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Vol.253 現場からの医療改革推進協議会第八回シンポジウム 抄録から(4)

医療ガバナンス学会 (2013年10月18日 18:00)


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セッション4:福島の被ばくと健康問題
11月9日(土)16:25~17:55

*このシンポジウムの聴講をご希望の場合は事前申し込みが必要です。

2013年10月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


福島の被ばくと健康問題
坪倉 正治
早野 龍五
根本 剛
山本 善文
加藤 茂明
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●浜通りでの内部被ばくの現状、今後の継続的な検査態勢の構築に向けて
坪倉 正治

筆者は2011年7月より、浜通り中通りのホールボディーカウンター設置機関にて内部被ばく検査に従事してきた。南相馬市立総合病院、相馬中央病院、ひら た中央病院、ときわ会常磐病院では定期的に内部被ばく検診結果が公表され、福島県内の全域での日常生活上の慢性内部被ばくが非常に低いレベルに抑えられて いることが明らかになった。

2012年4月以降、上記4病院での小児のセシウムの検出率は0.1%以下である。今現在の福島県内での食品管理が成功していることを示しており、生活での慢性的な内部被ばくは大多数の方でほぼ無視できる。

それに加え、外部被ばくも浜通りの多くの地域で、年間の追加外部被ばくが1mSv/y以下である小児が99%以上(相馬市)となっている。放射性物質自体の半減期に加え、環境影響により空間線量が低減したためと考えられる。

上記のことから、現状の生活での外部被ばくおよび内部被ばくの合計は追加であったとしても1mSv/yを維持しており、日常生活を営む上で問題がある値ではない。

今後の課題として、1)被ばく検査にて高値を示す一部の住民に対して介入を続けること、2)関心の薄れに対して、できるだけ多くの方に継続的に検査を受診 していただく方法を作り出すこと、3)学校での放射線教育の導入があげられる。南相馬市、相馬市での学校検診へのWBCの導入、悉皆調査や被ばく外来によ る高値を示す住民への対策、相馬市内や川内村の高校、小学校での放射線教育など、数々の対策が行われている。それらの効果と有効性を概説しながら、今後の 問題点を議論したい。

●福島の内部被ばくと外部被ばく – 個人線量測定の重要性
早野 龍五

東電福島第一原発事故によって放出された放射性物質は、福島の土壌を広汎に汚染した。福島市、郡山市などの人口密集地でも、土壌への放射性セシウムの沈着は、1平方メートルあたり10万ベクレルを超え、
崩壊ガンマ線による外部被ばくの影響が心配された。

また、チェルノブイリ事故後の知見からは、これだけの土壌汚染がある地域では、放射性セシウムで汚染された食品を食べることによる住民の平均的な内部被ばくが、年に数ミリシーベルト以上と推定された。
被ばくによるリスクは個人ごとの積算線量(ないしは摂取した放射性セシウムの総量)に比例するので、積算線量計による外部被ばく線量測定と、ホールボディカウンター(WBC)による内部被ばく検査は非
常に重要である。

2011年の夏以降、私は福島県内のWBC測定で苦闘しておられた医師の方々とともに内部被ばくの解明に取り組んできたが、福島では前記の予想とは大いに 異なり、放射性セシウムが検出される方は1%未満(子どもは0%)と、極めて内部被ばくが低いことが明らかとなった。WBCの検出限界ギリギリのセシウム が体内にあったという極端な仮定をしても、被ばく線量は天然放射性核種カリウム40による内部被ばくの1割未満である。これは、種々の測定から流通食品の 放射性セシウム濃度が低いことが示されていることと整合する結果である。

出荷制限がかかった非流通品を未検査で大量に摂取し、内部被ばく線量が年に1ミリシーベルト近い方も皆無ではないが、その数はおよそ1万人に1人程度。原因食材を特定し、アドバイスすることで、体内セ
シウム量は着実に減っている。

外部被ばくについても、この2年あまりの間に多くのデータが蓄積され、モニタリングポストの値から予想される線量よりも、個人線量はかなり低いことが示さ れつつある。現時点では、福島・郡山など多くの市町村で事故由来の追加外部被ばくが年に1ミリシーベルト未満の方が大多数である。
しかし、平均から大きく外れて年に5ミリシーベルト以上と推定される方も若干おられることは事実なので、個人線量測定に基づいた個別の説明と対策が今後ますます重要となる。

●南相馬市の介護福祉の状況
根本 剛

東日本大震災後、2年7カ月が過ぎた。南相馬市はもともと医療・介護・福祉が乏しい地域であった。震災を経た現在の介護・福祉の状況を報告する。
南相馬市の人口は震災時、約71,000人であった。震災直後は激減したが、次第に増え2013年5月時点で約48000人まで回復した。しかし、介護を担う人口は震災前より約12000人減少している。

介護保険サービス居宅系、入居系の職員数は平成25年1月時点では、いずれも震災前と比べ減少はない。しかし、ある施設では職員の半数が震災前と入れ替 わったところもある。また、平成25年になって居宅系の介護福祉士が減少している。震災前に比べ地域の介護力が減少したのは明らかである。

