医療ガバナンス学会 (2013年8月22日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2013年8月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
次の結果は、同一の方の2分の検査結果と10分の検査結果になります。
写真:http://apital.asahi.com/article/fukushima/2013081900002.html
2分間計測では、このような感じのピークであったのが、
写真:http://apital.asahi.com/article/fukushima/2013081900002.html
10分間計測になると、このようにスペクトル(計測波形)がスムーズになり、セシウムがあるかもしれない位置の周辺にピークが存在するかどうかが、わかりやすくなります。
このスペクトルを得られた後、器械がこのスペクトルに山(ピーク)があるか自動判定します。右側の斜線の部分(1400~1500keVぐらいのところ)が、だれでも体の中に持っている放射性カリウムのピークです。
セシウムが多く体内に存在する場合は、セシウムが放出するガンマ線のエネルギーのところ(600~660keV周辺など)に山ができます。
数学的な理論上、時間をかければかけるほど、より検出限界を下げることができます。検査時間をn倍にすると、検出限界はルートn分の1になります。つまり 10分間計測すると、2分間計測する場合の5倍時間をかけているので、検出限界はルート5分の1、つまり2.2分の1程度になると推定されます。しかしな がら、そんなにうまくはいきません。
上記の自動判定でも、1000Bq/body程度の山(ピーク)を見逃すことはありませんが、検出限界ぎりぎりになると、山があるのに未検出となったり、 山が目では見えないのに「検出」したり、ということが起きます。正確性は落ちるのです。現実的には2分で検出限界が300 Bq/bodyなら、その半分の150 Bq/body以下ぐらいには実現可能(150 Bq/body以上程度なら安定して値を検出できる)というレベルにはなります。
市立病院などを含めて、スタッフ(主に検出しやすい成人男性)50人程度に検査に協力してもらいました。その結果、セシウムが150Bq/bodyという検出限界の下、10分間の計測ですら全員が検出限界以下という結果でした。
これは、現在の福島県の食事の検査で、慢性的に毎日1Bq以上のセシウムをとっている人すら少ない状況と矛盾しません。検出限界が300Bq/bodyな ので、全員が299Bq/bodyなら……という話がされることがありますが、こうした話の仕方が現実的ではないこともわかります。
そして、検出限界以下ではあるが、セシウムの部分に山が目には見える。その山に対して器械が(誤差が大きいことを承知の上で)100Bq/body前後で 値を算出してくる方が数名いらっしゃることもわかりました(もちろん検出限界を下回っており、その計測された結果が正確な値だと言うのは微妙です)。
対象が病院スタッフの協力者のみ、なので、もちろんセレクションバイアスはあります。ですが、現在の南相馬の検査でも、2分間の計測で大人の数パーセントは検出限界(250~300Bq/body程度)を超えて検出している状況です。
その結果とも大きくは矛盾しないのだろうと感じています。ちなみに、上記は主に成人男性の結果を話しているので、小児であればBq/bodyの値は、より低いのだろうと推測します。
とは申し上げていますが、時間を延ばせば細かく測ることができる。細かく測れて良いから、いくらでも計測時間を延ばそう――と簡単にできるものではないこ とも痛感しました。10分計測は本人の負担も大きくなります。希望者もやるべきではない、などとは決して思いませんが、現実的な検査の継続性の面からも、 運用する側の品質管理の面からも、結果を外来でしっかりお伝えすべき点からも問題が多いように思いました。
ところで、年間1mSvを超える追加被曝云々というレベルは、セシウムで数万Bq/bodyの桁の話です。非常に強い遮蔽のWBCを作成したり、一人あた り数リットルの尿を何時間もかけて計測したりといった、より細かい測定を、いろいろな研究機関も含めて誰もやらなくて良いという話ではないのでしょうけれ ども、一病院として、医療としては、明らかに汚染食品を大量に摂取している人に対してしっかりフォローを行うことが大事だという結論には変わりがありませ ん。
今日はこの辺で。