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Vol.28  Tokyo CML Conferenceグループによる、医師主導という臨床試験の問題点

医療ガバナンス学会 (2014年2月4日 18:00)


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質の異なる、新たなCOI(利益相反)問題

健保連大阪中央病院
顧問 平岡 諦
2014年2月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


国や製薬企業の意向が、医師を介して、医療に大きな影響を与えるようになりました。これを「医療の社会化」と呼びます。前稿(MRIC Vol.22, 2014.1)で取り上げた「バルサルタン論文不正問題」は、まさにその一例です。要約すると次のようになります。

■営業成績を挙げたいという社員の意向と、シェアの拡大を図りたいという製薬企業の意向が一致して、企業からの金が研究者たちに流れたと考えられます。そ の意向を見抜けなかった(あるいは、判っていて目をつぶった?)教授や学会の幹部という肩書を持つ主任研究者(医師)を介して、日本の臨床研究のレベルの 低さを世界的に知らしめることになりました。■

主任研究者たちには製薬企業から資金や労務提供が行われたであろうし、製薬企業は発表論文を元に自社製品のプロモーションを行いました。したがって、この問題は、医師主導という臨床研究における「研究成果の発表段階でのCOI問題」ということができます。

今回報道されたTokyo CML Conferenceグループによる医師主導臨床研究は、「研究の実施段階でのCOI問題」と言うことができるようです。主任研究者たちには製薬企業から 資金(東京大学を迂回して?)や労務提供が行われたであろうし、製薬企業にとっては研究の実施そのものが自社製品のプロモーションになるという構造です。
報道された理由は、医師主導臨床研究でありながら製薬企業(ノ社)の社員の関与が明らかになったからです。当初は書類の配達・回収ぐらいの関与かと思われ ていましたが、その後の調査では倫理委員会へ提出する「研究実施計画書」や患者さんへの「説明文書」の作成にも関与していた可能性(すなわち「製薬企業主 導の臨床研究」の可能性)が出てきているようです。製薬企業側の意向、研究の資金源、主任研究者および主任研究者の所属組織の倫理性について、順に見てい きます。

まず製薬企業の意向です。「研究の実施そのものが自社製品のプロモーションである」という認識が明瞭にあったようです。そのことを最も端的に示しているのが社内のインセンティブ・プログラムです。報道機関に送られたノ社からの回答メールの概要です。

■ブロック(営業所に相当)対抗戦と個人戦の二種類があり、IRB(施設内倫理委員会)の審議通過を確認できた時、先生がアンケートを実施したことが確認 できた時、そして、副作用マネジメントの結果タシグナ(筆者註;自社製品の名前)に薬剤が変更された時、ポイントが付与され、ポイントに応じて賞品が贈呈 されました。■

イノベーション・プログラムの内容から、「研究成果の発表段階」ではなく、「研究の実施自体」を表彰していることが判ります。「研究の実施自体」が自社製 品のプロモーションになるような臨床研究、それは製薬企業にとって大変都合のよい臨床研究です。研究自体を都合のよい形にする為には、「研究実施計画書」 や「説明文書」の作成に社員が関与する必要があります。社員がどのように関与したかは今後の詳しい調査を待つしかありません。しかし、「研究実施計画書」 や「説明文書」にその痕跡が残っているはずです。関与した社員にも「良心の呵責」があっただろうからです。

倫理委員会に提出する「研究実施計画書」の「利益相反と研究資金源」の項には次のように記載されています。

■本研究の計画、実施、発表に関して可能性のある利益相反(conflict of interest)はない。利益相反とは、研究成果に影響するような利害関係を指し、金銭および個人の関係を含む。■

「本研究の計画、実施、発表に関して可能性のある利益相反は無い」と断定しておきながら、続いて、利益相反の定義を「研究成果」に限定しています。限定す ることにより「本研究の計画、実施」に影響を与える利益相反を隠していることになります。断定と限定、関与した社員の「良心の呵責」をここに見てとること が出来ます。
患者さんへの「説明文書」でも同様です。「研究の組織・資金源・利益相反について」の項には次のように記載されています。

■臨床研究が、研究者や企業の利益のためになされるのではないかとか、研究についての説明が公正に行われないのではないかといった疑問が生じることがあり ます。このような状態を「利益相反」-患者さんの利益と研究者や企業の利益が相反(衝突)している状態-と呼びます。この研究は金銭的な利益やそれ以外の 個人的な利益のために専門的な判断を曲げるようなことは一切ありません。また研究薬の企業との雇用関係ならびに親族や師弟関係等の個人的な関係なども一切 ありませんので、この研究では「利益相反」することはありません。■

