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Vol.255 現場からの医療改革推進協議会第八回シンポジウム 抄録から(5)

医療ガバナンス学会 (2013年10月19日 18:00)


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セッション5:予防接種
11月10日(日)10:00~12:00

*このシンポジウムの聴講をご希望の場合は事前申し込みが必要です。

2013年10月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


予防接種
司会:久住英二
加藤茂孝
可児佳代
松岡康子
黒岩祐治
太田寛
渡邊智美

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●日本における風疹流行の歴史と国の政策:そこから学んだこと
加藤茂孝

日本における風疹ワクチンの接種は、1977年に女子中学生に対する風疹単味ワクチンの集団接種として始まり、度々の変更を受けながら、2006年に男女 幼児へのMR(麻疹・風疹)ワクチンの2回接種(1歳と6歳)となり、現在に至っている。男女幼児の接種率の上昇により、日本の風疹は2010年には排除 に限りなく近づいた。全体として成功といえる状態であった。しかし、2012-13年に” 大流行”が起きた。
この原因は、男子中学生世代が積み残されたことによる。この40年余りの政策を振り返ってまとめをしたい。

1)接種対象:妊娠予備軍である女子中学生を免疫するのは一つの選択であった。しかし、風疹の排除、CRSの根絶という長期的な視野、哲学が欠けていた。

2)ワクチンの混合:生ワクチンを混合するのは、接種回数を減らす利点が大きく、必然の流れであった。不幸にしてムンプスワクチンが原因の髄膜炎の予期せ ざる発生で国産のMMRワクチンは頓挫した。この時、ワクチン接種の利益の積極的な発信や、より弱毒のムンプスワクチンの入手の努力をしなかった。今後の ムンプスワクチンについては、未だに進展していない。

3)接種形態:問診を重視して副反応を減らそうという理由で集団接種から個別接種に転換した。そのため、接種率の大きな低下が起きた。2012-13年の 男女成人の患者は男子中学生でワクチンを受けていないか、接種率が低かった時代に集中している。ワクチンがいかに効果的であるかの証拠である。

4)ACIP(予防接種諮問委員会)の設立を!:厚生労働省は、それぞれの時点で、個々の問題を何とか解決してきた。しかし、長期的に見るとその場しのぎ で、総合的な哲学に欠けていた。この問題を解決するためには、厚生労働大臣から諮問を受けて、独立した組織で総合的長期的継続的な検討をし、大臣に諮問す る機関が必要であろう。

●CRS児の親の気持ち
可児佳代

私は、今から31年前に風疹の症状が出た後に妊娠に気がつきました。娘が産まれて1カ月後に目、耳、心臓の障害と病気が告げられました。先天性風疹症候群 です。目と耳に障害があり心臓病の子供を育てるということは、時間と費用と生きることへの苦労があります。我が子なので苦労は当たり前かも知れませんが。 今思うとそれは娘と私たち家族にとっては宝物の時間でした。なぜならそんな時間は18年しか続かなかったからです。娘は心臓病の悪化であっと言う間に旅 立ってしまいました。

娘を亡くしてから、私さえ風疹に罹患しなかったら障害を持たせることも死ぬこともなかったのにと後悔の思いが募りました。そして娘の二十歳の誕生日にHPを開設し風疹の啓発活動を始めました。

そんな中2004年に風疹が流行。10人のCRS児が産まれました。その年に厚労省の研究班が緊急提言を出しましたが、2006年に小児へのMRワクチンの2度が接種が始まった以外は、対策らしい対策はなく大人のワクチン接種がないまま今回の風疹の流行に繋がりました。

そして去年からの大人を中心とした流行が始まり、私のHPにも妊娠中に感染した妊婦などから相談のメッセージが相次ぎ入るようになりました。最近になり不 顕性感染で赤ちゃんに障害が出たという母親からの不安な声が届いています。今の状態は30年前と何ら変わりありません。私たちと同じように苦しむ母子をな くしたい、これから産まれてくる子の未来の命を守りた
い、絶対流行を繰り返してはいけないと、今年8月にCRS児の母親や当事者と共に患者会を立ち上げました。【風疹をなくそうの会「hand in hand」】です。私たちは2度と風疹を流行らせないための対策と、これからまだまだ産まれてくるCRS児に対する支援を望みます。皆がワクチンを接種す ることで風疹の根絶を目指しています。

●風疹 メディアの役割
松岡康子

NHKでは、今年3月から「ストップ風疹~赤ちゃんを守れ~」プロジェクトを行ってきた。きっかけは3月1日のおはよう日本で放送されたCRS児のお母さ んの言葉。「あの人みたいになりたくないと思われてもいいから、風疹の危険性を知ってもらいワクチンを接種してほしい」。実名で取材に応じて下さったお母 さんの勇気と覚悟に心を動かされ、これこそメディアの役割だと感じた職員が部局を超えて集まり、プロジェクトを開始した。

