作業によって供にプロジェクトを推進 したいのである。だから、私たちは、そういうつもりで支援に来られた人に対する支援に関しては、ほとんど惜しみのない協力を施す。

私たちのような、震災後にこの地に赴任してきた人間がいま進めていることは、現地で活動する”地元の支援者のための支援”である。そして、その”やり甲 斐”である。ずいぶん平凡な見解ではあるけれど、よく言われるように、やるだけの価値のあることには、熱心にやるだけの価値がある。
私は、たまたまこの地にいるから、この地の不具合について手を入れなければならないことに目が向く。私が言うことではないかもしれないが、他の土地の人たちも、それぞれがそれぞれの現場と立場とで、世の中の不備な点を修繕すべく、動いている。
発信力のある県外の人たちが、幸いにも私たちを支援してくれて、それが連綿と続けば、きっと復興は加速的に進む。

先日のこのメール・マガジンにて、私が南相馬市民と行く”日帰りハイキング”を呼びかけたところ、以下のような参加希望があった。
『はじめまして。私は社会人2年目で、埼玉県在住です。2年前の3月11日、私は卒業旅行中のバンコクで、あの地震に遭遇いたしました(正確に言うと、 ニュースで知ったのですが)。帰国してから、被災地に向かうボランティア等の報道番組を見て、歯がゆく思っていました。踏ん切りがつかずに、「東北に行っ てドロ掻きをしよう」などという行動を起こせずにいました。結局自分のしたことは、震災から半年が経過する頃に2週間だけ、仕事として仙台の区役所のお手 伝いに行っただけでした。震災を現場で体験したわけではないし、積極的に何かの活動をしたわけでもありませんが、でも、それでも(「それだからこそ」かも しれませんが)震災に対しては、”何か”引っ掛かるモノがずっとあります。そんな折にこの企画を知り、身体を動かす楽しい企画でもあるし、思い切って参加 してみようとメールをいたしました。』

励まされるメールである。嬉しくてありがたくてやる気が出る。
このような申し出をいただいて思うことは、やはり人の支援というものは、きっかけなのかもしれない。きっと、「支援をしたい」という資質は、予め備わって いるようなものではなく、何かに遭遇したときに、初めて発動されるものなのかもしれない。しかし、そういうことが実際の行動に結びつくか否かということに なると、それはやはり、当たり前のことだけど本人に内在する”何か”なのかもしれない。それが何なのかはわからないけれど。

私自身も、大学病院時代は診療と研究とばかりで、それ以外のボランティア活動やチャリティなどというものに関心を持ったことなどなかった。むしろ、「研究 費などのお金を、どう引っ張ってくるか」というようなことを考えていた。募金というものもほとんどしたことはないし、人から支えられているという自覚も乏 しかった。
そんな人間が、ある日突然大学を辞めて、研究を止めて、ある日突然好きでこの地を訪れようと思った。でもきっと、それは、「私の中にある、潜在する”何か”引っ掛かるもの」が発動したのだろう。

私は何にも寄りかからずに、ただ好きなことを、自分がやりたいようにやって生きてきた。たとえ人に止められても、悪し様に非難されても、自分のやり方を変 更することはなかった。そんな人間が、いったい誰に向かって、何を要求することができるのだろうか。今だからかもしれないが、私にはそういう反省がある。
でも、この地で生活してきた経験のなかで、ひとつだけ言わせていただけるなら、それは何と言っても「支援者を支援する働きかけが絶対に必要である」とい う、これからのこの地域に対する実情である。そして、それには、まだまだたくさんの支援者に来ていただきたいし、そうした人たちと、楽しく、そして有意義 に暮らしていきたいのである。
ありきたりな結論で恐縮だが、震災から3年目を迎えたいまが被災地の正念場である。”支援者のための支援”をお待ち申し上げております。

幸いなことに、翌月の認知症相談会では、相談員の方々の表情が幾分明るく、若干の活気を取り戻してくれていたこと、そして、差し出されるお茶菓子がとても増えたことが、私にとって何より嬉しかった。
さらに、”パーキンソン病友の会”の会員が3人増えたので、次回には総会を開くことが決まった。私も呼ばれている。

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