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Vol.167 3.11後、福島で生きる

医療ガバナンス学会 (2013年7月4日 06:00)


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福島県立医科大学副学長・医学部長
大戸 斉
2013年7月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


東日本大震災、そして東京電力福島第一原発事故から2年が過ぎ、今年もまた電力消費の自粛を呼びかけられる暑い夏に入ろうとしている。
震災直後から、ここ福島県立医科大学には国内外からほんとうに多くのお力添えや励ましをいただいた。皆様のご支援に心より感謝を申しあげたい。一方、応援 の意味も含めるご批判などもいただいた。多くの制約はあるが、改めて福島の復興のために力を尽くしたいと意を強くしている。そういう思いを込め、今年5 月、福島県立医科大学附属病院被ばく医療班(現・放射線災害医療センター)のメンバーが編集した書籍『放射線災害と向き合って-福島に生きる医療者からの メッセージ』(ライフサイエンス出版 http://www.lifescience.co.jp/index.php )が発行されたので紹介したい。

震災直後から数週間、福島県内の医療施設がどこでもそうであったように、当大学病院も上水道の完全断水、ガソリンの枯渇などによって医療施設としての機能 が著しく損なわれた。そこで働く職員も自らが”被災者”でありながらも、被災者から救援が求められる災害最前線に対峙していた。それに加え、原子力発電所 の爆発による高濃度の放射性物質の飛散。壊滅的な放射線被害に陥るのではないかという恐怖を抱きながら、我々職員は、情報不足の中で暗中模索的に対応しな ければならない切羽詰まった状態にあった。そのような状況下で、当大学の職員が何を思い、どのように対応したかを第1章で、問題提起の意味も含め詳しく記 述している。
第2章以降では、第1章を踏まえ、放射性物質とはどういうものか、原爆やチェルノブイリ原発事故からわかっている放射線被ばくの健康影響、低線量放射線被 ばくへの考え方、福島の現況と今後の健康サポート、こころの問題、大災害が起こったときのリスクコミュニケーションのあり方や危機管理について記してい る。
いずれも、共に困難に向き合った当大学で働く職員のうち、とくに過酷な最前線で現実に体験した救急科、放射線科、心身医療科、小児科、内科、外科、公衆衛 生の医師たちが、自らの良心に従って生きた言葉として、福島で生きる人たちへの医学からの応援の一つとして表現している。妊娠中の奥さんと、あるいは小さ な子どもを育てつつ、時に深く悩み、あるときは希望の灯を見いだしながら、こころの奥深くから絞り出したメッセージでもある。そしてそれは単に福島だけで なく、日本の後世に伝えるべき内容にもなっている。

チェルノブィリ事故にも譬えられる福島第一原発事故だが、放射性物質放出量はチェルノブィリの約10分の1、地上に落下したのは放出量のおよそ10分の1 で、陸地全体では100分の1以下に止まったと報告されている。原子力発電所事故で幸いにも直接的に高線量放射線被ばくの犠牲になった方はいなかった。し かし、多くの人たちが避難を余儀なくされたのは紛れもない事実であり、依然として続いている。原発事故直後、10万人以上が避難し、その中から1年半後ま でに1,500人から2,000人が亡くなった。認知症に陥る高齢者も2倍~3倍増加した。地震と津波被害だけで原子力発電所の水素爆発が無ければ、あえ て困難な道を選択することはなかっただろう。避難は緊急的には避けられないが、年余に亘って他に選択することが無く強制するに値する万能な方策であろうか との思いが、私の心の中で強くなっている。しかし、放射線被害が生じる可能性が出てくる100mSv 以上に達しない地域の人々がその地に留まることによって増加するリスクと避難することによって生じたリスクを天秤にかけることは現時点では許されていな い。

ところで、中学生や高校生が福島県の未来を自ら創り出そうとする力強い意気込みを見聞することが多くなってきた。当大学も例外ではない。2012年の入試 では全国、特に福島県内から当大学を目指す受験生が増え、事実県内の合格者も増えた。「福島県の復興のため役立ちたいから福島県立医科大学を受験した」と はっきり言う。2013年の医学部卒業生のうち、福島県内病院での臨床研修を選択する人も増えたことは、今後の福島の復興にとって何よりの贈り物である。

福島のさまざまな場所・医療施設では、震災・原発事故以来、心身への健康サポートに力を尽くしている方々が大勢いる。福島県立医科大学も、福島の基幹医療 施設、教育機関として自らの職責をまっとうしていくが、その思いをできるだけ多くの方と分かち合いたい。その手段の一つとして、『放射線災害と向き合って -福島に生きる医療者からのメッセージ』をぜひ手にとっていただき、ご意見等をお聞かせいただければうれしい。

【プロフィール】
大戸 斉(おおと ひとし):福島県立医科大学 副学長、医学部長、輸血・移植免疫学教授
『放射線災害と向き合って-福島に生きる医療者からのメッセージ』では、序章を執筆。

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