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Vol.286 内部被曝通信 福島・浜通りから~情報を集め、分析する難しさ

医療ガバナンス学会 (2013年11月21日 06:00)


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この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。

http://apital.asahi.com/article/fukushima/index.html

南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2013年11月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


私が勤務する南相馬市立総合病院の及川副院長ともに、南相馬市内で脳梗塞を発症する患者さんが増えていないかどうかを調べる試みを先日、行いました。及川 先生は副院長として様々な問題に対処すると同時に、脳外科の医師です。多くの医師と同様、現場で淡々と診療を続けておられます。

生活習慣の変化やストレスによる、高血圧、コレステロール、糖尿病などの慢性疾患の悪化は、以前から指摘されている通りです。それらは、脳梗塞や心筋梗塞などの致命的な疾患を発症するリスクを持ち、逆にそのリスクを下げるために、慢性疾患の治療が必要になります。

阪神大震災の時も、他の災害の際も同様の指摘がありました。現状を知り今後の対応をしっかり決めるためにも、南相馬市内の状況を調べることになったので す。南相馬市の人口は震災前に比べれば減ったにも関わらず、及川先生ご自身の脳外科医として仕事が減っていない(むしろ増えている)と感じておられたこと もあります。

直ぐに三つの大きな問題にぶつかりました。

一つ目は、当院にデータベースが存在しないことです。南相馬市立総合病院を含む日本の多くの病院は、いわゆる「院内がん登録」のような、特定の病気の方の 情報を集めて、当院の情報を公開し、患者さんが選んで参照し、直ぐに対応できるようなシステムを持っていません。大きな病院であれば、登録が当たり前であ り、独自にデータベースをしっかりと構築している病院も少なくないでしょう。

しかし、南相馬市立総合病院では、検索エンジンで検索するような形で、何かを入力すれば一対一対応のような形で、どのような患者さんがいらっしゃったか、一覧となって分かるというような状況では無いのです。

しかも、震災前と比較が必要なので、震災後だけではなく長期間にわたる患者さんの情報を調べる必要があります。これは、カルテ庫から全てを引っ張り出し、片っ端から調べるしかありません。そうした手間や苦労にもかかわらず、多くのスタッフが尽力してくれました。

二つ目は、その地域の患者さんの数を把握する際、南相馬市立総合病院の情報は良いが、他の病院の情報が無いのです。もう少し言うと、全ての脳梗塞の患者さ んが南相馬市立総合病院を受診されるわけではないということです。もしかしたら別の病院に患者さんが行かれていたり、逆にいくつかの病院の患者さんが当院 に集まるようになっただけになったりした可能性もあります。

ただし、脳外科疾患に関していうと震災前後の南相馬市立総合病院は、及川先生をはじめとする脳外科の先生の尽力で、地域の砦として重症の方であればほぼ確 実に当院を受診、搬送または紹介されることになっています。ですので、地域内の患者さんの真の数に近くなると推定されます。

逆に、いくつかの病院にばらばらに患者さんが受診されるような場合、多くの病院の情報を統合する必要がありました。そうすると個人情報保護や、倫理規定な どの規則が立ちはだかります。何の了解も無くアクセスできませんし、当然、使用することもできません。A病院に受診した情報が、何の同意もなくB病院に伝 わるわけにはいかないのです。

三つ目は、人口動態がどのように変化しているか分からないということでした。震災前の人口は分かります。しかしながら、震災後特に半年や一年内の人口分布 や年齢分布について、正確な情報がそろっているわけではありません。それが無ければ、最終的に増えたか増えていないのかを結論することができないのです。

もちろん、分かりませんとだけ言うわけにも行かないので、ファジーさの上に成り立って、ある部分には存在するデータを用いて推定を入れながら計算をする必 要があります。何度か推計値を出しながら、計算と修正を繰り返しています。しっかりとした値が出た際には、また紹介させていただきたいと思います。

このやりとりを行いながら、あることに気がかりを感じています。いわゆる「がん」の情報です。色々なデータを見てご存じのように、現状の被曝量は非常に低 いことが分かっています。今までのデータからすれば、何かしらのがんが増えるという被曝量ではなさそうという推定がされますが、だからといって、今後それ を調べなくて良いという話にはならないと思っています。

恐らく同じような問題に、早晩ぶつかるのだろうと思っています。

震災前のがん情報は?避難や県境を越えることによる人口の変化、そして様々な病院を受診することによって、情報の集約はさらに困難になると感じます。被曝検査結果との統合も困難です。データの統合や情報連携と個人情報保護はtrade-offの関係にあります。

情報を集約しなくても、一人ひとりの患者さんに対する診療はできるわけですが、だからといって全体としてどうなのかの情報がいらないという話にはならないはずだと思います。

がん登録やがん登録法など、多くの先生がこの問題に取り組み、がんばっていらっしゃいます。情報の集約とだけいうと、どこかに完璧なシステムがある(から 何も協力せずとも今後どんどんデータが出てくる)、逆に情報を収集されるだけ(だから協力しない)といった、どちらか極端な意見も多い。それでも、公的機 関や大きな行政を含んだみんなで協力し合って情報を集め、今後どうしていくか議論する基礎としていかなければならないように思っています。

写真: 検査室の入り口もクリスマスに備え始めました。

http://apital.asahi.com/article/fukushima/2013112000002.html

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