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Vol.10 建設会社が院内感染対策の視点から検討した病院のあり方について

医療ガバナンス学会 (2014年1月16日 06:00)


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-まずはトイレから-

戸田建設株式会社
本社リニューアル工事部 部長  行武俊行
本社技術研究所 仕上材料チーム 袴谷秀幸
2014年1月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


今回、2013年10月23日~25日に開催されましたHOSPEX Japan 2013(東京ビックサイト)での展示会、及び同時に開催されました日本医療福祉設備学会にて報告致しました内容について、ご紹介の機会を頂きましたので記載させて頂きます。
今後、病院を新築・改築される場合のご参考になれば幸いです。

さて、戸田建設株式会社の病院建設への関わりは、これまでは建物竣工後のアフターケアについては、瑕疵対応(施工に起因する不具合対応)と、お客さまの建 物維持管理への側面からのバックアップを主体としておりました。しかし、近年は建物の長寿命化の傾向も有り、建物品質性能の更なる向上(快適性、生産性、 信頼性、環境保全性、顧客満足度等)、ファシリティコストの削減(水道光熱費、施設運用費、維持保全費等)、及びLCC(ライフサイクルコスト)の最適化 を積極的にお客さまに提案し、建物の生涯に渡って専門技術を有するサプライヤーとして、お客さまにハード・ソフト両面でのサービスを提供する方向へ転換し つつあります。

戸田建設株式会社は従来より医療福祉施設の設計・施工を得意とし、重要な事業展開領域として全社的に取組んでまいりましたが、前述の事業展開方針の一環と して「院内感染対策」を空間(ハード)と運用(ソフト)の両面から考慮した設計・施工・アフターケアを「施設まるごと」として展開することとし、2010 年より病院内のトイレを対象として調査研究を進めて来ました。

対象として病院内のトイレに注目した理由は、病院は清浄度別に区分け(ゾーニング)され、一般に院内感染対策を検討する場合には清浄度の高い(きれいな) 場所を対象として論じられることが多いですが、あえて清浄度の低い、すなわち病院内で汚染レベルが高いトイレに注目し、トイレから広がる感染を防止するこ とで、病院全体の院内感染対策レベルの上昇に繋がるものと考えたためです。
実際の調査で既存のトイレに多くの課題のあることが確認されました。空間(ハード)と運用(ソフト)の両面からトータルに対策を取る必要のあることが確認 され、具体的には次の3点を中心に調査・研究致しました。すなわち、空間的な項目としては、1)汚れ・埃を溜めない納まりと仕上表面の抗菌性能付与、2) 上から下への換気(汚れた空気を拡散させない)、運用的な項目としては、3)清掃用具・清掃ルール、及び清掃用具の洗浄・保管の明確化、としました。
これらの項目は、実務的な内容のため大学などでは研究テーマとなりづらく、情報も乏しいこと、建設会社が運用的な項目につい検討している例もほとんどみられないことから、新たな試みとして非常に貴重な研究例であり、意味のあることと考えております。

まず、1)については、光触媒の採用を検討しました。in vitroの実験(光触媒抗菌性能試験/JIS R1702)結果で、JIS規格菌(大腸菌、黄色ブドウ球菌)だけではなく、O-157、VRE、MRSA等に対しても十分な抗菌性能を示したことが実証 されました。一般に光触媒は外壁などに使用する例がほとんどでしたが、今回、実際の病院病棟トイレ(床、壁、便器、洗面台などに塗布)での実証試験(in field)により、塗布前後での抗菌性能を確認することができました。また、汚れの付着に関する調査では、実際の外壁の実験にて、約10年間、施工され た所とされない所で明らかな差が肉眼でも確認されました。これらの結果から、病院の内部に使用することで汚れや微生物の減少が期待され、清掃などの業務負 担の削減も可能と考えられました。

次に、2)については、トイレの「におい」や汚染(微生物の浮遊など)の問題を考え、適切な換気方法を検討するために、換気方法を変更できるモデルトイレ を筑波技術研究所内に設置しました。微生物を使用した実験は難しいため、今回は「におい」の動きについて確認しました。一般的な換気方法である下から給気 (扉ガラリ給気)、上から排気(天井排気)の実験では、トイレ全体に「におい」の拡散することが確認され、上から給気(天井給気)、下から排気(壁足元排 気)では「におい」が拡散せず、排気されることが確認されました。「におい」の源は便座脇の床(尿の飛散などを想定)に設置しました。「におい」の種類、 換気回数(強さ)などの影響もあると考えられますが、設計上かつ運用上、検討に値する結果と思われます。浮遊粉じんや浮遊する微生物をトイレ利用者が吸い 込まないようにするという点でも有用であり、上部換気扇の清掃負担も少なくなると考えられます。未だ検討すべき項目はありますが、換気のあり方に一石を投 ずる結果と思われます。

