医療ガバナンス学会 (2013年7月3日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2013年7月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
人は24時間ずっと野外に居るわけではなく、遮蔽された家の中や建物の中で生活している時間があるからです。遮蔽された空間の中にいることでトータルの外部被曝量が下がることにつながっています。
農家のご家族さん全員にガラスバッジを持っていただくと、子供に比べて大人で値が高くなる傾向があります(もちろんご家族によりますが、一般論です)。寝ている場所は同じ家の同じ部屋、その時間帯の被曝量は同じであるにも関わらず、なぜなのでしょう。
答えは昼間の被曝量が違うからです。大人は昼間に農作業をするため、外に出て働いている時間が長いですね。一方、子供はしっかりとした建物であることの多 い学校の校舎中で生活しているからです。平均的な子供の生活を考えると、24時間のうち、8時間は睡眠、8時間は学校にいます。
このブログの46回( http://apital.asahi.com/article/fukushima/2013012100004.html )でも紹介しましたが、トータルの被曝量を下げるためには、長時間生活する場所の空間線量を低く維持することが大事です。ホットスポットを避けることより も優先順位が高いのです。言い換えると、高い線量の場所を一瞬~数十分程度通過することを避けるよりも、長時間生活する場所の空間線量が低いことが大事だ ということです。xxμSv/hを指すホットスポットを見つけてどうこうするより、長時間生活している場所の線量を0.1でも0.2でも下げる努力をする 方が、外部被曝を下げるために効果的です。
もちろん、そのホットスポットの存在が、長時間生活する場所の線量に影響する場合はその限りではありません。
学校に登校して、授業中に鉄筋コンクリートの中で生活していることは、子供のトータルの外部被曝量を下げる上で重要な役割を果たしています。表現が悪いか もしれませんが、子供達が鉄筋コンクリートなどで出来た建物の中に集まることによって、集団で浴びる線量を野外の空間線量から大きく下げています。
早期に学校が再開され、除染なども行われてきたことは、事故直後の時期の子供の集団としての外部被曝を下げるために大きな役割を果たした可能性があると思います。
もう少し踏み込んで言うと、全地域の除染が満遍なく一度行われることより、学校などの除染が繰り返し、繰り返し行われることの方が、被曝量という観点からは重要なのかもしれません。
先日、時間ごとの外部被曝線量を記憶できる積算線量計を、何人かの病院スタッフにつけてもらいました。早野先生が中心となり開発してくださったものです。私自身もつけています。
すると、人によっては時間ごとの外部被曝線量が、昼:0.1μSv/h → 夜:0.2μSv/h → 昼:0.1μSv/h → 夜:0.2μSv/h というように、規則正しく高くなったり、低くなったりする方が多いことが分かりました。寝ている場所の線量がだいたい0.2、昼間の仕事場の線量が0.1 ということです。
この方の場合は、昼の仕事場が屋内で遮蔽のより強い場所であり、さらに線量を下げようとするならば、寝るところの線量がより低くなるように場所を探すしか無いわけですね。
内部被曝の原因の多くが、出荷制限のかかったような種類の食品を未検査で、継続的に食べることであるように、外部被曝の原因にも優先順位があります。
長時間生活する場所、つまり多くの場合、学校と寝る場所の線量を低くすることの優先順位が高いと思います。
ただ、こんな話をしていますが、様々な自治体で公表されているガラスバッジの結果から分かるように、現在の年間の追加外部被曝線量は多くの子供で1mSv を切っています。事実として現在、日常生活での外部被曝はかなり低く抑えられています。そうした中、私は優先順位については上で述べたようなことを考えて います。
写真:早野先生と積算線量計の解析中!
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http://apital.asahi.com/article/fukushima/2013070100005.html