最初に目指したのは、風疹の流行と胎児への影響、ワクチン接種の重要性を広く伝えること。ニュースや番組で展開する一方で、テレビを見ない20代から40 代の人たちにも情報を届けるため、ストップ風疹サイトを立ち上げ、SNSを使って情報を拡散した。前述のCRS児の家族に協力してもらい、30秒と1分の スポットを制作、番組の合間に繰り返し流し、YouTube
にも載せた。さらに、企業や自治体、団体などにもプロジェクトへの参加を呼びかけるため、ロゴとバナーを制作、無償で配布した。このロゴは、ストップ風疹サイトに貼られており、使用したいという連絡が最近になっても届いている。

NHKではこれまで、伝えたいことはニュースや番組を通して伝えようとしてきたが、今回私たちは、「知っていれば防げた」をなくすため、メディアの枠を超えてあらゆる手段を使い、最短最速で必要な情報を届けようと試みた。

既に19人の赤ちゃんに障害が出てしまい(10月7日現在)、キャンペーンの効果があったとは残念ながら言い難いが、今回の風疹の流行に際して私たちが果たそうとしたメディアの役割について共有したい。

●風疹対策 産科医として ~先天性風疹症候群はワクチンでゼロにできる~
太田 寛

■妊婦の周囲に風疹が流行!
私の勤務している病院でも、妊婦の夫が2人、妊婦の父親(50代後半)が1人、風疹になった。全員が成人男性だった。他にも同僚や友人など、妊婦の周囲で 風疹が流行したことが直に感じられた。幸いにも妊婦に感染させることはなく、CRSは発生しなかったが、全国で同様のヒヤリとした症例が数多く発生してい るだろう。

■CRSを予防する意識の低い医師
先天性風疹症候群の赤ちゃんを産んだある母親は、上の子を産んだ時に産科医から、「風疹のワクチンをしたほうがいいよ」と一応は言われていた。しかし、軽 く言われただけだったために、そんなに重要なことだとは思わずにいて、ワクチンを打たないまま妊娠して、妊娠4カ月の時に風疹にかかってしまった。「風疹 のワクチンを打っていれば……」と、自分を責めてしまうとおっしゃっていた。風疹のワクチンがなぜ大切なのか、風疹が妊娠に対してどのような影響があるの か、もう少しだけ詳しく話していれば、ワクチンを接種していた可能性も高く、医師の説明がいかに重要であるか再認識させられる。
また、風疹ワクチンを接種しに行った病院で、「打たなくて良い」と医師に言われたという経験を話してくれた女性も何人もいた。間違ったままの知識を持った医師もたくさんいるのが現実だ。

■不妊治療、子宮ガン検診、一般健康診断で風疹ワクチンを!
一人でも多くの人に風疹のワクチンを打ってもらうには、あらゆる機会にワクチンを勧める必要がある。特に、不妊治療中の女性とその夫、避妊用ピルを処方す る女性、流産や中絶を経験した女性、子宮ガン検診に来る女性、などに対してである。理想的には、一般の健康診断の時などに医師が風疹ワクチンの重要性を説 明して、接種をするべきである。
アメリカやカナダなどでは、しっかりしたワクチン制度によって、風疹の患者自体がほとんどいないため、CRSの赤ちゃんはゼロになっている。日本でも、すべての人が風疹のワクチンを打って、悲しい思いをする人をゼロにしたい。

●当事者の視点で考える母子感染症の予防啓発の必要性
渡邊 智美

2011年にリンゴ病に妊娠中に感染した女性が49人流産、死産していたと先日報道されたが、胎児に重篤な障害を引き起こす恐れのある母子感染症は他にも 多くありTORCH症候群と総称される。トキソプラズマ、風疹、サイトメガロウイルス(CMV)などの英語の頭文字をとって名付けられた。

中でもトキソプラズマとCMVは国内で近年患者数が増加しているが、どちらもまだワクチンはないので完全に予防するのは難しい。児に中枢神経系や聴覚の異 常、網脈絡膜炎などを起こすことがあるが、健康な大人(妊婦を含む)が感染した場合には症状が出ることは少なく、出ても比較的軽く非特異的なものであるた め見逃されやすい。

そのため医療関係者にさえ 「非常に稀な」「珍しい」病気と誤って認識され、妊婦健診で感染を防ぐための生活指導(生ハムやサラミを含む生肉を食べない、乳幼児の唾液や尿に気をつけ る…等)や抗体検査をしている施設は少ない。しかも日本では認可の下りた治療法・治療薬がないため、また患者数が少ないと考えられてきたため、これらの病 気に関する情報がほとんど出回っていない。しかし感染から胎児を守るためには、妊婦と周囲の人が正しい情報を得て、できる限りの予防対策をする必要があ る。

また世間の認識不足により患者が差別を受けて孤立することがあるが、これを解消するためにも正しい情報を世間に知ってもらう必要がある。そのために国・自 治体主導でもっと啓発をしていく必要があり、また母子の健康に関わる医療関係者にも、新たな知見を得る機会を持ち、先天性感染の実態と衝撃を理解し、意識 改革をしてほしいと思う。

以上を世間に訴えるため、先天性トキソプラズマ症児およびCMV感染症児を持つ母親が中心となって患者会「トーチの会」を2012年9月に設立した。「新たな患者を生み出さない為に、また現患者が世間から正しく認識される為に」活動している。

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