「研究実施計画書」と同様に、「利益相反することはありません」と断定しながら、「利益相反」が影響する範囲を「専門的な判断(すなわち研究成果)」や 「雇用関係ならびに親族や師弟関係などの個人的な関係」に限定しています。裏返せば「本研究の計画、実施」に影響を与える利益相反を隠していることになり ます。断定と限定、ここでも「良心の呵責」が働いたのでしょう。
「研究実施計画書」でも「説明文書」でも、利益相反を限定することによって、「研究の計画、実施」において生じる利益相反が隠されてしまいました。その 結果、これらを読んだ関係医師たち、さらに施設内倫理審査委員会も、「社員(を介した製薬企業)の意図」を見抜けなかったのでしょう。ただ、研究資金の流 れを知る研究代表者はこれに気付いていたはずです。見て見ぬふりをしたのでしょう。

次にこの研究の資金源を見ていきます。「研究実施計画書」の「利益相反と研究資金源」の項には次のように記載されています。

■本研究は、Tokyo CML Conferenceの資金により実施する。■

「説明文書」では「研究の組織・資金源・利益相反について」の項がありますが、その中に資金源の説明はありません。もう一つ、研究の資金源が公開されてい るものに、UMIN-CTRがあります。UMINとは全国42の国立大学病院のネットワーク組織です。すべての医学・医療関係者が利用できる研究教育の情 報インフラストラクチャーとなっています。目的の一つが「医学研究の支援」です。その一つにUMIN-CTRという臨床試験登録システムがあります。目的 は臨床試験に関する情報公開です。ICMJE(医学雑誌編集者国際委員会)の基準を満たす臨床試験登録サイトにもなっています。そこにこの研究が、登録番 号000008995で登録されています。現在は「参加者の募集は中断」となっていますが登録内容は次のようになっています。

■責任研究者名;黒川峰夫・東大医学部付属病院血液・腫瘍内科教授、実施責任組織;東京CML カンファレンス、研究費提供組織;東京大学■

研究資金について、「研究実施計画書」では「Tokyo CML Conferenceの資金」、「説明文書」では項目を掲げるも説明はなく、公開のために登録したUMIN-CTRでは「研究費提供組織;東京大学」と なっています。研究費(おそらく、本研究に必要以上の金額)が、ノ社から東京大学を迂回して、研究代表者に渡っているのだろうと考えられます。これほどバ ラバラな記載になっている理由は、製薬企業の意向を知りながら(おそらく余分な)研究資金を受け取ることへの、研究代表者の「後ろめたさ」の表れなので しょう。
「バラバラの記載」に見えますが、そこには次のような研究代表者の考えが見てとれます。「研究実施計画書」は倫理委員会に提出されます。そこに「研究組織 (Tokyo CML Conference)の資金」と記載されておれば疑問は出されません。「説明文書」は患者に渡ります。患者は自身のことで頭の中はいっぱい、研究の資金 源が書いていなくてもそれに気付く患者はいないでしょう。UMIN-CTRで公表される内容を見るのは臨床研究に相当詳しい人たちです。そこで資金源が 「Tokyo CML Conference」となると、製薬企業からの資金の流れを考えるのが当然です。そこでここは「東京大学」としたのでしょう。ウソではないが本当のとこ ろを正直に書かない(あるいは書けない)、このような研究代表者の考えが、「バラバラの記載」の理由でしょう。

最後にこの研究の研究代表者の倫理性、および代表者が所属する組織の倫理性について考えてみます。
まず黒川峰夫・研究代表の肩書、立場などです。黒川峰夫・研究代表は東大付属病院の血液・腫瘍内科の教授です。日本血液学会の理事を務めています。日本血 液学会は日本医学会の主要な分科会の一つです。日本医学会の会長は高久史麿・元東大第三内科教授です。高久史麿氏が教授時代にがん遺伝子の研究室を新設し て招聘したのが、後に東大の血液・腫瘍病態学(血液・腫瘍内科)教授になった平井久丸氏です。残念ながら平井久丸教授は教授就任後、約3ヶ月で急逝されま す。その後を継いで教授となったのが、その時の医局長で講師をしていた黒川峰夫・研究代表です。黒川峰夫・研究代表は、それ程に高久史麿・日本医学会会長 と近い位置にある方だと言うことです。平井久丸氏が高久史麿・会長の長男弟子とすれば、黒川峰夫・研究代表は次男弟子と言うことになります。しかし黒川峰 夫・研究代表は「親の心子知らず」、高久史麿・日本医学会会長の高い志を踏みにじってしまったようです。

