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Vol.213 患者の流れを劇的に変えるには

医療ガバナンス学会 (2013年9月2日 06:00)


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~同日多科受診の診察料見直しをして医療の正常化を

つくば市 坂根Mクリニック
坂根 みち子
2013年9月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


勤務医の過重労働が大きな問題となっている。
病院から診療所に患者の流れを変えるシステムを作らなくてはいけないということで、政府の社会保障制度改革国民会議は、「一般的な外来受診はかかりつけ 医、大病院の外来は紹介患者が中心というシステムの定着も図る。具体策として、紹介状のない患者による一定病床数以上の病院の外来受診について、一定の定 額自己負担を求めるような仕組みを検討すべき」とした。つまり具体策として、紹介状のない患者の入口のハードルを上げようと言っているだけで、ほぼ無策に 等しい。これだけでは患者の流れは変わらない。病院の問題の一つとして同日多科受診があるが、いったんゲートをくぐれば受診を抑制するものはなく言った者 勝ちで、病院での診療が既得権益化する。
勤務医の過重労働解消が主眼ではなく医療費の節約しか考えていないからこんなお粗末な提言しか出てこないのだろう。

病院で同日多科受診した場合、診察料は2科目が半額になり3科目からはただとなる。2科目が半額とれるようになったのも、2012年の改定からで、それまでは何科専門医を受診しても受診料は1科しか取れなかった。
ずいぶん専門医を馬鹿にした話だが、病院でしか働いたことにない医師は保険診療に疎く、多科受診や受診料に無頓着である。多くの医師は診察料さえ知らない。

多科受診になるには2つの理由がある。1つ目は、医師側の問題。患者から何らかの訴えがあった時、自分の専門外の疾患に関しては、些細なことでもリスク回避のために同じ病院内の専門科受診を勧めがちであること。患者数が増えてお互いの首を絞めている。
2つ目は患者側の問題。健康への不安が過剰診療を引き起こす。その場合患者側からすると1回に全部済ませたいので、なるべく同じ日に受診できるように希望 する。実際には同日多科受診のほうが安くなることを知っていて経済面からそれを希望する人も多い。時間はかかるが、病院のほうが安くてそれぞれの専門医に 診てもらえるのだから、専門医を必要とする科以外の疾患でもすべて同じ病院で診てもらおうということになる。
安価な医療は安易な受診を生む。

これを病院だろうが診療所だろうが、各科受診したらその分受診料はいただきます、という単純に平等なシステムにすればいいだけの話である。今まで同日なら 無料だったものが、各科受診するのにお金がかかるようになると、患者側もちょっと様子を見てからという流れが必ず出てくる。「安心」のための過剰診療にブ レーキがかかる。

支払い側の代表である健康保険組合連合会専務理事は、前回の改定会議にて「診療科は、病院の都合で分けているにすぎない。我々は複数科にかかっても『病院 を受診した』と思っているだけ。確かに大学病院の外来の伸び率は高く勤務医の負担は大きい。しかし、患者が大病院を受診するのは、複数の診療科があり、優 秀な医師がいるなどの理由から安心感を抱くからだろう。」と発言した。
本当に必要な受診かどうかは二の次で「安心」のための多科受診を容認しておきながらそこに発生する費用については認めないとは。語るに落ちる。

そもそも、外来診察料はたったの700円である。病院では専門医の診察が、1科目700円、2科目350円、3科目以降無料奉仕!! これをそれぞれの科 で支払うことにしても2科目を受診して1割負担の人なら、支払いが70円増えるだけである。どうしてこれは認められず、前回の改定では1回受診するごとに (高額医療費の相互扶助という名目で)100円の窓口定額負担は導入しようとしたのか。専門性に対するリスペクトが全く感じられない。
これに対して、調剤薬局では薬剤師の技術料は薬剤の数に比例して加算され、一処方箋平均2000円となっている。
誰が考えてもおかしい。