福島県浜通り北部では震災後、様々な生活習慣病の悪化が懸念されている。あくまで予備的な報告であるが、脳卒中の発症リスクは65歳以上において震災前の 1.74倍となり、35から64歳までの壮年層では3.04倍と試算されている。寝たきり介護者の約40%は脳卒中が原因であることから、今後も介護ある いはリハビリの需要はますます増えると予想される。

要介護用支援認定者数をみると震災後、震災前より約600人の増加があった。これを全人口の比でみると平成22年度は3.7%であったが平成23年度では7.6%と約2倍になっており市民の負担が増えていることを示している。

南相馬市では生活習慣病の悪化による介護需要の増加する一方で、介護を担う世代の避難により、家庭内介護力の低下が生じている。このような社会現象は地域 の介護必要度を飛躍的に増加させるが、市の行政対応や社会的インフラ整備は追いつかず、市内すべての施設は満床で受け入れが困難となっている。結果とし て、施設待機者が増加し、在宅での介護困難者が増加している。この現状を踏まえ、改善する方法を探らなければならない。

●南相馬市応急仮設住宅居住者の身体活動量調査とその後の活動について
山本 喜文

応急仮設住宅居住者の廃用症候群が社会的問題となっており当院では応急仮設住宅居住者の健康管理に取り組んでいる。

当院リハビリテーション科では、2012年4月から5月にかけて、南相馬市寺内塚合応急仮設住宅居住者(全174戸)、千倉応急仮設住宅居住者(全94 戸)を対象に、身体活動量の実態調査および運動指導を実施した。活動内容は、運動指導の約1週間から半月前に募集チラシの配布、および説明会を開催し対象 者を募った。事前に応急仮設住宅居住者を運動指導群(64名)と運動未指導群(57名)に分け、運動指導群には「てんとう虫テスト(第一学習社)」を利用 しての体力測定・運動指導を行った。両群
に活動量計( オムロン活動量計HJA-307IT)を装着し14日間の活動量を比較した。応急仮設住宅周辺住民(一般市民122名)に対しても14日間活動量計を装着させ、仮設住宅居住者との活動量を比較した。

結果、仮設住宅居住者運動未指導群と一般市民とを比較し、仮設住宅居住者の生活活動量が定値(p<0.01)を示していた。生活活動量とは、3次元加速度 センサによって、歩数にはカウントされない、例えば布団の上げ下ろしや掃除などの生活活動の指標である。このことは、仮設住宅という狭
い生活居住スペースで生活することで、日々の活動量がいかに制限されているかを示した結果であると考える。

我々は、応急仮設住宅居住者の活動量を客観的数値で示すことを通じて、南相馬市の仮設住宅における住民の現状を評価すると同時に、今後の街づくりに対して の提言を模索した。2012年の8月からは仮設住宅での引きこもりや体力低下予防、コミュニティーの再構築を目的に、当院に隣接している応急仮設住宅施設 近くの公園で、医師や市民活動家と一緒にラジオ体操を行っている。最近では2013年1月より雲雀ヶ丘病院の堀有伸医師を代表とする「NPO法人みんなの となり組」に参加し、南相馬市民の健康増進に向けた取り組みを行っている。

●被災民の骨健康は大丈夫か?
加藤 茂明

高齢者の寝たきりは、男女を問わず骨折が引き金になる例が極めて多い。高齢者の骨折は健常者や壮年期では想像できない場所(自宅内)で、予想もしないイベ ントで起きることがわかっている。骨折は突然起きしかも起きるまで予兆がないことが特徴の一つである。主たる要因は、骨量減少をはじめとした骨の脆弱化で あり、加齢による劣化は避けられない。女性ホルモンは男女を問わず強力な骨健康防御ホルモンであるが、閉経後の女性が骨粗鬆症を顕在化するのはこのためで ある。骨は物理的には体を支える臓器である一方、内分泌的には血液のミネラル貯蔵庫である。血液のミネラル恒常性を保つため、骨は絶えず吸収と形成を繰り 返しており、いわゆる骨代謝している。骨量や骨強度維持には、適正な骨代謝回転が必須条件であるが、内分泌系のみならず、食事や運動(骨への物理的負荷) 等の環境要因に大きく左右される。骨量は25歳が最大でかつ加齢と共に減少するのみであるため、一生を通じて骨健康に気を配ることが健康長寿の秘訣の一つ である。福島県をはじめとした被災地の住民のライフスタイルは大きく変容した。そのため労働をはじめとした本来の運動量低下に加え、仮設被災民では住空間 の狭隘化が、骨への物理的負荷を軽減するため、骨量減少が危惧される。また相馬市をはじめとした被災沿岸部ではミネラルを豊富に含む魚介類の摂取が大幅に 減ったことが予想され、本来の骨健康維持に良好な食生活が乱れている可能性が考えられる。被災3県のなかでも、福島県は特に放射線汚染による食生活の変容 のみならず、心理的ストレスが重大で、ストレスが骨健康に悪影響を与える可能性も否定できない。このように被災民が復興後も健康な長寿をまっとうするため には、被災地での骨健康維持の重要性の認識が極めて大事なのである。

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