医療ガバナンス学会 (2013年7月25日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2013年7月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
今回は、内部被曝検査とは別のお話を紹介したいと思います。
南相馬市立総合病院に震災後の数週間から数カ月の間、イヌに咬まれて救急外来を受診された方が、震災前に比べて多かったことが分かりました。
(参照:こちら http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0091743513002053 )
いわきのときわ会常磐病院でも働いている森先生が中心となりまとめてくれました。
ご存知のように、現在計測されているような放射線は、下痢や出血、やけどといったいわゆる急性放射線障害が出現するような放射線量とは、桁が何桁も小さな 値です。一方で、急性の放射線障害は、「近ごろ。うちの子、鼻血をよく出す」とか、「近ごろ、下痢になったり、便秘になったり」といった(表現が悪いかも しれませんが)生易しい症状では全く済みません。
急性放射線障害の際の出血は、鼻出血だけに留まりません。それだけで致命的になることもありますし、下痢も1日何リットルも点滴をしなければ、体内の水分 のバランスが保てないこともあります。骨髄移植は、年齢と病状にもよりますが、3日間で12 Gyのあえて全身被曝を用いる治療法です。それでも、多くの方がそのような急性の放射線障害に耐えながら、今も白血病と戦っています。
繰り返しますが、一般生活を送っていらっしゃる方で、現状の環境からの被曝量が、急性放射線障害を考慮するような桁になることはありません。
話がそれました。
今回の犬に噛まれたという話は、事故直後、何か我々の予期しないような突飛な症状や採血結果を呈して救急外来に受診された方がいなかったか、確認している際に分かりました。
通常の外来の他に、救急車の受け入れや時間外診療などを行う救急外来が多くの病院にありますが、その受診簿を見ていたときの話です。
実際に受診数が増えていたのは、上に示したような急性放射線障害という話では全く無く、犬咬傷でした。100件の救急外来受診のうち、震災前0.2件だっ たのに対して、震災後は6.5件まで増えていました。そして震災後3週目がそのピークで、今は震災前のレベルに戻っています。
典型的な、受傷歴は以下のようなものでした。
原発の爆発直後、南相馬から避難をした。その後、1~2週間経ってから、南相馬に戻ってきた。戻ってくると隣の家の犬が鳴いていた。見ると鎖に繋がれたま まになっていた。(飼い主は)いくらか食べ物を置いていったようだが、もう食べるものも無くなっていた。何か(犬に)食べ物をと思って近づくと、いきなり 噛み付かれた。
あの当時、野良犬が多かった。恐らく飼い主が(避難に)連れて行けないということで、置いていたのだが鎖を外してしまっていたのだろう。首輪はついている 犬、何匹かが群れをなしていた。3匹の犬の群れがいて、えさをあげようと思い、声をかけたらいきなりこちらにやってきて、噛み付かれた。
そんな内容でした。これは獣医の先生にお聞きした話ですが、通常犬が噛みつく際は、威嚇行動が先行するそうです。つまり、「うー、わん」となり、さらに「うー」と威嚇してから噛み付くのだそうです。
今回のように、いきなり噛み付かれたというのは、犬に大きなストレスがかかり、切迫した状況であったことを示しているとのことでした。
幸い、明らかに重症化した方はいらっしゃいませんでしたが、犬咬傷は傷口から菌が入って大変なことになる場合もあり、軽視できません。もちろん、今の南相馬市は、野良犬がたくさんいるような状況では無いことも付け加えておきます。
公衆衛生的には、破傷風や狂犬病などを含めたワクチンの対策をどうするかとか、救急体制をどうするかとか、いう話になるのかなと思います。上記の発表文で は、あの当時、多くの家畜や動物達が大きな被害を受け、餓死してしまったり、殺処分にあったり、といった目に会ったことを忘れてはいけないという思いも込められているのです。
今日はこの辺で。
写真:放射線の説明会を続けていますが、先日は市立病院産婦人科の安部先生と一緒に行ってきました。安部先生は性の問題や妊娠出産について、分かりやすく説明されていました。非常に大事な問題です
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http://apital.asahi.com/article/fukushima/2013072200006.html