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Vol.187 水道水源上流の産廃処分場建設に断固反対!

医療ガバナンス学会 (2013年7月29日 06:00)


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この記事は相馬市長立谷秀清メールマガジン 2013/07/08号 No.281 より転載です。

福島県相馬市長
立谷 秀清
2013年7月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

宮城県丸森町筆甫(ひっぽ)地区川平集落に計画されている産廃処分場建設計画に、相馬市民・新地町民が大反対しています。

3.11の震災で相馬市は、多くの建設物の撤去や補修を余儀なくされる程の激震に遭い、ほどなく押し寄せた大津波により458柱に及ぶ貴い市民の命を失い、対応に追われていた直後の混乱期に、今度は原発事故による放射能汚染と風評被害に襲われました。

あの忌まわしい記憶から二年余。市を挙げて不断の努力を続けて来ましたが、未だ復興は道半ばです。
そして、住み慣れた地域を追われた海岸部の被災者たちは、仮設住宅の不便な生活から一日も早く抜け出し、高台に建設される災害公営住宅での生活再建を目指して懸命に頑張ろうとしている時に、あろうことか、相馬市の水道水源の上流に産廃処分場の計画が持ち上がりました。
隣の宮城県、隣の丸森町の産廃処分場建設計画ですが、その下流が福島県の相馬市・新地町であるという、事情は特殊でねじれた様相を呈しています。

福島県相馬市と宮城県丸森町は阿武隈山地の山間部を境界として隣接していますが、この境界線上に松ケ房ダムという農業用水を蓄えるためのダムがあります。 このダムからの水流は相馬市の中心部を貫く母なる川、宇多川の上流に注ぎますが、その下流にある取水口からそうま土地改良区の灌漑システムにより取水され た農業用水は、相馬市・新地町の水田農業のほぼ全域を潤します。

また河床から伏流水となった水は市街地宇多川沿いに湧き出し、相馬市街地の水道水の約半分の水源となります。

今年の4月初旬、その松ケ房ダムの丸森町側湖岸に近接した川平集落に、産業廃棄物処分場の建設計画が持ち上がり、業者の関係者がお金を使って川平集落の住 民からの同意書取り付けに動いているという、丸森町からの情報が飛び込んで来ました。問題は地理的形状によりその排水はすべて松ケ房ダムに向かって流れる ことです。丸森町と相馬市・新地町は婚姻関係や経済活動での協力関係など、もともと縁の深い地域です。また川平集落出身の相馬市民も多く、縁故者との関係 悪化を心配した方々からの情報提供でした。

実は、この地域には以前から産廃の話が何度か持ち上がっては消えたため、相馬市には「水道水源上流の産廃に反対する市民の会」が立ち上がっていましたが、 今までは宮城県と地元住民の方々の協力もあり、反対運動が効を奏して来ました。私は早速、丸森町の保科町長と面談し、今回の産廃計画に対しては、お互いの 市町の関係を損ねないためにも一致協力して反対運動を展開してゆくことを申し合わせました。保科町長は隣接する丸森町大内地区のご出身で相馬市に親戚も多 く、20分も走れば医療、買い物、食事などは相馬市街で済ませることが出来たと言います。町長に限らず両市町は、他県と言えども経済圏、医療圏などで助け 合ってきた土地柄でした。

冒頭申し上げたように、地震・津波・原発と三重苦に苦しむ相馬市・新地町にとって、水源地の上流の産廃処分場計画は、傷口に塩を塗り込むような、話だけで も憂鬱になる事件です。また状況の進行によっては何百年と続いたこの圏内の人々の絆を分断してしまうことになるので、両首長と前述の市民の会が中心とな り、住民運動を盛り上げていこうと握手を交わしました。

町長によれば、筆甫地区の川平集落を除く10の自治組織から反対の陳情書が寄せられているとのことですが、今回は川平集落31戸のうち殆どの世帯の同意書 を、すでに業者側が取り付けているのが困難なところです。このことに対しては関連する3市町のあらゆる団体・組織と個人的な関係を使って川平地区を説得し てゆこうと思っています。