高久史麿会長は、平成22年4月に日本医学会内に臨床部会利益相反委員会を設け、平成23年2月には「医学研究のCOIマネージメントに関するガイドライン」を公表しています。
■関連分科会が産学連携による会員の医学研究に関連して関係企業との金銭関係を自己申告で開示するルールを提示し、マネージメントの在り方について提案(日本医学会hpより)■するためです。ガイドラインには「基本的な考え方」として次のように記載されています。

■経済的なCOI状態が生じること自体に問題があるわけではなく、施設・機関がそれらを適切にマネージメントし、不適切な医学研究が行われないようにする仕組みを構築することができるか否かが重要な点である。■

日本医学会のガイドラインに則り、日本血液学会を含む内科系14学会は平成23年3月に「臨床研究の利益相反(COI)に関する共通指針」を実施すること になります。実施方法として「会員」に求めているのは「研究成果を発表する時に、利益相反状態を開示する」ことです。一方、「役員などの責務」は次のよう に記載されています。

■本学会の役員(理事長、理事、監事)(中略)は、本学会に関わるすべての事業活動に対して重要な役割と責務を担っており、当該事業に関わる利益相反状況 については、就任した時点で所定の書式にしたがい自己申告を行うものとする。また、就任後、新たに利益相反状態が発生した場合には規定に従って、修正申告 を行うものとする。■

日本血液学会の定款を見ると次のようになっています。

■(目的)血液学の発展に意義のある学術的研究を支援し、(中略)学術の発展および福祉の向上に寄与することを目的とする。(事業)その(3)教育、研究及び学術調査の実施、その(4)研究の奨励及び研究業績の表彰。■

黒川峰夫・日本血液学会理事は、Tokyo CML Conferenceという臨床研究組織の代表となり、「医師主導臨床研究」を行って、定款に示された事業の「重要な役割」を果たすべく努力をしていると いうことになります。しかし、この研究が「製薬企業主導の臨床研究」ではないかと言う疑惑が持ち上がりました。当然ながら、製薬企業から研究代表者への 「裏金」の存在が疑われます。
患者への「説明文書」には記載せず、倫理委員会へ提出する「研究実施計画書」には「Tokyo CML Conferenceの資金」と記載し、公表されるUMIN-CTRでは「資金源は東京大学」となっています。なぜ、このようなバラバラな記載になってい るのでしょうか。なぜ東京大学はTokyo CML Conferenceに資金を提供する必要があるのでしょうか。資金の流れやその額を知っている研究代表者が、これらのすべてを社会が納得するように説明 する必要があります。資金の流れに倫理的な問題がないのであれば、なぜ、ノ社自体が認めている社員の関与、それを「医師主導臨床研究」で認めたのか、その 理由を社会に説明する必要があります。これが黒川峰夫・研究代表に求められている倫理性です。
製薬企業の意向からは自立(independence)し、自己規制(self-regulation)によって「患者第一;To put the patient first」の臨床研究を行う、これが「医師主導臨床研究」のはずです。このような「医師主導臨床研究」に、なぜ「製薬企業の社員」の関与を許したのか、 そこが問われているのです。COIの問題とは、第一に、研究代表者の自律性(世界医師会の言う「Clinical autonomy;個々の医師としての自律」)が問われているということです。

つぎに日本血液学会の立場です。日本血液学会は内科系14学会の「臨床研究の利益相反(COI)に関する共通指針」を受け入れ、それを実行しつつあり、 「役員などの責務」として「利益相反状況について、自己申告する」ことを役員などに求めていることは先に述べました。さらに指針は「利益相反委員会の役 割」、「理事会の役割」を次のように述べています。

■利益相反委員会は、本学会が行うすべての事業において、重大な利益相反が会員に生じた場合、あるいは利益相反の自己申告が不適切で疑義があると指摘され た場合、当該会員の利益相反状態をマネージメントするためにヒアリングなどの調査を行い、その結果を理事長に答申する。理事会は、役員などが本学会の事業 を遂行するうえで、重大な利益相反状態が生じた場合、あるいは利益相反の自己申告が不適切であると認めた場合、利益相反委員会に諮問し、答申に基づいて改 善措置などを指示することができる。■

