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Vol.9 ノバルティス社告発、真相解明を検察に「丸投げ」した厚労省

医療ガバナンス学会 (2014年1月15日 18:00)


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この記事はBLOGOS(2014年1月11日掲載)より転載したものです。

http://blogos.com/article/77710/

郷原総合コンプライアンス法律事務所代表
郷原 信郎
2014年1月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


厚生労働省は、1月9日、降圧剤バルサルタンの臨床試験疑惑で、データ操作された試験論文を違法に宣伝に使ったとして、法人としての製薬会社ノバルティスファーマと氏名不祥の社員を薬事法違反(誇大広告)容疑で東京地検に刑事告発した。

この問題は、国際的な医学雑誌にも掲載され、バルサルタンの効能や効果の広告に使われた全国の5大学での臨床試験に関して、データ操作が行われていたことが、大学の調査などで明らかになり、日本の臨床研究の信頼を損ないかねない重大な問題として注目を集めていたものだ。

昨年(2013年)8月、当ブログでも、ノバルティス疑惑、独禁法適用の可能性 厚労省にとって「最悪の事態」も と題して、この問題に関して、厚労省の 薬事法による対応が十分に行われないようであれば、独禁法の不公正取引の禁止規定を適用して、公取委が調査に乗り出す可能性があることを指摘した。

また、「法と経済のジャーナル」に掲載された【高血圧薬ディオバン問題、難航する真相解明 検察、公取委の出方は?】と題する私のインタビュー記事では、 「国から薬の製造販売承認を得るために行う「治験(臨床試験)」ではなく、薬の販売後に薬の効能に関して行われる「臨床研究」に関する問題であり、薬事法 の規制の対象外で、厚労省の承認などの本来の守備領域の問題ではないので、厚労省の調査には限界があること、不正なデータ操作を行ったノ社の社員が不正の 動機も含めて真相解明することができるとすれば、被疑者の身柄拘束も可能な刑事事件の捜査によるしかなく、検察が独自に捜査に乗り出すことになる可能性も あり得ることを指摘した。

この問題が、最終的に、刑事事件の捜査に委ねられることになったこと自体は、私の指摘通りだったと言える。

しかし、それは、検察が独自に主体的に捜査に着手するという形ではなかった。ノバルティスファーマ社告発という「厚労省側のアクション」によって刑事事件化されることになった。

官公庁の告発は、刑訴法の「その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない」という規定(239条2項)に基づいて行われるが、この「思料」は、それなりの根拠に基づく必要があることは言うまでもない。

ところが、厚労省側の説明や、報道から伺われる検察側の反応からすると、厚労省は一応調査を行ったものの、行為者を特定できず、ノバルティス社内で臨床研 究の不正と広告とがどのような関係なのかも具体的に明らかにできず、ほとんど大学の調査結果やマスコミ報道で生じた「疑惑」だけで告発を行ったように思え る。国家機関が行う告発としては極めて異例と言わざるを得ない。

捜査を担当する東京地検特捜部は、事実解明を「丸投げ」され、ほとんどゼロから証拠収集を行わざるを得ないのに、官公庁の告発事件である以上、軽々には不起訴にもできないという意味で、大きな捜査の負担を背負い込むことになった。

今回の告発については、マスコミ各社が「厚労省1月8日に告発」と報じたのに、実際には同日には告発は行われず、「ノバルティス告発を先送り」などと報じられた後、翌日の9日に告発という不可解な経過をたどった。

各社が一斉に報じたことからすると、当初「8日告発」が予定されていたことは間違いないのであろう。殆ど中身のない告発状であるから、内容の修正で1日延期する必要が生じたとも思えない。

検察側としては、事実解明を「丸投げ」する内容で、凡そ本来の「官公庁の告発」のレベルではないのに、マスコミに「偉そうに」告発の日まで予告する厚労省側の姿勢に怒り、厚労省に「告発1日延期」を強く求めたと見るべきであろう。

医薬品の研究開発はアベノミクスの三本の矢の一つの成長戦略の柱である。それだけに、我が国の医薬品研究に対する国際的信頼を損ないかねないバルサルタン 問題の真相解明は、政府にとって避けて通れない重要な問題である。政府内の所管としては、薬事行政を担当する厚労省の問題であるが、前記インタビューでも 述べたように、真相解明は、結局のところ、刑事事件としての捜査によらざるを得ない問題であった。

そうであるだけに、検察としては、早期に独自の捜査に着手することを検討すべきだったとも言えるが、一方、厚労省としては、何とかして真相解明を実現した いのであれば、検察に捜査を要請し、自らは「裏方」となって水面下で捜査に協力し、刑事立件の目途がついた段階での告発をめざすという方法もあり得た。

調査に数か月を空費した挙句、結局のところ事実を殆ど解明できず、被疑者不祥のままの告発を行って検察に丸投げするという厚労省のやり方が検察側の反発を招いたために、もともと困難であった本件の真相解明は、一層困難になったように思える。

とは言え、告発を受理した以上、検察は、今後、ゼロからの捜査に取り組まざるを得ない。薬事法違反(誇大広告)の刑事立件に関する問題点、今後予想される捜査の展開などについては、次のブログで述べることにしたい。

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