最後、3)については、建設会社には関連する清掃会社があるものの、今まで直接的に関係することのなかった項目です。今回、実際の病院内トイレを利用して 清掃前後の床とモップに残存する微生物数、熱水洗濯機による洗浄後のモップに残存する微生物数、房モップ(木綿)と平モップの違い、清掃の仕方への影響、 保管方法による微生物の繁殖の有無、などについて検討しました。その結果、清掃によって床の微生物はモップへ移行し、洗濯によって除菌されることが確認さ れました。その数値は、清掃後の床と洗濯後のモップとでほぼ同数となり、また、未使用のモップの数値にほぼ一致していることから、一般的な清掃が実施さ れ、洗浄後のモップが室温で保管されているといった管理状態にあるトイレの床での一般生菌数の具体的レベル(清掃でも除菌できない一般生菌数)が見えてき ました。すなわち、清掃しても病院のトイレでは102-3cfu/100cm2の一般生菌数が残存しているものと考えられました。一般生菌は清掃で完全に 「0」とならないということです。今後、病院内各部署の清掃前後の一般生菌数を測定することによって、清掃で除菌可能な一般生菌数、すなわち残存する一般 生菌数の基準が設定可能と考えられる結果でした。
なお、一般生菌の危険性については、今後の検討課題ですが、危険性のある微生物(日和見感染に関係する微生物や耐性菌)が存在するかどうかの確認は必要と考えられます。
また、房モップが清掃用具として不適切であることを以前から指摘してきましたが、平モップと比較して、清掃での床から汚れの除去率が低く、洗濯後に残存す る一般生菌数が多いこと等定量的に根拠つけることができました。今後は平モップを使用した清掃方法への改善が望まれるところです。
熱水洗濯では、設定温度が95℃と60℃とで残存する一般生菌数がほぼ同数(103cfu/モップ)となり、60℃での熱水消毒が可能となり得る結果でし た。ただし、30℃では105cfu/モップとなり、不十分であることが確認されました。今後、マイクロファイバー製平モップを推奨するには、その耐久性 を確保するために60℃前後での熱水洗濯を標準化することが必要と考えております。
さらに、清掃後24時間室温で保管すると一般生菌が急激に増殖した結果より、温湿度の管理された保管場所が必要であり、現在トイレに設置されている場所で の保管は不適であると考えられます。今回のHOSPEX Japan 2013の展示では、トイレの外部に、清掃用具等を保管し、熱水洗濯機も備えた「清掃ステーション」の設置を提案しました。

今後、院内感染対策の視点から検討してきました「院内感染対策トイレ管理システム」の実績を積み重ね、提案の客観性を確立すること、モデル病院を選定して さらなる検討を実施していくことを課題としております。加えて、トイレからの院内感染対策を病院全体へ拡大し、その効果を検証するとともに、院内感染対策 の視点からの設計提案を実施し、提案の結果、施設維持管理の効率化、安全性の確保、費用削減が図られることを検証していく予定です。

(参考資料)
・奥田舜治,他:「実環境における光触媒製品の抗菌性能評価に関する研究」,第39回日本防菌防黴学会(2012年9月)
・崎村雄一,他:「院内感染対策トイレシステムの構築に向けた基礎的研究 その1 光触媒コーティング剤の開発」, 第42回日本医療福祉設備学会(2012年11月)
・岡上晃, 他:「院内感染対策トイレシステムの構築に向けた基礎的研究 その2 院内実環境での測定と効果」, 第42回日本医療福祉設備学会(2012年11月)
・菊野理津子,他:「ATP測定法による病院トイレの改修前における清浄度評価」,第28回日本環境感染学会(2013年3月)
・飯塚千織理,他:「熱水洗濯機による使用済みモップの除菌効果確認予備試験-使用済みモップからの微生物抽出方の検討-」, 第40回日本防菌防黴学会(2013年9月)
・菊野理津子,他:「熱水洗濯機による使用済みモップの除菌効果確認試験-熱水洗濯機による除菌効果の確認-」, 第40回日本防菌防黴学会(2013年9月)
・崎村雄一,他:「院内感染対策トイレシステムの構築に向けた研究-病院トイレ内での清掃用具保管方法の検討-」, 第43回日本医療福祉設備学会(2013年10月)
・飯塚千織理,他:「院内感染対策トイレシステムの構築に向けた研究-使用済みモップにおける消毒の効果に関する検討-」,第43回日本医療福祉設備学会(2013年10月)

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