最新記事一覧

Vol.196 持続可能で安全な医療体制構築のために―急性期病院の集約化という選択肢―

医療ガバナンス学会 (2013年8月9日 06:00)


■ 関連タグ

一般社団法人全国医師連盟代表理事
中島 恒夫
2013年8月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


【はじめに】
医師不足、特に勤務医不足を端に露呈した医療崩壊への処方箋として、全国医師連盟は急性期病院の集約化、すなわち、急性期病院への受診制限をこれまでにも 提案してきました( http://zennirenn.com/news/2013/06/2013-21.html )。その目的は、医療安全と、持続可能な医療制度の維持です。
昨今、厚生労働省も急性期病院の集約化をもくろんでいることが報道されましたが、厚労省の主張する集約化は、医療費削減だけが目的であり、医療の質や安全 を維持することではありません。勤務医の過重労働を改善することで良質な医療を提供でき、医療の安全に繋げるという発想が欠落しています。私たち全国医師 連盟の考える急性期病院の集約化は、良質な医療を提供することを目的としています。
「Cost(医療費)」「Access(受診のしやすさ)」「Quality(医療の質)」の3つが並立しないというオレゴン・ルールは周知のとおりで す。「Quality」を維持しようとする医療従事者の「善意」がある限り、「Cost」を上げない社会保障政策は、「Access」の低下(制限)とい う選択肢しか残しません。

【安全な医療は、適切な労務管理の下でのみ、提供できうる】
現在の医療資源を将来にわたって安全に、かつ有効に活用するためには、医療機関(特に急性期病院)のさらなる集約化、病院と診療所の分業の明確化と連携の 徹底は不可欠です。すなわち、救急医療、入院を必要とする専門医療を病院が担い、外来を診療所が担うべきです。現在、厳しい条件下で従事している勤務医の 就労環境を労働基準法に準拠させることは、安全な医療体制を受診者に提供でき、勤務医が急性期医療入院を必要とする専門医療から撤退しないために、最優先 で行うべき施策です。
医師数が絶対的に不足している現状では、急性期病院の集約化に必要なことは、病院あたりの医師数を増員するだけでなく、病床あたりの医師数を増員すること です。そのために病院経営者は、勤務時間を正確に把握するなど、適切に労務を管理することから始めなければなりません。杜撰な労務管理下で、交替制勤務や フレックスタイム制は成立しません。安全な医療を提供したい勤務医が、労働環境の正常化を要求することは必然です。勤務医の労働環境改善を蔑ろにする病院 経営者は、医療の安全性を低下させ、勤務医の疲弊を招くことで医療の継続性を絶っており、医療の破壊者という誹りを免れないでしょう。
急性期病院の集約化と称して、勤務医に対してさらなる過重労働を強いることがあってはなりません。過重労働を強いる急性期病院は、良質は医療を提供できま せん。過重労働で心身共に疲れ果てた勤務医が支えている現状は、医療の安全を蔑ろにしています。過重労働に起因する医療事故を避けるために、病床あたりの 勤務医数を大幅に増員するまで急性期病院を集約すべきです。集約できないのであれば、適正な医師数ではなく、必要な医師数を基に、医師数を増員すべきで す。
ただし、集約化の前提として、後方病院までの距離や人口数を各地域ごとに考慮しなければ、基幹病院の空白地域が生じます。自治体の枠を越えたドクターヘリ 網の確立や医療機関に繋がる交通網の充実など、病診連携・病病連携のための効率的な患者搬送システムの構築などの対応は必須です。そうした対応を以てして も回避できない地域医療の空白化に対しては、その地域の実情に合わせた急性期病院の維持が選択肢となり得ることは当然です。実際には、移動距離の短い都市 部の急性期病院から集約化を始めることが望ましいと考えます。

【急性期病院としての自治体病院は、存続可能か?】
急性期病院の集約化は、自治体病院から始まるかもしれません。平成26年度の予算・決算から、地方公営企業会計制度が変わります。地方公営企業会計と企業会計の制度上の違いが、近年問題視されていました。両制度間の整合性を図るために、地方公営企業会計制度が変わります。借入資本金の負債計上、退職給付引 当金など各種引当ての義務化、みなし償却制度(固定資産の取得に伴い交付される補助金・負担金を取得価額から控除した額を基礎に減価償却ができる制度)の廃止などが、主な変更点です。これまでの地方公営企業会計制度は、民間企業の粉飾決済のようなものでした。会計制度が変わることで、自治体病院の経営実態 が露呈します。経営状態の悪い自治体病院は、近隣自治体間でそれぞれの自治体病院を「統合」し、より広域化した急性期病院として再出発しなければ、その地 域での安全な医療を提供できなくなることもありえます。

【診療報酬によるアクセス制限は、医療安全を目的とすべきである】
現時点で、もっと容易な施策は、診療報酬制度上の改善です。現在の診療報酬制度は、アクセス制限と逆行した制度設計です。「複数科を受診しても、複数科分を請求できない」という不合理な病院再診料は、その一例です。このような算定方法は勤務医の診療技術を不当に低く評価し、「法の下の平等」を蹂躙し、勤務 医のモチベーションを下げます。減収を補うために患者数を増やす経営手法をとる病院もあり、そうした病院は勤務医にさらなる負担を強いています。複数科受 診ごとに再診料を課すだけで、外来機能を病院から診療所に移す原動力にもなり、過重労働に苦しむ勤務医の外来業務負担を軽減できるので、是非とも改めるべ きです。

【最後に】
現場の医師は、自分に許される最大限の時間を割いて努力しています。勤務時間と無関係に患者を診療することで、聖職者と言われてきました。医師・医療とい う「人材・資源」を国民・メディアはどのように考えるのか。「3時間待ち、3分診療」と揶揄されますが、「Access(受診)」を制限しなければ、「3 時間待ち、3分診療」は解決できません。医師はもはや聖職者でもなく、ボランティアでもありません。医師はプロであり、プロにはそれなりの対価が必要で す。「際限ない医療需要の増加」と「医療の供給量が不足」という不均衡が、現在の日本の医療崩壊の主因です。「Cost」「Access」 「Quality」の三者が並立しないことを日本国民も十分に理解し、「Cost」「Access」「Quality」のいずれを重視するのか。国民は、 もう決めなくてはいけない時期です。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