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Vol.242 内部被曝通信 福島・浜通りから~診察に来たあるお母さん

医療ガバナンス学会 (2013年10月9日 06:00)


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この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。

http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html

南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2013年10月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


南相馬市立総合病院やひらた中央病院(福島県石川郡平田村)で、被曝検査結果を説明したり、今後の生活について相談を受けたりする外来があります。2011年7月、内部被曝検診がスタートした時に始めたもので、特別な名前はありませんが細々と続いています。

先日の外来で、こんなことがありました。あるお母さんに先日行った内部被曝検診の結果を説明していました。

話をしていて、何か聞かれる度に説明をするのですが、全く話題が定まりません。ヨウ素の話をしていると思ったら、ガラスバッジの話になり、震災直後の出来 事の話に。続いて、子供の学校での生活態度について話し始め、東電に提出する書類の話になり、そしてヨウ素の話に戻ってきました。また、同じ話の説明をし ます。ウンウンと頷いているのですが、どこかソワソワしておられ、正直なところ十分に理解されているとは思えませんでした。

色々な問題や、考え、怒り、悲しみ、後悔のようなものが頭の中で入り乱れて、精神的に参ってしまっているように感じました。

混乱しているというより、頭の中がぐちゃぐちゃになって何もまとまらないという感じでしょうか。実際、以前は提出できていた東電の書類も、「近ごろは集中 できなくなって考えがまとまらない。書くことができない」と言われます。睡眠は取れているようでしたが、体重が増え、食生活が偏り、よくよく聞くとご家族 や子供との関係もぎくしゃくしてしまって……という状況でした。

もちろん外来で、そのような出来事が多いと言いたいわけではありません。以前と比べ、根掘り葉掘り色々聞かれる方は少なくなり、時間もそれほどかからなく なっています。多くの方が、色々な傷や思いを抱えつつも普通の生活に戻る、戻ろうとしているし、普通の(という表現が適切とは思いませんが)日常が流れて います。

ただ、今回ご紹介したような方を、そばにいる人がみんなで、そして地域で守っていく必要があると改めて感じたのです。

そのような方は、外来をしっかり受診したりとか、自分の意見を大にして主張したりとか、インターネットやSNSも含め、大勢の前で誰かを公然と批判したりとかはしません。というか、できないと思います。大多数の方の中に埋もれてしまい、顧みられることも少ないです。

「よく外来を受診してくれた」と伝えました。

「以前は、もっと精神的にひどかったけれども、秋になって季節も変わり、少し話を聞いてみようかなと思うようになった」と、そのお母さんは言いました。

きっと大勢ではないと思います。でも、お母さん方の支援をしているお母さんのところには、今も尚、色々な情報に踊らされ精神的に参ってしまい、やっとの思 いで助けを求める方がいらっしゃる話も聞きます。医療は基本的に、待ち仕事です。病院に来てくれる方を診ることはできますが、そうで無ければ無力極まりな いです。外来受診、講演会、勉強会、イベント、色々とありますが、すべて来てもらえなければ始まりません。

孤独死の問題と同じにするつもりはありませんが、孤独な人は、「孤独です」と周りに言ってまわることは、まずありません。保健師さんが巡回してうまくいく例もきっとあり、それは一つの方法です。

それに加えて、地域全体として見守り、お互いに認め合うしかありません。医療が介入できる余地があるなら、そのような方にしっかりアプローチできる方法を生み出さなければなりません。

放射線についてナーバスに話をすると、ちょっと変わった人扱いされる雰囲気。一部で、それが行き過ぎるのはさらなる分裂を生みます。データが無ければ判断できません。けれども時間が経過し、科学的では無いから完全に否定する傾向が強くなりすぎるのも微妙です。

「周りのお母さんとか友達に相談しなかったのですか?」 最後に、お母さんに聞きました。何とお答えになったのかは、みなさんのご想像にお任せします。
よくある話だとは思いますが、改めて紹介させていただきました。

写真:相馬でも児童対象のホールボディーカウンター(WBC)検診が進んでいます

http://apital.asahi.com/article/fukushima/2013100700010.html

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