医療ガバナンス学会 (2013年11月27日 06:00)
「心が海に乗り出すとき、新しい言葉が筏(いかだ)を提供する」(ゲーテ)
2005年における福島県の人口は約209万人、日本の人口は約12776万人であった。従って、日本人の約60人に1人が福島県民ということになる。毎年、東大には約3000名が合格する。3000を60で割れば50。つまり、福島県から合格する妥当な人数が約50人と考えて良いだろう。
2013年、福島県からの東大合格者数は11名。東日本大震災による影響を考慮に入れても、あまりにも少ない。一方、同年、灘高では東大理科III類だけで27名であった。一つの県の東大合格者数が一つの高校の東大医学部の合格者数の半数にも満たないのである。福島県の教育において必要なのはもはや「復興」や「再生」ではない、「新生」である。
一つ断っておきたい。私はこれまで25年に渡り様々な塾・予備校・中学・高校で教壇に立たせて頂いてきたが、震災以降ご縁あって福島県立相馬高校に教育支援をさせて頂くにあたり、福島県の教員のレベルが低いとか、生徒の能力が劣るとは全く感じていない。むしろ、生徒思いの先生方、能力の高い生き生きとした生徒を多数見てきている。
福島県の東大合格者だけではない、我が国のいじめの問題、いわゆる教育格差などを考えると、従来の教育理念には大きな欠陥があると考えざるを得ない。何か大切なものが足りないのだ。そこで、教育の理念を再確認し、再構築を試みたいと思う。
まず、「教育」という言葉から再確認する。「教」という字は言うまでもなく、「知識や情報などを与える」を表す。一方、「育」という字は「子供が肉を食べているのを見守る」の象形文字であり、「成長を見守る」の意味である。従って、「教育」とは「教え、成長を見守る」という事になる。
この「教え、成長を見守る」だけでは何かが足りないはずなのだ。そこで、「教育」に相当する英語の”education”について考察する。”education”は「教育」と訳されているが、”education”の動詞形”educate”は「引き出す」の意味である。従って、”education”の元来の意味は「(子供のやる気や才能を)引き出すこと」である。つまり、日本とアメリカでは子供に対してやっていることが根本的に違うのだ。日本では平均的な学力向上が重視され、ともすれば個性が蔑ろにされる。それに対して、アメリカでは平均的な学力向上よりも、個性が重視される。知人の帰国子女に聞いた話しだが、「アメリカの先生は教えるのは下手だが、誉め上手」とのこと。
私は20年以上前から、「教育」に”education”を加えることがより良い人材育成に繋がると提言してきた。つまり、従来の「教え、成長を見守る」に「やる気と才能を引き出す」をプラスするのだ。教育の現場に携わる者すべてが子供の適正や才能を見つけるように努める、このことを肝に命じるのである。教育者が子供の適正や才能を見抜き、長所を誉めて伸ばす。
「みんな違って、みんな良い」(金子みすず)
人それぞれ違いが有り、長所が必ずある。教育者はその長所を伸ばし、将来社会貢献するように促すべきであろう。「適材適所」なのだ。
「我、人材なきを憂えず。人材用いざるを憂う」(吉田松陰)
すべての人が人材なのである。これまでいじめにあっていた子供でも、長所が認められれば、同級生から一目置かれるようになるかもしれない。結果として、いじめは無くなっていくだろう。また、子供が高いモチベーションを持ち、やる気になれば、難関大の合格率が必然的に上がり、教育格差も緩和されるのではあるまいか。
“Where there is a will, there is a way.(意思あるところに道は開ける)”
私が提言する21世紀型教育理念のスローガンは、従来の「教育」に”education”の”e”を加え、名付けて「e教育」。これこそが、21世紀の新たな教育理念となり、この新しい言葉が教育の船出への筏を提供してくれるものと堅く信じる。
2点補足させて頂きたい。
補足1:「e教育」の”e”には”education”の他に2つの意味を込めている。1つ目はパソコンや携帯電話を用いてインターネットやemailなどを活用する意味での”electronics”の”e”。2つ目はアルファベットを入れることにより、生徒にとって有益であると考えられる場合には、外部の協力を進んで取り入れる柔軟な姿勢である。
補足2:「学ぶ」は「まねる」に由来する。「まねる」という行為はそのオリジナルに対して「カッコイイ」とか「凄い」という敬意や憧れから自然に生じる。先生に対する生徒の敬意の度合いが増せば、学習効果は飛躍的に上がる。
「人間は人間によって人間になる。」(教育原理)
人を育てるのは人である。一人の教師が年平均250人の生徒を40年間に渡って教えるとすると、魅力溢れる教員はその生涯に一万人(250×40=10000)の若者に良き影響を与え得る。まさに「一粒万倍」。日本の素晴らしい人材育成の為に、魅力溢れる教員の育成は必要不可欠であり急務なのである。
【略歴】安藤勝美(あんどう かつみ) 代々木ゼミナール講師(英語)1994年中央大学大学院理工学研究科土木工学専攻博士課程前期中退。専門は流体力学。河合塾・東進ハイスクールを経て1999年より代々木ゼミナール講師(英語)。著書に「安藤の英語・前置詞で斬る!」「安藤の英語・英文読解アタック7」「安藤の英語・同意表現50」「安藤の英語・センター英語アクセス12」以上愛育社刊。共著に「クラウン受験英語(三省堂刊)」がある。10代から教壇に立ち、これまで25年間で年平均1000人以上の受験生を教えてきた。2011年以降は福島県立相馬高校での受験指導に協力している。