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Vol.307 アベノミクスから取り残された医療

医療ガバナンス学会 (2013年12月17日 06:00)


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診療報酬は実質マイナス改訂、医療の質低下は必至

※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。

http://jbpress.ismedia.jp/

武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕
2013年12月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


11月15日に開かれた経済財政諮問会議において、安倍総理は「新たな国民負担につながる措置は厳に慎まなければならない」として、2014年4月に改訂される診療報酬の引き上げは困難としました。
会議に参加した民間議員は、財政再建に向けて診療報酬の抑制と薬価のマイナス改定を提言しています。

●医療機関の3分の1は赤字という現状
これに対し、日本医師会の横倉義武会長は「(首相は)いつもと言っていることが違う」と記者会見で困惑の意を表明しています。
2014年4月から消費税が3%引き上げられるのに伴い、消費税が非課税の医療費は消費税負担増加分として少なくとも1.36%は引き上げられることが既定路線でした。
麻生財務大臣は、診療報酬の引き上げは歳出増になるとして、値上げできないと述べています。確かに診療報酬を引き上げると国の医療機関への支払いも増加します。
しかし医療機関が支払う消費税が3%増加するのに診療報酬を据え置きにするのは、医療機関から消費税増税分の収入を財務省が分捕るという話に他なりません (利用者が窓口で支払う医療費に消費税は発生しませんが、医療機関が薬や医療機器などを仕入れたりする代金、消耗品購入や外注費用には、全て消費税が課税 されています)。
安倍総理は引き上げ見送りの理由として「社会保障の歳出合理化、効率化に最大限取り組んでいく必要がある」と述べています。要するに、「単価を強制的に引き下げることで医療の合理化・効率化を促す」という意図なのでしょう。
しかし、現状で3分の1は赤字という医療機関にこれ以上負荷をかけるのは、もはや無理な注文です。「社会保障の歳出合理化、効率化」のために単純に報酬を引き下げるだけなら、政治本来の役割を果たしているとはとても言えないでしょう。

●単価の強制引き下げは医療の質低下をもたらす
診療報酬の消費税増税分の値上げすら認めず、実質マイナス改訂する安倍総理の方針に、「医療の合理化、効率化を促す施策だ」と拍手を送る方もいるかもしれません。
しかし、そもそも「合理化」とは”最大限の利潤を追求するための諸方策”であり、「効率化」とは”資源や財の配分について無駄をなくすこと”です。
医療費を強制的に値下げして、「合理化(利潤の最大化)」を推し進めるということは、可能な限り医療体制を手薄くして、可能な限り安物の機材を用いるということです。
そして「効率化(無駄のない財の配分)」とは、手間のかかる病気や患者よりも、簡単に施行可能な医療行為に人員と資源をつぎ込むということに他なりません。
いくら理由を付けようとも、診療報酬を減額することは「医療の質の低下を容認する」と言っているのと同じことなのです。

●医療の構造改革とサービスの線引きが進んでいない
2年前、私がフジテレビの「新報道2001」に出演して医療費増額を訴えた際、元厚生大臣の鴨下一郎氏に「ただ単純に医療費を増額すれば良いものではない。医療の構造的改革、サービスの線引きについての検討も必要」と指摘されました。その意見には賛同します。
このコラムで私が診療報酬増額を訴えると毎回コメントされるように、確かに単純に診療報酬を増額するだけでは本質的な改革にはならないでしょう。
しかし問題なのは、”医療の構造改革”と”医療サービスの線引き”に関する施策が2年経過した現在も明確な形で実現していないことにあります。
「外来受診の定額負担」「75歳以上の高齢者の慢性疾患を定額で治療する制度」「不要な延命治療をなくす終末期相談制度」などいろいろありますが、いずれも必要性が指摘され、検討されてはいるものの、実現のメドすらたっていないのが現状です。
医療費を単純に増額すれば済む話ではありませんが、医療費を減らせば良い方向に進むものでもありません。構造改革やサービスの線引きが目に見える形で行われていないことこそが一番の問題なのです。

●合理化、効率化を促す構造改革こそが本来の政治の仕事
医療費増額に関してドライに割り切ってしまえば、こういう問答ができるかもしれません。
「国民健康保険制度が(医療従事者に過酷な労働条件を課す)ブラック企業だと言うなら、文句を言わずにやめちゃえばいい」
「いや、これまで診てきている患者さんに対する責任もあるし、すぐにはやめられない」
「やめたらやめたで他の誰かがやるでしょう」
これも正論に違いありません。とはいえ、医療に対して情熱と誇りを持ち、クオリティの高い仕事をしている人たちをそんな気持ちにさせてしまうのは、明らかに制度設計が正しくないからだと言わざるをえません。
医療の構造を変える改革は、様々な部署との話し合いと調整が必要です。一筋縄では行かないことは分かりますが、それこそが政治の仕事なのだと思います。
ただ単に医療の価格を下げて合理化効率化を進めるという首相の発言は、政治家としての仕事を果たしていないと同時に、医療の質の低下を招くだけです。

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