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Vol.203 医療事故調査法制化に向けての準備(1) 理解が必要な第三者調査の問題

医療ガバナンス学会 (2013年8月20日 18:00)


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秋田労災病院内科
医療制度研究会理事長
中澤 堅次
2013年8月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


医療事故調査に関する検討部会は終わり、厚生労働省はガイドラインの作成と法案化に向けた作業に入っている。

■厚労省検討部会における取りまとめ案の概略
今回の取りまとめ案では、医療機関に院内調査と被害者への説明を義務付け、同時に第三者機関を新設する。第三者機関は、再発防止を目的に全例の報告を求 め、評価分析を行う役割の他に、医療機関の説明に納得しない当事者からの届け出を受け、独自に調査を行い、結果を両者に開示するという二つの役割を持つ。 また院内調査そのものにも専門第三者の参加を原則とするなど監視を強化している。第三者機関の二つの役割と院内調査の監視強化は、医療事故の問題解決とは 逆のベクトルであり、新制度は初めから矛盾を抱えたままのスタートとなった。

■新制度に対応する準備の必要性
多くの医療機関では院内調査の経験がなく、死亡例を対象とするだけに、紛争に発展した時の展開は今までと異なる。準備の無いまま制度が導入されれば、マイ ナス効果により医療の信頼を落とすことも考えられる。いずれにしても新制度は、医療者全体にあたえられた課題であり、ほかのだれがそれを担うものでもな い。すべての医療機関は法律の施行に向けて今から準備を始めるべきである。筆者は医療事故調査の仕組みに関する検討部会に参加した経験から、すべての医療 関係者に向けて今から準備する重要性を訴え、前後3回に分けて問題点と対策について述べてみたい。
第一回にあたる本稿では、新制度における第三者調査の問題を指摘し、第二回は院内調査を論じること、第三回は院内調査を支援するため、医療者が独自に支援組織を準備する必要性について述べる。

■新制度下における第三者調査の役割と問題点
新制度での問題点は第三者機関が司法の代わりをすることで、以前から議論されてきた問題である。調査の対象は、当事者から届け出があった場合に限定された が、医療行為と死との因果関係に、難しい判断を下し、訴訟に役立つ証拠を提供する役割は残された。問題点のすべては第三者調査そのものの性質に由来する。 今後も続く問題なので第三者機関の問題点を以下に整理する。
・第三者機関と司法との関係
第三者機関設置に寄せられる期待は、責任問題に専門的判断を下す、医療に特化した裁判所のような役割である。病気による死と、医療行為により起きた死は、 渾然一体となって判別することは難しい。判断を下す人材が医療専門職であれば良いという問題ではない。法律的に有効な役割を求めるのであれば、医療の専門 家も法的な資格を満たすべきで、一審から始まり最高裁に至る裁判制度の前に、勝手に審査の段階を追加できる話ではない。
・再発防止の調査結果を裁判の証拠に使うことについて
検討部会では、第三者機関が再発防止の目的で集めた事実を、裁判の証拠として使ってもよいという見解が法律家から示され、厚労省の見解もこれに追従してい る。医療機関が再発防止のために調査に協力し、自ら行った医療を、反省を込めて報告すれば、誤りを認めた証拠となることを意味している。善意に訴えて出さ せた情報を、他の目的に悪用するやり方は、振り込め詐欺の手口に似ている。このまま制度化し、裁判の過程で証拠として使うなら、報告した当事者に許可が必 要であり、当事者には証拠採用を拒否することも権利として認められるべきと思う。
・第三者機関の調査のハンデとアドバンテージ
第三者機関は最初から診療にかかわっておらず、事故が起き病人が死んでから調査に介入するというハンデがある。一部始終を知らないままカルテを頼りに判断 を下すことになり、診療担当者の協力が得られなければ正確な事実の把握が出来るとは思えない。また、手術は生前に行われ、解剖は死後に行われる。生前の医 療行為には絶対超えてはならない一線があり、どんな状況でも命を損なう検査はできない。トランプゲームに例えれば生前の医療行為は、カードを伏せたまま行 われ、死後の調査はカードを最初から表向きにして行われる。第三者有利の後出しじゃんけんをルールとするなら公平性に疑いが出る。
・第三者機関が調査を行うためには強制力を持った報告制度が必要となる
第三者機関の調査は、現場からの報告がなければ事故を察知できない。きわどい協力を無理にでも取り付ける必要があり、広く届け出を義務付ける非民主的な権 限が検討され議論になった。法律で疑いを含む死亡事故を報告させる”全例報告”、広く報告させた事例を、目的を持って絞り込む”スクリーニング”。殺人も 医療事故も、同列で届け出させる”篩分け”などで、医師法第21条の届け出義務も同じ方向性を持つ。このやり方は戦時や封建制度下では体制維持のために正 当化されたが、罪もない人に嫌疑がかかり、平時では人権侵害と無縁ではない。調査の主体が第三者機関から院内に移ることで、非民主的な届け出制度はなく なったが、調査の結果に納得しない場合の裁判機能は生きている。第三者機関の問題は今後も存在し続けることになる。

■矛盾を含む制度下でも事故は起きる。
この状況下であっても、診療は継続し、医療事故は無くなることはない。医療側にできることは、精緻な院内調査の結果を基に、十分な説明を行い、被害者に理 解してもらうしか方法がなく、被害者の損害を最小限にするためにも、多彩な支援機関が必要である。もし行政の意図がそこになければ、医療者独自に院内調査 を支援する第三者機関を作るべきである。それは専門技術的な経験を集積し、病人の安全と、遺族の悲しみにも対応できる多彩な民間組織でなければならない。 そして第三者機関の判定に誤りがあれば、司法に訴えても問題を明らかにするべきである。

■まとめ
医療に特化した第三者機関調査は、専門性ゆえに一般の支持を受けやすいが、裁判制度における位置づけ、現場にいない者の偏った情報、死後と生前の調査の違い、事実把握と証拠流用、強制的報告制度、判定結果に対する責任など、様々な問題がある。
院内調査に主体を移すことで、強制的な報告制度に微妙な変化はみられているが、専門家が行う裁判の真似事のような判定機能は残されている。事故調査に関わ る制度はこのような問題を含んだまま制度化され、院内調査も今後大きな影響を受けると考えなければならない。次回は、事故調検討部会では議論するチャンス がなかった院内調査について述べてみたい。

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