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Vol.98 スポーツで心身の健康と学びを創造する その1〜相馬高校への被災地支援〜

医療ガバナンス学会 (2013年4月22日 06:00)


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Sun Light History 代表
細野 史晃
2013年4月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


●被災地支援として陸上教室を通じて感じた事
2011年6月某日、僕は福島県の相馬市に初めて降り立った。この年の3月、大震災に見舞われた地である。
相馬高校の子ども達への陸上教室ということで僕たちはやってきたのだが子ども達の状態がどうなのか?そしてそんな私たちに出来る事があるのか?そんな不安を持ってこの被災地支援教室を開催した。

「はじめまして」「よろしくお願いします」
子ども達からは緊張の色が伺えた。この緊張をどうほぐすか?ここがスゴくポイントだったのだが、ここで大活躍だったのが100mスプリンターの菅野優太。
すでにかけっこ教室などで主に小学生を教えている経験は大きくて子ども達のハートをすぐに掴んだ。そこからの子ども達は元気で、普段私が教えている陸上部やかけっこ教室の子ども達と変わらなかった。私が教える内容も全く同じものを提供した。
菅野優太が子ども達のハートを掴み、私が想像以上のバネを披露し昨年まで400mの現役だった寺田克也が天才的なスピードを見せつけ子ども達や顧問の先生方は驚き、楽しみ、普段味わえない素晴らしい時間を過ごせたのではないかと思う。

最後のリレーでは子ども達や先生方からは「すげー!」「おー!」「早い!」などの言葉が飛び交った。終わる時には「ありがとうございました、またよろしく お願いします!」「次はいつ来るんですか?」ほんの3時間程度の時間でこの場にいる人たちが一体となったような気がした。
今回のポイントは指導に当たったアスリート3人が、普段と変わらない接し方をしたのが良かったのだと思う。普段と違う接し方をしていたらきっとこの教室の 空気感はかなり違ったものになっていたのではないかと思う。きっと直感的に私や菅野優太、寺田克也はそう感じていたのかもしれない。

スポーツ(運動)のいいところは何の条件も無く、仲間になり、楽しめる魔法のコミュニケーションツールだと僕は感じている。ましてや、ここに指導力を兼ね 備えたトップアスリートが教えにきたら子ども達に与えるインパクトはかなり大きく、それでいてかなり良質なインパクトを伝える事が出来る。
普段と変わらない形で教室を運営した事で、このスポーツの持つ魔法のような力を最大限に発揮する事ができ、私や共に参加したアスリートの魅力や力も最大限に発揮されたのではないだろうか?

そして、第一回目は無事成功し、現在も継続して支援中である。活動には加えて800m五輪代表の横田真人、400m五輪代表の金丸祐三大熊町出身の秋本真吾など、素晴らしいメンバーが参加している。
また、この活動を通して、生徒達の競技へのモチベーションや取り組み方が変わってきているのを実感しており、さらに記録も今までよりも向上しているようである。そして回を重ねるごとに表情も柔らかくなりより前向きに楽しく競技に取り組んでいるのがわかる。

「今度は僕たちの方からアスリートの皆さんに恩返しをしたいです」「こういう事に悩んでいるのですが、どうしたらいいですか?」「どうやって試合に臨んで いるんですか?」子ども達からの言葉からも心身の状態が向上した事、競技への姿勢が変わっている事も感じ、確実に変化が毎回起きている。

この活動に参加するアスリートに通じているのは自身が競技を楽しんでいる事その楽しみ方を分かりやすく伝えようとしている事、より楽しみやすい形でトレー ニングの仕方を伝えている事である。そして、何よりもアスリート自身がこの教室を楽しんでいる事がこの教室が上手く行っている一番の要因ではないだろう か。

●子どもの笑顔と元気が復興の象徴
星槎学園の宮澤保夫会長がおっしゃていた言葉で「本当の被災地復興とは子どもの笑顔と元気を作る事だ」という言葉がある。私は復興だけでなく、自身の指導者としての活動を通してこの子どもの笑顔ということが指導・教育において要なのではないだろうか?と感じている。