欧米の医師が、どうして日本の医師たちはストライキをしないのかと言ったそうだが、日本では医学教育に保険制度の分野がなく、自分たちの仕事の対価がいく らなのか、保険の仕組みがどうなっているのか全く知らないで働いている人がほとんどなのである。そのほうが国にとって都合がよかったのだろう。知らないう ちに医師の仕事の評価を低く設定し、歴代の担当者は抜本的な改革をせず放置してきた。そして今医療は崩壊の瀬戸際である。

診療所では再診時これに外来管理料が加算される。その代わりに基本的に何でもまとめて診るが、自分の手に余るものは他の診療所や病院を紹介する。患者に とっては、その度に初診料や再診料がかかるが、信頼関係ができていれば大抵納得していただける。現場感覚から言うと、病院に掛かる場合だけ診療所より安く なるという不可思議な特典を付与する必要はない。勤務医の負担軽減と逆行する。日本の医療制度はヨーロッパの国々と比べ患者の自己負担が大きいと患者の負 担が増えることに対しては反対する人たちがいるが、それとこれとはまた別問題である。

また現在の問題は、病院から診療所に逆紹介となるためのインセンティブが働いていないことである。病院に残りたい患者が地域の診療所に行っていただくのに 強制力はなく、納得してもらうにはかなりの時間とエネルギーがいるが、これが現在医師に丸投げになっているために一向に現状が変わらないのである。例えば メディカルクラークを紹介状が書けるレベルに育てるにも最初は医師が教えなくてはいけない。これは現在私もやっているが、専門外来の内容まで理解するよう になるにはとにかく時間がかかる。他には地域医療連携室が地域のかかりつけ医を拾い出し、多科の医師の意向をまとめ、患者に丁寧に説明して受け入れ態勢を 整える必要がある。これが出来ているところはほとんどない。予算がつかないので地連に十分な人を配置するだけのゆとりがないのである。
流れを変えるにはこういったきめ細かい対応が必要なのだが、まず制度として各科受診するごとにきちんと払うようにすれば、このチャンスに「かかりつけ医だと、1か所でまとめて診てくれるから、利便性も経済性も上がるよ」と患者の能動的な動きにも期待できるようになる。

なによりも、急性期病院や高度機能病院は本当に必要な人のためにあるべきものである。必要な人が必要なときに受診できなくてはいけないところである。それ なのに現在は混んでいて必要な人のためになかなか予約が取れない。この状態を改善し、勤務医の過重労働を阻止できなければ、いざという時のセーフティネッ トの崩壊を食い止めることは出来ない。

来年の診療報酬改定に向けてまた議論が始まったが、いつまで経ってもまったく次元の違うレベルで議論されていて話にならない。政治家のイニシアティブに期 待しようにも、医療に詳しい議員は、衆院選、参院選を経てますます減り、安倍政権では経済界の御意向が最優先で医療者にとっては光が全く見えない。
何回も繰り返すが、医療分野では現場の意見を吸い上げるシステムがない。患者の流れを変えるためのマーケティングもなく、現場感覚のない方々が制度を改革 しようとするために、診療報酬改定作業では2年毎に同じような議論が繰り返され、小手先の改革がなされ、4月ぎりぎりになって、現場に知らされる。日本全 体が茹でカエル状態になっているのに、制度設計をする人たちには緊迫感がなく、どこかいつも他人ごとである。今回は社会保障費を削れという大号令のもと、 早くもあきらめムードさえ感じる。医療が壊れても結局だれも責任を取らなくて済む体制のままで、ある意味原子力問題と同じでガバナンスがなっていない。

医療において、いつでも(フリーアクセス)、 安く(ローコスト)高水準の医療を受けられる(ハイクオリティ)の3つ同時に追求することは不可能だというのが世界の常識である。
日本の医療はWHOで総合1位にランクされたものの、多方面から医療従事者の犠牲の上に成り立っていると指摘されている。
かかりつけ医がゲートキーパーとして多科受診の人たちをまとめるのは望むところである。そのためには、医師が診察する度にきちんと診察料を払うことである。病院から診療所へ人の流れはそこから劇的に変わる。

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