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Vol.303 世界医師会の「医の倫理原則」を誤訳したままの日医

医療ガバナンス学会 (2013年12月13日 06:00)


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大阪府保険医協会副理事長
武田 勝文
2013年12月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


*これは、平岡諦著『医師が「患者の人権を尊重する」のは時代遅れで世界の非常識』(ロハス・メディカル2013.7発行)に対する書評(「大阪保険医雑誌(2013年11月号)」に掲載)です。

著者は、この本の中で「医の倫理」を論じる中で、一貫して日本医師会、日本医学会の姿勢を批判している。世界医師会(WMA)は「患者の人権を擁護する」 ための医の倫理をジュネーブ宣言(1948)以降、多くの文書で発表してきた。これはナチス政権下で起きた「医師による、患者への残酷な人権侵害」に対する、反省と、痛烈な自責を原点としている。しかも、ナチス政権下ではこれらの医師による犯罪が合法であったことが最大の汚点で、医の倫理とは、法律より高 い基準の行為を要求し、医師に非倫理的行為を求める法には従わないことを要求する。

これは日本においても同様で、「合法化された非人道的な人体実験」に手を貸してきた医師は、戦時中731部隊に多く存在した。戦後においても、日本医師会 は悪法問題を処理しきれてない。例えば、ハンセン病患者の隔離政策という国策(悪法)を受けて、国会証言までして不要な長期隔離という患者の人権を侵害し た医師の存在を許した。患者の人権を擁護し、患者第一という医の倫理の原則に違反した医師を処分、再教育する自浄システム(マドリッド宣言)、人間を対象 とする医学研究の倫理的原則(ヘルシンキ宣言)なども発表された。

ジュネーブ宣言第9項の翻訳を日本医師会は「人命を最大限に尊重し続ける」としているが「時には他の意向を優先すること」もありうるともとれる。これは不 適切な訳で「人命、人権を最大限に優先して擁護する」と訳すべきである。世界医師会の新しい倫理原則を受け入れず、日医は古い倫理感にとどまったため、多 くの医療における人権侵害が繰り返されてきた。例えば水俣病事件、和田心臓移植事件、薬害エイズ事件などである。

戦時下の731部隊における医学犯罪では、法という時の権力の下に自らを置くことで医師たちは、非人道的人権侵害を合法化してきた。倫理性より法を上位におく御用学者の論理と同じであり、日本の医学界、科学界は現在でも、この誤った考えから脱しきれてない。

日医のゆがんだ倫理観は医療不信を国民の間に強め、警察、検察の医療界に対する不信感につながった。典型的な事例が福島県立大野病院事件であった。

日本医師会、日本医学会に今、求められている事は、医の倫理を「患者の人権を擁護する」に改め、731部隊の人体実験について、医学会総会の場で、徹底的に検証し、反省することである。

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