現在私は独立して仕事を創りながら活動をしているが、同じ経営者や自分の仕事に誇りを持って楽しんでいる人が多くいる。この人たちに共通しているのは「好きな事を仕事にしている」と言う点である。
そして常にハツラツとした笑顔なのである、そして自身に満ちあふれているのである。つまり何を言いたいのかというと、競技や勉強の「楽しさ」を伝え、笑顔 に溢れながら学習や練習をできる環境を作る事が教育者や指導者の仕事なのではないかということだ。昨今の教育界やスポーツ界で体罰問題を始め様々な問題な どもあるが、これらは笑顔で溢れている私たちの相馬陸上教室に解決のヒントがあるのではないだろうか?

●復興支援の今後と個人的な反省と想い
この支援活動を通して、私が伝えたい事があります。アスリートとして彼らに目標に向かってどうやってアプローチしていくか?課題をどのように解決していく か?という「思考能力」と「試行能力」を鍛えていく事。そして、仲間とともに支え合い分かち合いながら未来へ進んでいく大事な大事な人としての力を鍛えて いく事を伝えていきたいと思っています。

とはいっても毎回反省があります。
もっと心を掴む事に集中した方が良かったのではないか。心を掴む事に集中しすぎて伝えたい競技の事が少なかったな。感情が入りすぎて押し付け気味だったな。周囲とのバランスを考えすぎて言いたい事が言えていなかったな。などなど理想の指導とのギャップに毎回悩みます。
一番の悩みは自身が若いという事、そして共に教室に参加するアスリートのネームが大きい事、そのため自分が表に出るよりも彼らを立てた方が見え方が良いのではないか?という事が頭の中にいつもあります。

今年に入って自分の夢であるスポーツと教育の改革を具体的に行動として起こすと決めてからはこの殻を破りつつありますが、周囲とのバランスを見るのも大事なコミュニケーション能力の一つと考えるといつもこの塩梅が難しいなと思います。
とはいえ、目指す頂上が誰もなし得ていない世界だと考えると少々風当たりが強くなっても気にしない自分もいます。

2011年の6月に始まった陸上教室ももうすぐ2年目を迎えます。教室の卒業生が大学に進学して夢に向かって歩み出してもくれています。震災での体験は決 して良い体験ではないと思います。しかし、その体験を乗り越えて、スポーツを通して心身共に鍛え生きる力を身につけた彼らはきっと、未来の日本を支える大 きな力になると思っています。

アスリートソサエティとしてはこの活動を10年続けると決めており、私もこの活動を応援し続けると決めています。そしてこの活動を通して素晴らしい未来を 作る人財を輩出すると決めてます。スポーツにはそれだけの可能性と未来を秘めていると私は確信しています。私自身がその可能性を広げられる人間になるため に今後も精進していきます。これが一番の近道だと思っています。

略歴:細野 史晃(ほその ふみあき)
小石川高校→埼玉大学教育学部→リクルートHRマーケティング(現リクルートジョブズ)→Sun Light History代表
陸上競技歴15年、競技指導歴11年
大学在学中に教育とスポーツの世界の仕組み、そして社会の溝とを大きく感じ、近い未来、子ども達の未来に必ず悪い影響を与えるだろうと想い、教育とスポー ツを改革する事を心に決め、新たな価値を生むための修行の場としてリクルートの門を叩く。2年半の在籍後、体調を崩し療養、その後、スポーツの経験、指導 者としての経験、リクルートの経験を活かし、スポーツを通した人財育成事業を始める。現在の仕事はランニングクラブ、かけっこ教室の運営、パーソナルト レーナー事業、個人・法人へのコーチング・コンサルティング事業を中心に活動中。今後は法人への研修事業や、指導力や人財育成力を養成する講座を開講予定。

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