5月1日になって、今度は宮城県循環型社会推進課から「業者の説明会実施などの事前手続きを相馬市にも該当させるかどうか?」という照会文書が届きまし た。「説明会をすることが問題ではなく、そのような計画が進行すること自体が困るのですよ」、と申し上げたところ宮城県の担当者からは「業者からの書類が 適切に整備されていれば、許可を出さざるを得ない」とのコメントでした。

実際、宮城県の条例では、当該市町村や流域下に説明会をすれば同意の有無は許可条件にならないことになっています。一方、福島県が平成24年12月に定め た福島県産業廃棄物処理指導要綱によれば、業者には事業計画書などの提出を義務づけ、その中で事前協議書として下流域の水利権者の同意書や関係市長村長と の協定書を添付しなければなりません。

しかしながら許認可の権限はあくまで宮城県ですので、「宮城県の条例によって許可を出すに当たっては相馬市や新地町の利害や住民感情は抑止力とはならな い。しかし、もしも被害を受ける状況が発生するとしたら、それは宮城県ではなく福島県の相馬市・新地町である。その場合影響を受ける福島県側の条例や要綱 は宮城県の許認可の際にまったく適用にならない」、という腸ねん転を起こしそうな状況に立っています。「しっかり審査すれば」と言うかも知れませんが、原 発を「安全だ安全だ」と言われてきた福島県民の感情に通用することではありません。

両県に跨る問題なので、「この際は流域下が福島県の相馬市なのだし、それも水道水源上流という生活に密着した問題なのだから、福島県の要綱に準拠して相馬 市・新地町の意向を斟酌するように、福島県として宮城県に申し入れをすべきではありませんか」と4月以来福島県に度々要望してきました。また反対運動のた めには市民の理解が最も重要と考え、啓蒙の意味も含めて5月末に全戸市民アンケートを実施しました。「よく分からない」という8%の人たちは別として、9 割の市民が「反対!」の意思表示をしています。

私や市民の会は、アンケートの結果を踏まえ6月11日に村田福島県副知事と面談し、県として動いて欲しいとの要望書を出したところ、「宮城県側に趣旨を伝えて慎重な対応を求める」という返事でした。

一方、相馬市の農業者からは、5800人の署名による宮城県知事宛の産廃処分場反対の要請書が届いていましたので、私と土地改良区の代表者たちは、6月 17日に宮城県に持参しました。村井知事も丁寧に応対してくれましたが、その返事は「相馬市の事情を踏まえて慎重に対応する」とのことでした。情に篤い村 井知事のコメントからは、市民運動の盛り上がりにもよるのではないか?という示唆を戴いたような気がします。

ところが、翌6月18日には「宮城県から相馬市に説明に行くように言われた」として、件の業者が相馬市と新地町に来訪し、建設計画概要を説明した上で、 「建設に向けた事前説明会の範囲と方法について協議したい」と申し入れて来ました。相馬市としては反対の意向を示し、業者側の作業に協力をするつもりは毛 頭ないことを伝え、計画の中断を求めました。

宮城県知事への反対要望がテレビで大きく取り上げられたこともあり、最近では全国紙からの取材も増えて来ました。市民・町民の関心も高まり、相馬市・新地 町の議会は反対の決議をして、丸森町の町議会への働きかけも始まっています。3市町の市民町民の間にも、このような困難を排除して、これからも両地域の絆 を大切にして行こうという機運も盛り上がって来ています。

さらに私は、弁護士の資格を持つ元職・現職の国会議員の方々にも相談して来ました。対応策を講じてもらいながら、この理不尽な産廃建設計画と闘ってゆこう と考えています。震災以来、相馬市の復興に気持ちを寄せていただいた、拙メルマガをお読み頂いているあらゆる方々のご協力をお願い申し上げます。

 

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