報道されたTokyo CML conferenceによる「医師主導臨床研究」は、実は「製薬企業主導の臨床研究」である可能性が強くなってきています。そのような臨床研究の研究代表 者である黒川峰夫・日本血液学会理事は、「重大な利益相反状態が生じた場合」に相当します。理事会は利益相反委員会に諮問し、利益相反委員会はヒアリング などの調査を行い、その結果を理事長に答申する必要があります。利益相反委員会では自己申告に基づく研究資金のながれに倫理的問題がないかどうか、もし、 無いなら、なぜ、「医師主導臨床研究」に製薬企業の社員の関与を許したのか、その理由を明らかにしなければなりません。理事会はその答申に基づいて改善措 置などを指示することになります。日本血液学会として、社会にその内容を公表する必要があります。そうしなければ、日本血液学会という医師集団としての責 務が果たせません。
「To err is human;人は過ち犯すもの」です。会員(理事を含め)が過ちを起こさないように「自己申告」規定により過ちを予防し、もし利益相反が生じて「患者第 一」ではなく「製薬企業の意向を優先」した場合は、「改善措置などを指示することができる」としたのは、日本血液学会という医師集団としての自己規制シス テム(a system of self-regulation)です。日本血液学会という医師集団が製薬企業から自立(independence)しているかどうかが問われていること になります。COIの問題とは、第二に、医師集団としての日本血液学会の自律性(世界医師会マドリッド宣言の言う「Professional autonomy;医師集団としての自律」)が問われているということです。

「患者第一」の医療を行うため、第三者の意向より何より「患者の人権を擁護する」ための「医の倫理」を作ってきたのが世界医師会です。それは、「個々の医 師の自律;clinical autonomy」と、それをバックアップする「医師会(医師集団)としての自律(professional autonomy)」という構造を持っています。さらに各国の医師会をバックアップするのが世界医師会です。「臨床研究の利益相反に関する共通指針」の内 容も、これと同じ構造を持っています。「患者第一」の臨床研究(本来の「医師主導臨床研究」)を行うためには、研究代表者は「製薬企業の意向」から自立 (independence)し、「患者第一」を考えた(self-regulation)研究実施計画書を作成しなければいけません。しかし、時に「製 薬企業の意向を優先」させる可能性があるので、組織としてバックアップする必要があります。それが各分科会(今回は日本血液学会)にある予防するための自 己申告制度、および起きた場合は「改善措置など指示」できる(賞罰・教育制度)という自主規制のシステム(a system of self-regulation)、すなわち医師間の相互評価のシステムです。そして各分科会をバックアップするのが日本医学会と言うことになります。

報道されたTokyo CML conferenceによる「医師主導臨床研究」の最大の問題は、「医師主導」の意味を研究代表者はじめ、関係者すべてが明確に理解していない点です。 「患者第一」を守り、「製薬企業の意向など、第三者の意向」を優先させない「医師」、そのような医師が「主導」する「臨床研究」であることを明確に理解し ていない点です。「説明文書」の「この臨床研究について」には次のように記載されています。

■この臨床研究は、臨床研究の中でも「研究者(医師)主導臨床試験」に分類されます。研究者(医師)主導臨床試験は、研究者(医師)が主体となって非営利 で行うもので、これまで厚生労働省で承認された薬剤や治療法、診断法などを用いて、その中から最良の治療法や診断法の確立を目的としています。(以下は、 「治験」との違いが述べられているだけで省略)■

医師が「主体」的に、「非営利」的に行っても「医師主導臨床研究」ではありません。このような理解不足がこの研究を「患者にとって」ではなく「製薬企業にとって」の「最良の治療法」を求める研究になってしまったのです。

なぜ、このようなことが起きるのでしょうか。「バルサルタン論文不正問題」を論じた前稿でも述べたように、つまるところ、日医の「医の倫理」に問題がある からです。それは「患者の人権を尊重する」だけの「医の倫理」です。このような「医の倫理」の下では、日本の医師が「尊重するが、時には第三者の意向を優 先してもよいではないか」と思ってしまうのです。日医の「医の倫理」を、「尊重する」から「患者の人権を擁護する」に改めない限り、同様の医療問題は無く ならないでしょう。そして、医療不信が増強されるのです。

「臨床研究の利益相反(COI)に関する共通指針」は次のように述べています。

■他の領域の産学連携研究とは異なり、医学研究の対象・被験者として健常人、患者などの参加が不可欠である。医学研究に携わる者にとって、資金および利益 提供者となる企業組織、団体などとの利益相反状態が深刻になればなるほど、被験者の人権や生命の安全・安心が損なわれることが起こりうるし、研究の方法、 データの解析、結果の解釈が歪められるおそれも生じる。また、適切な研究成果であるにもかかわらず、公正な評価や発表がなされないことも起こりうる。■

今回のTokyo CML Conferenceグループによる「医師主導臨床研究」は、「研究の方法が歪められた」という、これまでとは質の異なる、新たな利益相反(COI)問題 と言うことができます。日本医学会を頂点とする日本の医学界全体の、新たな種類の倫理問題です。これまでに何度も訴えてきましたが、「731医学の検証 (反省)」という根源の問題に日本医学会が取り組まないかぎり、いつまでたっても日本の医学界は変わらないのです。高久史麿会長のご英断を期待していま す。

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