医療ガバナンス学会 (2013年6月26日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2013年6月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
ご存知のように、風疹は妊娠しているときに感染すると、難聴、白内障、心疾患などの先天性風疹症候群(CRS)をもった赤ちゃんが生まれる可能性があります。ですが、「ワクチンで予防できる」病気です。
2012年の報告によるとアメリカでの報告数は0でした。不名誉なことに、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)から日本への渡航に関して警戒レベルを あげるという報告( http://wwwnc.cdc.gov/travel/notices/alert/rubella-japan )が出てしまいました。
CDC recommends that all travelers to Japan protect themselves from rubella by being up-to-date on their rubella vaccine. Pregnant women who are not protected against rubella either through vaccination or previous rubella infection should avoid traveling to Japan during this outbreak. This is especially important during the first 20 weeks of pregnancy.
下線部は、「免疫が無いと考えられる妊婦は日本へ渡航は避けるべき」との注意喚起です。日本がこのような状態なのはなぜ?どうして何も動いていないの?過 去に定期接種が整備されていなかったから?2004年にもアウトブレイクしているのに?緊急事態じゃないの?とか色々あるかとは思うのですが、一医療者と しては、今出来ること、継続的な注意喚起とワクチン接種を頑張って行くしかありません。
すでに感染症を専門とする先生をはじめ多くの方が声を上げています。一人でも多くの方に情報が伝わり、しっかり免疫をつけていただきたいと思っています。
そして、色々な「自治体」がワクチン接種の助成を開始しました。
(参考:東京都感染症情報センター http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/rubella/vaccine/#tokyo )
いくつかの「企業」も独自に助成を開始、私が働く病院の外来にも、特に土曜日などは、かなりの数の方がワクチンを打つために受診されています。これ自体は良いことですが、「妻は助成が出るけど夫はない」「自治体ごとに対応が違う」といった話はよく外来でも指摘されます。
あるクリニックがボランティアで自腹を切るわけにも行きません。「補助が無いので、打つ気はありません」と真っ向から言われて返す言葉に詰まることもあります。金銭的な負担も大きな問題です。
しかしながら、このような接種の動きが次の問題を引き起こしつつあります。ワクチンの枯渇です。「みんながワクチンを打つと、ワクチンが足らなくなるた め、妊娠予定の方など、必要な人に優先するようにしてください」という協力依頼文( http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/dl/130614.pdf )が厚労省から出てしまいました。
こういうものは、集団で多くの方が接種することによって、その集団全体を守るもので、一部の方だけ抽出して接種することにより、その打った人だけを守るものではありません。「私は妊娠しないので(ワクチンを打つとか)関係ない。」というのは明確に違います。
ワクチンをどこから供給するのか、他国で使おうとしているものを日本に持ってきてということをやろうとするのか、など色々な意見や問題があるようです。
継続的な注意喚起といっても、市民の方の熱はいつかはさめてしまうのでしょう。本当に伝えたい若い女性にどうやって情報をリーチさせるのか、学校で伝えることは出来ないか?なども問題になります。
もちろん、放射能は風疹と違って人から人へうつりません。原因もそれが引き起こす結果も異なります。このブログの主旨ともずれるかもしれません。
私が偉そうに申し上げる立場には無いことは重々承知しております。ですが、放射線被曝に関わる検査の抱える問題と、今回の風疹アウトブレイクが明らかにする問題点は、個人のレベルから、より大きなレベルまであまりにも酷似することが多くあるように感じました。
きれいごとなのかもしれませんが、多くの関係者が協力して前に進み、一人でも多くの方が健康に生活を続けることが出来るよう祈っています。
表:年齢によっても風疹対策は異なっています。
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http://apital.asahi.com/article/fukushima/2013062400004.html