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Vol.157 産科補償余剰金1000億円は妊産婦500万人に2万円ずつ返還すべき

医療ガバナンス学会 (2013年6月24日 06:00)


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この原稿は月刊集中6月号より転載です。

井上法律事務所 弁護士
井上 清成
2013年6月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1. 国民生活センターに仲介申請
5月22日、28の分娩機関は1041名の妊産婦と共に、日本医療機能評価機構を相手取って、1妊産婦当たり2万円ずつの合計2082万円相当の掛け金の 返還を求めて、消費者庁管轄の国民生活センターに、和解の仲介を申請した。これは第1次の申請であり、今も申請に賛同して増えつつある分娩機関と妊産婦 は、近く第2次の追加での申請を行う。適宜、第3次・第4次と続け、筋論として究極は妊産婦500万人(1年当り約100万件の出産の5年間分)が申請に 参加すればより良い。
日本医療機能評価機構の運営組織が行っている産科医療補償制度では、後遺障害1級・2級相当の重度脳性まひの児の出産につき合計3000万円の補償金が 20年分割で支払われる。ところが、おおよそ年間200件がその平均発生頻度であるので、補償金は年間合計60億円程度にしかならない。その源資となる掛 け金は1出産当り3万円であるから、源資の合計は年間300億円(年間の出産が約100万件)に達するにもかかわらず、補償金はその20%にしかならない というのである。仮りにかなりの事務経費を計上できたとしても、余剰金は年間200億円にも達しよう。そして、産科医療補償制度は5年でひと区切りとし て、6年目からは見直されることになっていたから、制度開始後5年間で余剰金は1000億円にもなる。5年間の満了まで、あと半年余りであり、余剰金が約 1000億円になることは確実である。
そこで、結果としては暴利とも称されそうな、この本来の趣旨を明らかに逸脱した1000億円の余剰の清算を究極の目標とし、それも、掛け金を実質的に拠出 した妊産婦にそれを戻させるべく、分娩機関が専ら妊産婦のために好意で行うべく申請に至った。制度の仕組みからして、法形式上は妊産婦ではなく分娩機関が 返還請求者にならざるをえなかったが、これは経済的な実質からすれば、妊産婦自身の返還請求と言ってもよい。

2. 厚労省管轄ではなく消費者庁管轄での解決
産科医療補償制度は、厚労省管轄の日本医療機能評価機構の運営組織が行っている制度である。モラルハザードのような余剰金が生じたのであるから、本来なら ば、日本医療機能評価機構自身が率先して自律的に対処すべきことであった。しかし、その運営組織には自律性が欠如している。今までは余剰金問題の見直しと 清算を自らしようとしなかった。この間、厚労省保険局も医政局も、運営組織を指導しているとも見えない。つまり、厚労省管轄の手立てでは、解決の見込みが 立たなかった。そこで、厚労省管轄下においては自律性が喪失していたのでやむをえず、いわば第三者機関に当たる消費者庁管轄の国民生活センターに他律的に 解決への道を求めるしかなかったのである。
もちろん、本件は消費者問題と言ってよい。産科医療補償制度という不備な制度とその不適切な運営によって、消費者たる妊産婦500万人に同種被害が広がっ たのである。これこそが消費者被害の典型パターンであり、だからこそ国民生活センターが適切と考えうるところであろう。今後は、国民生活センターが消費者 保護の視点から、しかも他律的に第三者として問題解決に乗り出すことが期待される。

3. 訴訟ではなく話合いでの解決
当然、法的には、ストレートに分娩機関が日本医療機能評価機構を被告として、掛け金返還請求の訴訟を提起してもよい。しかし、この問題には多くの利害関係 人が潜在している。より良く訴訟になじむ一対一の単純な対立構造ではない。まず、相手方たる日本医療機能評価機構の側には、現実に余剰金をプールして管 理・運用している損害保険会社5社が存在する。問題解決には、日本医療機能評価機構と損害保険会社5社との間の利害調整が不可欠であろう。
他方、被害者側には、500万人の妊産婦だけでなく、公金たる出産育児一時金を拠出した多くの健康保険組合などが存在する。確かに健保組合も財政が厳し く、しかも、源資のもとをたどれば健保組合であるから、妊産婦でなくて組合に戻すべきという論もありえよう。ただ、この点はそう簡単には割り切れない。そ もそも妊産婦自身(またはその配偶者)が組合の構成員である。つまり、組合対組合員の内部問題(潜在的な妊産婦も含めて)と言ってよい。この対応は各組合 によっても考え方が異なろう。
別の観点から言えば、出産育児一時金問題は、「手ぶらでお産」政策、「少子化対策」の一環である。実際上、分娩費用は平均50万円程度であるから、現行の 42万円(掛け金相当分3万円も含む。)との比較では、そもそも「手ぶらでお産」が実現できていないし、「少子化対策」としても甚だ十分でない。すると、 たまたま掛け金の一部の2万円が妊産婦に返還されたからといって、これを組合側が取り上げてしまうのは妥当性を欠く。
したがって、これらの点を考慮するだけでも、訴訟よりは話合いが適切だと考えられよう。

4. 5年内と6年目以降は峻別して議論を
往々にして、6年目以降の見直しの議論と5年内の清算とを混同しがちである。余剰金1000億円は見直し論議をして将来は有効適切な用途に使うので清算はしなくてよい、というが如きたぐいであろうか。しかし、このような論理は暴論であり、モラルハザードである。
5年と決めてひと区切りとして制度を開始したのであるから、5年内については厳格に清算しなければならない。今どきの公金の取扱いについては、大学教授の 研究費補助金の翌年度流用問題を挙げるまでもなく、当然の良識であろう。そして、情報の全面開示、高度の透明性の確保とその上での適切な対処は、日本医療 機能評価機構の「公益」財団法人としての性格からしても当然である。運営組織にモラルハザードが存在していたかどうかについては、日本医療機能評価機構の 個々の理事達がそれぞれの法的・社会的責任の下で、厳格に調査すべきことであろう。
なお、6年目以降の見直しについては、ざっと考えるだけで5通りの多様な選択肢がある。5年間分の清算の状況を踏まえつつ、6年目以降の見直しの政策的議 論が、国会・議連・厚労省政務三役・社保審医療保険部会・中医協・消費者庁担当大臣のすべてのプロセスにおいて、開かれた形で十分に行われることが望まれ よう。

 

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